205 / 393
193『春の七草』
しおりを挟む
銀河太平記
193『春の七草』メグミ
せり~なずな~ごぎょう~はこべら~ほとけのざ~すずな~すずしろ~
思わず口をついて出てしまう。
早春の西之島は休戦状態とは思えない長閑さで、春の七草を鼻歌のように節をつけてそらんじてしまう。
「七草って、みんな同じ順序で言うよね、なんでだろ?」
巫女服にタスキ掛けのハナちゃんがアレコレ摘みながら聞く。
「ああ、和歌になってるのよ」
「ワカって『なにわづに さくやこのはな ふゆごもり いまや春べと さくやこのはな』って、やつだよな?」
「そうそう、ハナちゃん、序歌覚えたんだ」
「アハハ、かるた会の最初にやるからね。それに、最後の『さくやこのハナ』って、すごく感じいいし(^▽^)」
「あ、そうだね。なんだかハナちゃんの歌みたいだね」
「だろ! でもさ……『すずなすずしろ』で終わったら、字足らずじゃね?」
「ああ、最後に『これぞ七草』って締めになるのよ」
「え……せりなずな・ごぎょうはこべら・ほとけのざ・すずなすずしろ……これぞななくさ。ほんとだ!」
「でしょ」
「アハハ、和歌っていうか日本語っておもしろいよなぁ」
「あ、それは、ただの雑草だよ」
「え、ああ、こっちは分かりにくいなあ」
漢明とは、あれ以来休戦が続いている。島の南部にはわずかだけど漢明軍が駐留しているが、大統領の命を守って大人しくしている。
年末には氷室神社の敷地だけ返還されて鳥居に賽銭箱だけの神社だけど、三が日には島民やボランティア兵たちが初詣して賑わった。創建の時、シゲ老人が『本殿は海と空だ!』と言い放った時は横着なインチキ神主と思ったけど。これはいいアイデアだ。海と空なんて、核兵器やパルス兵器を使っても壊しようがない。
神明造の鳥居は材木が四本あれば簡単にできるし、あり合わせの箱を賽銭箱にしてしめ縄の一つでもかけておけば立派な神社だ。
ちょっと妖し気な神主(シゲ老人)と巫女(ハナ)だけど、なんだか神代の昔からのやっているという雰囲気で好ましい。
「どう、少しは採れたかい?」
お岩さんが気の毒なほどの汗をかきながらやってきた。
「いちおう採ったけどよ、全部OKかどうかは自信ねえぞ」
「どれどれ……ああ……すこし違うのが混じってるねえ」
「使える?」
「まあ、仕方ないよ、戦闘でひっくり返されて雑草と一緒くたに生き残った七草だからね」
「足りねえ分はレプリケータだな」
「まあ、島のみんなに行き渡らせようと思ったら仕方ないさ。あ、それより、昼から久々に作戦会議だって、ベースで二時から」
「え、二時! じゃあ、急がなくっちゃ」
「なんだ、厨房はハナひとりかぁ?」
「終わったら、一気に作るから、昼寝でもして待ってな。あ、薬塗んの忘れないようにな」
「もう飽きたぜ、あの薬、傷跡がヒカヒカしちまってよ」
「ちゃんと治さないと、傷跡残ったままになるよ」
「いやあ、もう、こんなガラッパチな性格だからよ、こんくらいでいいよ」
「大事にしな、女の子なんだから!」
「わ、分かったよ。あ、メグミの持ってってやるよ、かしな」
「え、いいの?」
「ハナは力持ちだからよ、メグミこそ飯くらい落ち着いて食っていけよ」
「ありがとう、じゃ、頼むね。行こう、お岩さん」
「ああ、じゃあな、厨房は頼んだよ」
「おお、任しとけ(^▽^)」
ドンと胸を張って手を振るハナ。
笑顔が、ちょっといびつ。敵に待ち伏せ攻撃(147『待ち伏せ』)をかけた時に首の半分を失って、ラボで再生してやった。新造した方が早いのだけど「オリジナルがいい」と言って修理で済ませている。この戦争が本格的に終わったら、きちんと時間をかけて治してやろうと思う。
二時からの会議は五分前には始まり、児玉元帥から気になる報告があった。
「敵は小笠原の東方、春の七草海山群、ホトケノ座に拠点を築きつつあります」
さっき、七草を採っていたばかりなので、一瞬冗談かと思った。
☆彡この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス 月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院 扶桑城啓林の奥にある祖廟
193『春の七草』メグミ
せり~なずな~ごぎょう~はこべら~ほとけのざ~すずな~すずしろ~
思わず口をついて出てしまう。
早春の西之島は休戦状態とは思えない長閑さで、春の七草を鼻歌のように節をつけてそらんじてしまう。
「七草って、みんな同じ順序で言うよね、なんでだろ?」
巫女服にタスキ掛けのハナちゃんがアレコレ摘みながら聞く。
「ああ、和歌になってるのよ」
「ワカって『なにわづに さくやこのはな ふゆごもり いまや春べと さくやこのはな』って、やつだよな?」
「そうそう、ハナちゃん、序歌覚えたんだ」
「アハハ、かるた会の最初にやるからね。それに、最後の『さくやこのハナ』って、すごく感じいいし(^▽^)」
「あ、そうだね。なんだかハナちゃんの歌みたいだね」
「だろ! でもさ……『すずなすずしろ』で終わったら、字足らずじゃね?」
「ああ、最後に『これぞ七草』って締めになるのよ」
「え……せりなずな・ごぎょうはこべら・ほとけのざ・すずなすずしろ……これぞななくさ。ほんとだ!」
「でしょ」
「アハハ、和歌っていうか日本語っておもしろいよなぁ」
「あ、それは、ただの雑草だよ」
「え、ああ、こっちは分かりにくいなあ」
漢明とは、あれ以来休戦が続いている。島の南部にはわずかだけど漢明軍が駐留しているが、大統領の命を守って大人しくしている。
年末には氷室神社の敷地だけ返還されて鳥居に賽銭箱だけの神社だけど、三が日には島民やボランティア兵たちが初詣して賑わった。創建の時、シゲ老人が『本殿は海と空だ!』と言い放った時は横着なインチキ神主と思ったけど。これはいいアイデアだ。海と空なんて、核兵器やパルス兵器を使っても壊しようがない。
神明造の鳥居は材木が四本あれば簡単にできるし、あり合わせの箱を賽銭箱にしてしめ縄の一つでもかけておけば立派な神社だ。
ちょっと妖し気な神主(シゲ老人)と巫女(ハナ)だけど、なんだか神代の昔からのやっているという雰囲気で好ましい。
「どう、少しは採れたかい?」
お岩さんが気の毒なほどの汗をかきながらやってきた。
「いちおう採ったけどよ、全部OKかどうかは自信ねえぞ」
「どれどれ……ああ……すこし違うのが混じってるねえ」
「使える?」
「まあ、仕方ないよ、戦闘でひっくり返されて雑草と一緒くたに生き残った七草だからね」
「足りねえ分はレプリケータだな」
「まあ、島のみんなに行き渡らせようと思ったら仕方ないさ。あ、それより、昼から久々に作戦会議だって、ベースで二時から」
「え、二時! じゃあ、急がなくっちゃ」
「なんだ、厨房はハナひとりかぁ?」
「終わったら、一気に作るから、昼寝でもして待ってな。あ、薬塗んの忘れないようにな」
「もう飽きたぜ、あの薬、傷跡がヒカヒカしちまってよ」
「ちゃんと治さないと、傷跡残ったままになるよ」
「いやあ、もう、こんなガラッパチな性格だからよ、こんくらいでいいよ」
「大事にしな、女の子なんだから!」
「わ、分かったよ。あ、メグミの持ってってやるよ、かしな」
「え、いいの?」
「ハナは力持ちだからよ、メグミこそ飯くらい落ち着いて食っていけよ」
「ありがとう、じゃ、頼むね。行こう、お岩さん」
「ああ、じゃあな、厨房は頼んだよ」
「おお、任しとけ(^▽^)」
ドンと胸を張って手を振るハナ。
笑顔が、ちょっといびつ。敵に待ち伏せ攻撃(147『待ち伏せ』)をかけた時に首の半分を失って、ラボで再生してやった。新造した方が早いのだけど「オリジナルがいい」と言って修理で済ませている。この戦争が本格的に終わったら、きちんと時間をかけて治してやろうと思う。
二時からの会議は五分前には始まり、児玉元帥から気になる報告があった。
「敵は小笠原の東方、春の七草海山群、ホトケノ座に拠点を築きつつあります」
さっき、七草を採っていたばかりなので、一瞬冗談かと思った。
☆彡この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス 月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院 扶桑城啓林の奥にある祖廟
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる