銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお

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252『朱元尚張り倒される』

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銀河太平記

252『朱元尚張り倒される』 メグミ 




「フーちゃんを助ける!」

 ひとこと言うとマイさん(児玉元帥)は窪地を飛び出した。

 同時にわたしも飛び出す。ハナも同時に飛び出して、マイさんは0.02秒だけハナを視線の端に捉え、構わずに突き進む。

「そばを離れないで」

 一言だけハナに命じた。

 西之島戦争を経験した三人に、こまかな指示は要らない「フーちゃんを助ける」というだけで、戦術的な目安は決まっている。

 フーちゃんに向かって来るロシア兵を排除してフーちゃんを漢明の部隊に戻すことだ。広報とはいえ軍服を着たフーちゃんをこちらで保護することは憚られる。劉宏も前衛の一個分隊をだけしか救出の為に出していない。
 状況的には一個大隊を動かして完全を期さなければならないんだろうけど、そんなことをすれば本格的に漢明とロシアとの大戦争になってしまう。

 だから、マイさんはハナには命じたんだ。そばに居させておく限り、ハナが世界大戦を始めてしまう気遣いはないだろうし、青銅の騎士を相手をしながらの救出には十分役に立つ。

 漢明の分隊は数体の青銅の騎士に阻まれているけど、三騎ずつが当たってフーちゃんと朱准将に近づかせないようにしている。残りの騎兵は逃げ道確保のため啓開にあたっている。

 不十分だ。

 今さらに自分が窮地に陥っていることに気づいた朱元尚はオロオロするばかり。フーちゃんが泣きそうな顔でなだめたり逃げ道を示すが、ロクに聞いていない。その狼狽えぶりは馬にもうつって、オートホースのはずであるのにロデオに出たリアル馬のように暴れまわっている。

「いっそ、朱元尚のおっさんぶち殺してフーちゃん一人逃がしてやるのが早いぜ!」

 ハナが正論を言うけど、仮にも准将、死なれては漢明軍はじっとしているわけにはいかなくなるだろう。

「とにかく青銅の騎士を無効化、めぐみさんは一人でやって!」

「はい!」

 漢明兵が手を焼いている青銅の騎士に向かってジャンプ!

 一瞬目が合った漢明兵に「交给我吧 (まかせて)!」と叫ぶ。

 青銅の騎士の首に飛びつくわたしに目を丸くするが、味方であることは分かったみたいで、引き続き比較的弱点の手足の関節への攻撃を続ける。

 マイさんやハナほどではないけど、わたしもラボや診療所を守るため、西之島戦争では十数体のロボットを無力化した。こいつらの弱点は関節は第二なんだ。第一は首の後ろにあるサーキット。漢明製もロシア製も大きな違いは無いはずだ。
 むろん、首やら肩のアーマーで保護されているけれど、首に取りついてさえしまえば、意外と楽に処理できる。

 問題は、激しく動き回るロボットの首に掴まることだが、数多の戦闘を経験した三人には難しくはない。

 ガガガガガ ガガガガガ

 実直な漢明兵が足の関節を集中的に攻撃、騎士の首が膝に向いてアーマーと首の間に隙間ができ、その隙間にレーザータガーをぶち込み出力を最大にする。

 ピューーーン

 一丁上がり!

 ドシャ

 騎士が倒れる音を後ろに聞いて、次の騎士に取り掛かる。

 所要時間は30秒ほど、まだまだ天狗党で鍛えた腕は衰えていない。

 次、まだ馬を失っていない騎士に取り掛かる。視界の端にマイさんとハナが共同で騎士を倒しているのが見える。

 連携がとれていて、次に見た時には、もう三体目にかかっていた。

 しかし、易々と青銅の騎士を討ち取られ黙っているロシア軍ではない。一般騎兵たちがモンゴル騎兵の隙を縫って二騎、三騎とこちらに向かって来る。

 メグさん感謝!

 声に驚いて一瞬目を向けると、野戦服の上だけを兵隊のに換えた劉宏元帥が馬の背から騎士の首に飛びつくところだった。

 二秒で青銅の騎士を無力化した劉宏元帥は、たちまち朱元尚の馬を突き止め、鞭で朱元尚を絡めとると自分の馬の鞍壺に引き寄せる。

 パン!

 盛大な音をさせて朱元尚の顔を張り倒す。

 正気に戻すというよりは、ショックで動けなくさせ、馬の首に掴まらせたまま自分の旅団目がけて駆け去っていく。

 ありがとうございました!

 フーちゃんが泣き笑いでお礼を言いながらそれを追いかけ、残った分隊も空に向けて一斉射すると旅団の待つ方角に走り去っていった。

 
 マイさんがボートに戻ってきたのは、それから三十分以上経ってからだった。

「いやあ、どういうわけか孫大人まで出向いてきていてね、テムジンも居たもんだから馬乳酒で乾杯してきた」

「え、孫大人もですか?」

「あいつ、きれいな女の人連れてやがってよ、ちょっと冷やかしたら……」

「まあ、言ってやらないでよ。大事にしてるみたいだったし」

「えへへ、弱みを握るってのは面白れぇかもな」

「ハナ、人が悪くなったぁ」

「まあいい、とりあえず戦争の芽は摘み取れた」

「マイさん、元帥に戻ってます」

「アハハ(^_^;)」

「なあ、帰ったらよぉ……」

 ゆっくりお風呂に入ろうということにまとまって、一路西之島に向け、ボートはモンゴル平原を東に走った。

 


☆彡この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要語句

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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