銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお

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271『酔っ払いでいっぱいになる前に温泉に』

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銀河太平記・271

『酔っ払いでいっぱいになる前に温泉に』 東鈴 




 そのガキはジョッキと唐揚げを載せた小皿を持つと――気分わるい!――という感じで二つ隣りのテーブルに行ってしまった。

 それから30分ほど配膳やら厨房の手伝いをすると、臨時に召集されたアルバイトの子たちがやってきて、お岩さんたちと小休止。

「さっきの子はねえ、ああ見えても扶桑科学研究所の主任研究員なんだよ。むろん立派な大人さ」

「あのチビッ子が?」

「おお、テルって言ってよ、なんかの調査の為に昨日来たばっかりだ」

「調査?」

「ああ、なんでも、こないだのノモンハン事変の調査をするのに協力して欲しいって、殿下と交渉中なんだよ」

「モンゴルのやつらは気難しい、いきなり火星のチビッ子が行ったって協力なんかしてもらえねえしな」

「ああ、そう言えば、戦場にこっちの元帥……あ、いまはマイさんだったけ来てたわね」

「おお、青銅の騎士が気になるってマイさんが言うもんでよ。ハナもメグさんといっしょに行ってたんだぞ」

「ええ……あ、マイさんのそばでチョロチョロ駆けまわってるのいたあ!」

「チョロチョロ言うなあ」

「ああ、ごめんごめん(^_^;)」

「青銅の騎士って、ちょっと頑丈なだけのポンコツだったんだろ。マイさんも取り越し苦労だったみたいな様子だったし……あ、市長」

 お岩さんが振り向いた先、厨房の裏口から半身を覗かせているバーコードのオッサンが「あ、どうもぉ」という感じで手を振っている。

「紹介しとくよ、こっち西之島市市長の及川軍平さんだ。こちらは孫大人の秘書で東鈴。たった今までフロアのヘルプやってもらってたんだ」

「あ、どうも、市長の及川です……」

「え、リアル名刺! 初めて見ました!」

「アハハ、ちょっとしたこだわりでして。インパクトあるでしょ(^○^;)」

「なんで裏口から入ぇってくんだよ、市長なら堂々と表からくりゃいいのによ」

「いや、厨房から少し観察……いや、変な意味じゃないですよ……よし、じゃあ、いきますか」

「今夜は泊っていきなよ、この分じゃ朝まで飲んでいそうだし」

「はい、いま、その決心をしたところです。素面に戻るのは明後日になりそうですから、またいずれ東鈴さん(^_^;)」

 けして役人的なそれではない笑顔を見せてフロアに行く市長。ググると元は国交省のキャリア官僚。西之島の市長になるにはいろいろあったんだろうなと想像する。

「そうだ、バイトの子たちも来てくれたし、ひとっぷろ温泉に浸かってきたらそうだい。夕方になったら酒臭いやつらでいっぱいになっちまうからさ」

「え、いいのか!?」

「いいさ、神社の方も神主があのざまだし」

 なるほど、シゲジイ神主は真っ赤な顔で孫悟や殿下とできあがってしまってる。


 カッポーーーン  ザザザザーーーー


 それだけで心がほぐれそうな音にひかれて温泉に浸かる。

 西之島は火山島なので、島のどこを掘っても温泉が湧き出そうなものだけど、地下水に限界があるので、自然なままで温泉になるところは意外に少ない。

「ここはよ、落盤事故の始末してる時に見つかった温泉なんだけどよ、戦争で整備が遅れてたのをやっと完成させたとこなんだ」

 説明しながらクルクルと裸になるハナ。巫女服の時は気づかなかったけど、胸から下、太ももの途中までの肌がツギハギでケロイドになっているところもある。アッケラカンとはしているけど、壮絶な人生を送ってきたことが偲ばれる。

「あ、ごめん。まだ皮膚の再生済んでないとこがあってよ、まあ、風呂に浸かったら見えなくなるからカンベンな(^_^;)」

「あ、ううん」

「メグさんとかは、さっさとやっちまおうって言うんだけど、あの手術は半日以上かかってよ、術後も激しい運動はダメとかカッタルくってよ、ノビノビにしちまって。まあ、性格の方はノビノビしてっからカンベンだ」

「プ( ´艸`)」

「あ、シャレるつもりはなかったんだけどな……東鈴はきれいな肌してんなあ……触っていいか?」

「うん、、いいよ」

「じゃ、ちょっとだけ……スリスリ……スリスリ……このスベスベ感は並のもんじゃねえなあ」

「あ、そうかなぁ」

 と応えながら、自分でもハッとする。鈴麗の一部を移植してから、どうも体の一部が変化しつつある。でも、それはマイナーチェンジ的なもので、自己点検しても特段驚いたりするものでもなく、驚いたり興味を持つものでもないと放ってある。

 入口の方で人の気配、目を向けると湯気の向こうに幼児体形のシルエット。

 一発で分かって、取りあえずお詫びを言う。

「さっきはすみませんでした!」

「ヒ!」

 いきなりだったのでビックリしてツルリンと滑った。

 ザバ!

 ハナがワープするようなスピードで飛び出し、転倒しきる前に幼児体形を助けた!


 

☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 

 
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