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242『ハルハ川沿いの戦い』
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銀河太平記
242『ハルハ川沿いの戦い』孫大人
敵の騎兵部隊は横に広がった。広がっても、その厚みはさして薄くなったとも思えず、その数五千ほど、背後には後詰がおるかもしれず、一個師団は優にいるだろう。
先頭の千余の騎兵が差し渡し二キロほどの横隊になるのに三十秒もかかっていない。
横に広がった分、進撃速度は落ちるが、テムジンの部隊も突撃しているので自分たちの進撃速度は重要ではない。
「包み込まれて殲滅されるよ(''◇'')」
ハンベで鳥観図に変換した戦場の映像は数分後のテムジン隊の全滅を予測させた。
テムジンが左手を上げ、グルッと回して左を指した。
すると、左翼の二騎が俄然速度を上げて敵の右翼に周る。
一騎は敵の右翼の外へ。もう一騎は人馬共々背を低くして敵の右翼中央に突撃していく。
「え、殺されるわよ!」
春鈴が叫ぶ。右翼の外に周った一騎はともかく中央の一騎は接触と同時に倒されるだろう。
「中央のをズームしてくれ」
「う、うん」
春鈴がタッチすると、画面は中央に迫る一騎をアップにした。
戦場をくまなく観察するために、複数の蜂型のカメラロボットを飛ばしてある。そのうちの一つが中央に迫る一騎を大写しにした。
とたんに消えた!
「違う、後ろに飛んだ!」
「え?」
「馬の腹にブースターを付けてんの、それを逆噴射して後ろに飛んだ!」
とたんに、敵右翼の三割ほどがなにかに躓いてもんどりうって倒れる。
「ワイヤーかなにかを張ったんだ!」
そうか、二騎でワイヤーを張って敵右翼の馬たちの脚を絡めとったんだ!
飛び退る瞬間にワイヤーの端を地面に打ち込んで固定したんだ。跳び退るという意外な動きで、敵はワイヤーもワイヤーが打ち込まれたことも気づいていない。
倒れた馬は百に近いだろう。すかさず、テムジンは自分の左翼を引き連れて突進、混乱する敵右翼の残敵に飛びかかっていく。
ズドド ズドドド パパン ズドン パパパン ズドン パパン
彼我の銃声が響く。
テムジンは敵の混乱に乗じて部隊を突撃させる。
前方の数百は壊滅して残りも混乱させたが、この突撃は少し無謀だ。多勢に無勢、各個に包まれて摺りつぶされてしまう……と思ったが、テムジンは全部の馬にブースターを取り付けさせていて、リアル馬とは思えない挙動と敏捷さで馬を操り、正確に銃撃を加える。
ズドドド パパン ズドン パパパン ズドン パパン ズドド
「あれ?」
春鈴が声を上げると、敵の後方で混乱が起きている。
「おお、ゴルジン!?」
敵右翼の外側を周っていたのはゴルジンだったのだ。そのゴルジンが反対側の敵左翼の後ろから出てくると、敵後尾の数十騎がバタバタと倒れて土煙が上がっている。
「そうか、ゴルジンは後ろからワイヤーを引き回してるんだぁ(^▽^)!」
春鈴が喜ぶが、敵も馬鹿ではない、さっさと足元のワイヤーを切って無力化する。
敵は十分足らずで三割の騎兵を打ち倒され、テムジンの損害は十騎余りに止まっている。
敵は進撃を停めた。
「もう一度立て直して向かって来るでしょうねえ(^へ^)。」
ここでポップコーンを渡してやったら、ムシャムシャ食べてサッカーの観戦でもするような感じの春鈴。
儂も、これから戦の本番と腰を落ち着けるが、ちょっと様子がおかしい。
シュポポーーーン シュポポーーーン
敵は、そこいらじゅうに対人地雷を撒くと、馬を下りて塹壕を掘りだした。
「持久戦に持ち込むつもりかしらね」
「増援があるのかもしれん、健康な兵は半分ちょっとだろうしなあ」
ようやく敵も持ち直し、うかつには手出しできなくなって二時間近くが経過した。
その間、いつの間に出したのか、斥候たちが一騎二騎と戻って来る。
都合四騎ほどから報告を聞いて、テムジンは回覧板を回すような気楽さで、こちらに寄ってきた。
「これは陽動だ、敵の主力は西に集中している」
それだけ言うと自分の配置に戻り、さっと手を挙げるとたちまち千騎余りの騎馬部隊が一斉に西に走った。全馬ブーストをかけているので、あり得な速度になる。儂と春鈴の馬にはブーストの機能が無いので、ポックリポックリ普通の速度で移動。
そのコントラストがなにかオチョクッテいるように見えるのか、目の前には自分たちが撒いた地雷も残っていて、敵は直には追撃には移ってこなかった。
☆彡この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー
テムジン モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉 胡盛徳大佐の養女
朱 元尚 大佐 ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス 月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院 扶桑城啓林の奥にある祖廟
242『ハルハ川沿いの戦い』孫大人
敵の騎兵部隊は横に広がった。広がっても、その厚みはさして薄くなったとも思えず、その数五千ほど、背後には後詰がおるかもしれず、一個師団は優にいるだろう。
先頭の千余の騎兵が差し渡し二キロほどの横隊になるのに三十秒もかかっていない。
横に広がった分、進撃速度は落ちるが、テムジンの部隊も突撃しているので自分たちの進撃速度は重要ではない。
「包み込まれて殲滅されるよ(''◇'')」
ハンベで鳥観図に変換した戦場の映像は数分後のテムジン隊の全滅を予測させた。
テムジンが左手を上げ、グルッと回して左を指した。
すると、左翼の二騎が俄然速度を上げて敵の右翼に周る。
一騎は敵の右翼の外へ。もう一騎は人馬共々背を低くして敵の右翼中央に突撃していく。
「え、殺されるわよ!」
春鈴が叫ぶ。右翼の外に周った一騎はともかく中央の一騎は接触と同時に倒されるだろう。
「中央のをズームしてくれ」
「う、うん」
春鈴がタッチすると、画面は中央に迫る一騎をアップにした。
戦場をくまなく観察するために、複数の蜂型のカメラロボットを飛ばしてある。そのうちの一つが中央に迫る一騎を大写しにした。
とたんに消えた!
「違う、後ろに飛んだ!」
「え?」
「馬の腹にブースターを付けてんの、それを逆噴射して後ろに飛んだ!」
とたんに、敵右翼の三割ほどがなにかに躓いてもんどりうって倒れる。
「ワイヤーかなにかを張ったんだ!」
そうか、二騎でワイヤーを張って敵右翼の馬たちの脚を絡めとったんだ!
飛び退る瞬間にワイヤーの端を地面に打ち込んで固定したんだ。跳び退るという意外な動きで、敵はワイヤーもワイヤーが打ち込まれたことも気づいていない。
倒れた馬は百に近いだろう。すかさず、テムジンは自分の左翼を引き連れて突進、混乱する敵右翼の残敵に飛びかかっていく。
ズドド ズドドド パパン ズドン パパパン ズドン パパン
彼我の銃声が響く。
テムジンは敵の混乱に乗じて部隊を突撃させる。
前方の数百は壊滅して残りも混乱させたが、この突撃は少し無謀だ。多勢に無勢、各個に包まれて摺りつぶされてしまう……と思ったが、テムジンは全部の馬にブースターを取り付けさせていて、リアル馬とは思えない挙動と敏捷さで馬を操り、正確に銃撃を加える。
ズドドド パパン ズドン パパパン ズドン パパン ズドド
「あれ?」
春鈴が声を上げると、敵の後方で混乱が起きている。
「おお、ゴルジン!?」
敵右翼の外側を周っていたのはゴルジンだったのだ。そのゴルジンが反対側の敵左翼の後ろから出てくると、敵後尾の数十騎がバタバタと倒れて土煙が上がっている。
「そうか、ゴルジンは後ろからワイヤーを引き回してるんだぁ(^▽^)!」
春鈴が喜ぶが、敵も馬鹿ではない、さっさと足元のワイヤーを切って無力化する。
敵は十分足らずで三割の騎兵を打ち倒され、テムジンの損害は十騎余りに止まっている。
敵は進撃を停めた。
「もう一度立て直して向かって来るでしょうねえ(^へ^)。」
ここでポップコーンを渡してやったら、ムシャムシャ食べてサッカーの観戦でもするような感じの春鈴。
儂も、これから戦の本番と腰を落ち着けるが、ちょっと様子がおかしい。
シュポポーーーン シュポポーーーン
敵は、そこいらじゅうに対人地雷を撒くと、馬を下りて塹壕を掘りだした。
「持久戦に持ち込むつもりかしらね」
「増援があるのかもしれん、健康な兵は半分ちょっとだろうしなあ」
ようやく敵も持ち直し、うかつには手出しできなくなって二時間近くが経過した。
その間、いつの間に出したのか、斥候たちが一騎二騎と戻って来る。
都合四騎ほどから報告を聞いて、テムジンは回覧板を回すような気楽さで、こちらに寄ってきた。
「これは陽動だ、敵の主力は西に集中している」
それだけ言うと自分の配置に戻り、さっと手を挙げるとたちまち千騎余りの騎馬部隊が一斉に西に走った。全馬ブーストをかけているので、あり得な速度になる。儂と春鈴の馬にはブーストの機能が無いので、ポックリポックリ普通の速度で移動。
そのコントラストがなにかオチョクッテいるように見えるのか、目の前には自分たちが撒いた地雷も残っていて、敵は直には追撃には移ってこなかった。
☆彡この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー
テムジン モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
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須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
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王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉 胡盛徳大佐の養女
朱 元尚 大佐 ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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