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1『ランチを食べ損ねる』
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泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
1・『ランチを食べ損ねる』
ノリスケが休みなので一人で食堂を目指す。
食堂の前で嫌なものに出くわした。
数学の堂本が女子をいたぶっているのだ。
「担任の指示を聞けないなんて、もう、終わってるぞ」
「『考査一週間前につき生徒入室禁止』の札がかかってました」
「俺の呼び出しの方が優先だ。札の注意書きよりも担任の口から出たことの方が重要なのはあったりまえじゃねーか! それをシカトして食堂直行くってか、いい度胸してるよなー!」
「直行したのは職員室です。ドアに手を掛けたら、南先生に『テスト前だ』って札を示されて……」
「百地の担任は俺だ、南先生じゃないだろ、なんでドア開けて声かけないんだ!」
「お昼食べたら、もっかい来ようって……」
「俺の指導より昼飯が大事なのか!」
「そうじゃないです、そうじゃなくって……」
「いいかげんなんだよ! 百地のこと思って指導してんのに、そんな反抗的な顔されたんじゃやってらんねーだろーが!」
「そんなつもりはありません」
「あるよ、その不足そうな口、まるでΣじゃねーか、その根性直さなきゃ進級なんかできねーぞ! 聞いてんのか!」
「……………」
「どーなんだ!」
食堂前のそこだけ凍り付いて、腹ペコの生徒たちも避けて入って行く。
小五の時に見た教育映画を思い出した。ワニが子どものガゼルを襲うんだけど、他のガゼルは、関係ねえって感じで通り過ぎていくとこ。
……俺はめずらしく頭に来た。
「ちょっといいっすか」
「なんだお前は!?」
堂本は怒りのワニのまんま、俺に顔を向けた。
「『入室禁止だけど、声かけて入ればいいから』くらい言っておくべきだと思うんすけど」
「なんなんだお前は!?」
あ、俺のこと覚えてねーってか?
「一年の時習ってた妻鹿雄一っすよ。俺も成績のことで呼び出されて同じよーなことがあった」
「あーーーω(オメガ)か」
怒りの上に蔑みの表情を付けてきやがった。
理屈の通る顔じゃない、食堂に出入りする生徒たちが交通事故の現場をスルーするような感じで行きかう。
中にはクラスの女子なんかも居てωってところではクスリと口を押えていきやがる。
早くも俺は後悔し始めている。
「札には教務部長ってあるじゃないっすか、生徒は教務部長の方が重いって感じますよ。これは堂本先生の間違いなんだって、俺の時もそう言いましたよね、先生は『善処する』って言ったように思うんですけど」
「言ったかもしれないけど、常識で判断したら、ちっとは気をきかそうってことになれよ、いつまでも中坊じゃねーんだから」
「問題すりかえないでくださいよ」
「おまえもなー、人にもの言う時は、もうちょっと真面目な顔で言えよ。ニタニタ笑いながらじゃまともに相手なんかしてらんねーよ、だからωなんてあだ名が付いちまうんだぞ」
チ、ωって、学校じゃあんたが言いだしたんじゃねーか。
「あだ名は関係ないっすよ。とにかく、昼休みの食堂前での説教はヤボでしょ、先生は外にも食べに行けるし、時間空いてりゃ五時間目だって食べられる。生徒は今しかないんだから、とりあえずは止してください。さ、行こう」
その場の勢いで、俺はΣ(名前が出てこない)の腕をとって食堂に入った。
後ろで堂本が喚いているがシカトする。
「どうもありがとう」
蚊の鳴くような声でお礼を言うΣ。涙声なので聞こえないふりをする。
「あー、ランチとかは売り切れってか……マジ、飯前のトラブルはありえねーよなー」
「すみません」
「ハハ、きみが悪いわけじゃねーし。そーだ、麺類でスペシャルがあるんだ、任せてくれる?」
「う、うん……」
表情は不足そうだけど、気持ちはそうじゃなさそうなのでリードを続ける。こういう場合の女の子をホッタラカシにしてはいけないというのはひい祖父ちゃんの遺言だ。
「おばちゃん、例のやつ。きみ、並んどいてくれる」
カウンターで声を掛けておいてから食券を買いに行く。
順番がきてトレーに乗っけられたものを見て、Σは目を丸くした。
こういうときでも彼女の口はΣだ。
でも、堂本とちがって、不足そうだとは思わない俺ではあった。
1・『ランチを食べ損ねる』
ノリスケが休みなので一人で食堂を目指す。
食堂の前で嫌なものに出くわした。
数学の堂本が女子をいたぶっているのだ。
「担任の指示を聞けないなんて、もう、終わってるぞ」
「『考査一週間前につき生徒入室禁止』の札がかかってました」
「俺の呼び出しの方が優先だ。札の注意書きよりも担任の口から出たことの方が重要なのはあったりまえじゃねーか! それをシカトして食堂直行くってか、いい度胸してるよなー!」
「直行したのは職員室です。ドアに手を掛けたら、南先生に『テスト前だ』って札を示されて……」
「百地の担任は俺だ、南先生じゃないだろ、なんでドア開けて声かけないんだ!」
「お昼食べたら、もっかい来ようって……」
「俺の指導より昼飯が大事なのか!」
「そうじゃないです、そうじゃなくって……」
「いいかげんなんだよ! 百地のこと思って指導してんのに、そんな反抗的な顔されたんじゃやってらんねーだろーが!」
「そんなつもりはありません」
「あるよ、その不足そうな口、まるでΣじゃねーか、その根性直さなきゃ進級なんかできねーぞ! 聞いてんのか!」
「……………」
「どーなんだ!」
食堂前のそこだけ凍り付いて、腹ペコの生徒たちも避けて入って行く。
小五の時に見た教育映画を思い出した。ワニが子どものガゼルを襲うんだけど、他のガゼルは、関係ねえって感じで通り過ぎていくとこ。
……俺はめずらしく頭に来た。
「ちょっといいっすか」
「なんだお前は!?」
堂本は怒りのワニのまんま、俺に顔を向けた。
「『入室禁止だけど、声かけて入ればいいから』くらい言っておくべきだと思うんすけど」
「なんなんだお前は!?」
あ、俺のこと覚えてねーってか?
「一年の時習ってた妻鹿雄一っすよ。俺も成績のことで呼び出されて同じよーなことがあった」
「あーーーω(オメガ)か」
怒りの上に蔑みの表情を付けてきやがった。
理屈の通る顔じゃない、食堂に出入りする生徒たちが交通事故の現場をスルーするような感じで行きかう。
中にはクラスの女子なんかも居てωってところではクスリと口を押えていきやがる。
早くも俺は後悔し始めている。
「札には教務部長ってあるじゃないっすか、生徒は教務部長の方が重いって感じますよ。これは堂本先生の間違いなんだって、俺の時もそう言いましたよね、先生は『善処する』って言ったように思うんですけど」
「言ったかもしれないけど、常識で判断したら、ちっとは気をきかそうってことになれよ、いつまでも中坊じゃねーんだから」
「問題すりかえないでくださいよ」
「おまえもなー、人にもの言う時は、もうちょっと真面目な顔で言えよ。ニタニタ笑いながらじゃまともに相手なんかしてらんねーよ、だからωなんてあだ名が付いちまうんだぞ」
チ、ωって、学校じゃあんたが言いだしたんじゃねーか。
「あだ名は関係ないっすよ。とにかく、昼休みの食堂前での説教はヤボでしょ、先生は外にも食べに行けるし、時間空いてりゃ五時間目だって食べられる。生徒は今しかないんだから、とりあえずは止してください。さ、行こう」
その場の勢いで、俺はΣ(名前が出てこない)の腕をとって食堂に入った。
後ろで堂本が喚いているがシカトする。
「どうもありがとう」
蚊の鳴くような声でお礼を言うΣ。涙声なので聞こえないふりをする。
「あー、ランチとかは売り切れってか……マジ、飯前のトラブルはありえねーよなー」
「すみません」
「ハハ、きみが悪いわけじゃねーし。そーだ、麺類でスペシャルがあるんだ、任せてくれる?」
「う、うん……」
表情は不足そうだけど、気持ちはそうじゃなさそうなのでリードを続ける。こういう場合の女の子をホッタラカシにしてはいけないというのはひい祖父ちゃんの遺言だ。
「おばちゃん、例のやつ。きみ、並んどいてくれる」
カウンターで声を掛けておいてから食券を買いに行く。
順番がきてトレーに乗っけられたものを見て、Σは目を丸くした。
こういうときでも彼女の口はΣだ。
でも、堂本とちがって、不足そうだとは思わない俺ではあった。
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