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105『西之島市役所の邂逅』
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銀河太平記
105『西之島市役所の邂逅』越萌マイ(児玉隆三)
西之島市の市長は元国交省の及川軍平だ。
及川は数年前に、パルスガ鉱の商業採掘が可能になって、発展が見込まれるというので、それまで自治区同然だった西之島を本土並みの管理、つまり、美味しいところは全部国が持っていくための政府責任者として送られてきた。
しゃくし定規に本土の制度や法律を導入して、短時日の間に開発の主導権を握ろうとしたが、社長・村長・主席をリーダーとする島民の怒りを買った。
危うく、ナバホ村のマヌエリト村長に殺されそうになったが、同時に、その不手際を政府から糾弾され西之島開発局長の任を解かれ、あやうく西之島でホームレスになりかけたところを、カンパニー社員食堂のお岩さんに拾われて、一島民として生きていく決心をしたのが五年前の秋。
紆余曲折はあったが、その行政手腕と総合力を買われて西之島市の初代市長に押されたのだ。
「いやあ、さすが及川君だ、敵の尻の毛まで読んでいたなあ」
髪の毛のことごとくが鼻の下に移動したような頭をピシャピシャやりながら孫大人は面白がった。
「やつらの考えていることは、省益と身の保全です。それを担保にするような提案には乗って来ません」
「これで、三度目の持ち帰りになったな」
「北区の新規事業は総合開発です。採鉱、選鉱、輸送、移民、IR誘致、総合リゾート開発、国防拠点造成、新教育機構の構築、水産事業、宇宙港、それらをいっぺんにやろうというのです。国交省や通産省の官僚の手には負えません」
「まるでレプリケーターのメニューのようだ」
「なにをおっしゃる。孫大人こそ、世界の五本の指に入ろうかというコングロマリットではありませんか」
「コングロマリット……他の奴が言うと嫌味だが、及川君に言われると誉め言葉に聞こえる」
「いや、じっさい褒めてるんです。我々が目指すのは海のマンチュリア、壮大な志が無ければ実現できません」
「そうさなあ……マンチュリアは良くやっているが、北はロシア、南に漢明中華が地続きだ。そこへ行けば西之島は四方が海。世界の30%の産出力を誇るパルス鉱。氷室カンパニー、ナバホ村、フートンで培われた突破力、団結力。それに、及川君の人脈と行政力だ。儂の方こそ期待しているよ」
「相手は日本政府です、一見与しやすいが、老獪です。背景には皇室の権威と国民の『和を以て貴しとなす』の空気があります」
「そうだな、日本人の『みなさんそうなさってます』根性は侮りがたい……」
「行政的汚れ仕事は全てわたしが引き受けます、その他の汚れ仕事は孫大人が引き受けてください」
「及川の倅も言うようになったもんだ」
ワハハハハハハハ(^O^)(^Д^)
孫大人と及川市長の高笑いは、少しだけ男前にした越後屋と悪代官のようだ(^_^;)
「あははは……(^_^;)」
さすがのメイも頬が引きつってる。
「どうして、ここまで見せるんですかあ」
「いやあ、越萌姉妹社とは裏表のない付き合いをしたいんでなあ」
「西之島市の行政コンセプトは透明性ですから」
そう言うと、笑いながら、ホログラムのスイッチを切る市長。
わたしとメイが訪れる直前まで、国交省と通産省の役人を凹ませていたところだ。
「お待たせしました、それでは西之島北東部開発について……」
「市長、それはホログラムでは無くて、リアルの現場を見てやりましょう」
「それは、いいご提案です。では、担当部署の責任者も同行してもらいます。もしもし、総務課長……」
総務課長に連絡をとろうとする及川を孫大人が制した。
「市長、越萌さんとも久方ぶりなんで、儂の車で行くよ。いいだろマイさん」
「はい、喜んで」
「お姉ちゃん、わたしは市長さんと行くわ。担当の人たちの顔早く見たいから」
「そう、じゃあ現地でね」
「あらあ、馬なんですか?」
駐車場に下りると二頭の馬(オートホース)が繋がれている。
「少しの間、北大街の昔を思い出すのもいいでしょう、元帥」
「フフ、元帥はモスボールしましたよ」
「じゃあ、お互い幻になったつもりで……ほら、日も高くなって、道に逃げ水も揺蕩うている」
「そうね……では、行くか」
ポックリポックリと北区の新開発地区を目指した。
百メートルも行かないうちに市役所のマークを付けたバンが追い抜いて行く。同乗の役人たちには、コングロマリットの総帥孫大人と越萌姉妹社の越萌社長がいい仲に見えたかもしれない。
あの満州の野は『北京秋天』の青空が似合ったが、西之島には蒼空に湧き出でる入道雲が似つかわしく思えた。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
105『西之島市役所の邂逅』越萌マイ(児玉隆三)
西之島市の市長は元国交省の及川軍平だ。
及川は数年前に、パルスガ鉱の商業採掘が可能になって、発展が見込まれるというので、それまで自治区同然だった西之島を本土並みの管理、つまり、美味しいところは全部国が持っていくための政府責任者として送られてきた。
しゃくし定規に本土の制度や法律を導入して、短時日の間に開発の主導権を握ろうとしたが、社長・村長・主席をリーダーとする島民の怒りを買った。
危うく、ナバホ村のマヌエリト村長に殺されそうになったが、同時に、その不手際を政府から糾弾され西之島開発局長の任を解かれ、あやうく西之島でホームレスになりかけたところを、カンパニー社員食堂のお岩さんに拾われて、一島民として生きていく決心をしたのが五年前の秋。
紆余曲折はあったが、その行政手腕と総合力を買われて西之島市の初代市長に押されたのだ。
「いやあ、さすが及川君だ、敵の尻の毛まで読んでいたなあ」
髪の毛のことごとくが鼻の下に移動したような頭をピシャピシャやりながら孫大人は面白がった。
「やつらの考えていることは、省益と身の保全です。それを担保にするような提案には乗って来ません」
「これで、三度目の持ち帰りになったな」
「北区の新規事業は総合開発です。採鉱、選鉱、輸送、移民、IR誘致、総合リゾート開発、国防拠点造成、新教育機構の構築、水産事業、宇宙港、それらをいっぺんにやろうというのです。国交省や通産省の官僚の手には負えません」
「まるでレプリケーターのメニューのようだ」
「なにをおっしゃる。孫大人こそ、世界の五本の指に入ろうかというコングロマリットではありませんか」
「コングロマリット……他の奴が言うと嫌味だが、及川君に言われると誉め言葉に聞こえる」
「いや、じっさい褒めてるんです。我々が目指すのは海のマンチュリア、壮大な志が無ければ実現できません」
「そうさなあ……マンチュリアは良くやっているが、北はロシア、南に漢明中華が地続きだ。そこへ行けば西之島は四方が海。世界の30%の産出力を誇るパルス鉱。氷室カンパニー、ナバホ村、フートンで培われた突破力、団結力。それに、及川君の人脈と行政力だ。儂の方こそ期待しているよ」
「相手は日本政府です、一見与しやすいが、老獪です。背景には皇室の権威と国民の『和を以て貴しとなす』の空気があります」
「そうだな、日本人の『みなさんそうなさってます』根性は侮りがたい……」
「行政的汚れ仕事は全てわたしが引き受けます、その他の汚れ仕事は孫大人が引き受けてください」
「及川の倅も言うようになったもんだ」
ワハハハハハハハ(^O^)(^Д^)
孫大人と及川市長の高笑いは、少しだけ男前にした越後屋と悪代官のようだ(^_^;)
「あははは……(^_^;)」
さすがのメイも頬が引きつってる。
「どうして、ここまで見せるんですかあ」
「いやあ、越萌姉妹社とは裏表のない付き合いをしたいんでなあ」
「西之島市の行政コンセプトは透明性ですから」
そう言うと、笑いながら、ホログラムのスイッチを切る市長。
わたしとメイが訪れる直前まで、国交省と通産省の役人を凹ませていたところだ。
「お待たせしました、それでは西之島北東部開発について……」
「市長、それはホログラムでは無くて、リアルの現場を見てやりましょう」
「それは、いいご提案です。では、担当部署の責任者も同行してもらいます。もしもし、総務課長……」
総務課長に連絡をとろうとする及川を孫大人が制した。
「市長、越萌さんとも久方ぶりなんで、儂の車で行くよ。いいだろマイさん」
「はい、喜んで」
「お姉ちゃん、わたしは市長さんと行くわ。担当の人たちの顔早く見たいから」
「そう、じゃあ現地でね」
「あらあ、馬なんですか?」
駐車場に下りると二頭の馬(オートホース)が繋がれている。
「少しの間、北大街の昔を思い出すのもいいでしょう、元帥」
「フフ、元帥はモスボールしましたよ」
「じゃあ、お互い幻になったつもりで……ほら、日も高くなって、道に逃げ水も揺蕩うている」
「そうね……では、行くか」
ポックリポックリと北区の新開発地区を目指した。
百メートルも行かないうちに市役所のマークを付けたバンが追い抜いて行く。同乗の役人たちには、コングロマリットの総帥孫大人と越萌姉妹社の越萌社長がいい仲に見えたかもしれない。
あの満州の野は『北京秋天』の青空が似合ったが、西之島には蒼空に湧き出でる入道雲が似つかわしく思えた。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
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