泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

武者走走九郎or大橋むつお

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50『よくできた過年度生』

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泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

50『よくできた過年度生』小菊 





 めったに「兄ちゃん」とは呼ばない。「腐れ童貞」とか「あんた」で済ましている。

 だって、あいつは本当に腐っているんだからね!

 あたしと同じDNAだからルックスが悪いわけじゃないんだ、根性が腑抜けなわけよ。

 人と争うことが嫌いってか、根性無しだから、人とぶつかりそうになったらフニフニ笑ってごまかす、かと言って、孤高の独立独歩なんて出来ないから上っ面だけ人や世間に迎合している。なにごとも普通がいいとか言って努力ってことをしない。

 ヘタレ中のヘタレなんよ。

 長年のフニフニが染み付いてしまって、口がωの形になってやんの。

 だから、人からは雄一とかゆう君とかは呼ばれないで「オメガ」だもんね。

 そんなあいつは、女の子とも、きちんと向き合えないから童貞なんだ。

 高校生で童貞ってのは不思議じゃないんだけど、あいつは改善の見込みがないから、一生童貞で終わること確定!

 江戸時代から続いてる妻鹿家も、あいつの後は続かなくなって絶えてしまうわね。

 伝統とか格式とかは興味ないんだけど、男として、人間としてヘタレてるのはサイテーだと思うわけよ。

 あいつは、頼まれたら断らない。断る勇気がないんだ。

 だから、緊急の事態でもあったから、つい命じてしまった。



「ちょ、あんた担いで!」
 


 昨日の話よ。

 食堂で増田さんが、熱々のラーメンを三杯もかぶってしまって大やけど。

 すぐに保健室に運ばなきゃならないんだけど、ああいう大勢人がいる状況では――だれかがやるだろう――という群集心理で、人は率先しては動こうとはしない。だから緊急避難的にあいつに命じたわけよ。

「妻鹿さんて、ほんとにステキですね!」

 水をかけまくるという初期対応が適切だったので、火傷の痕が残ることも無く、無事に増田さんは一泊二日で退院した。

「ほんとにオメガさんにはお世話になりました。わたしって見かけよりも重いから運ぶの大変だったと思うんですよね、それに運ぶだけじゃなくって『大丈夫! たくさん水で冷やしたから大丈夫!』って、ずっと励ましてくれて。ほんとに素敵な上級生です! で、その上級生にテキパキ指示を出す妻鹿さんは、もっと素敵です。お二人の息の合い方羨ましかったです、お姫様抱っこだったから、スカートとかが危うかったんですよね。オメガさんが『小菊!』って声を掛けると、すかさず妻鹿さんが上着で隠してくれたでしょ、すごいと思ったんです。だって苗字じゃなくて名前ですよ、妻鹿さんのことを下の名前で呼ぶなんて……それで、妻鹿さんも『うん!』と言って、ずっと上着でスカートを押えてくれて……あの呼吸の合い方……あれは……その……彼と彼女の関係だったんですね!」

 目をキラキラさせて、増田さんはため息をつく。

「ちょ、あの、それはね(;'∀')」
「入学式の日から、たびたび二人の様子を見せてもらいました。お二人は理想的な高校生カップルです( #´艸`#)!」

 この思い込みに一言言おうとすると先生たちがやってきたので中断せざるを得なかった。

 増田さんの勢いは止まらずに、先生たちにも感動を与えてしまった。

 先生なんだからさ、誤解は正してほしかったんだけどね。

「個人情報は言えないからな……」

 あたしとあいつが兄妹だということは伝えてくれない。

「でも、留年生じゃないことは言っておいたぞ」

 田中先生ね……不器用すぎ!

 入学二週目の今日、あたしは、よくできた過年度生ということになってしまった!

 過年度生ってのは、前年度に別の高校を中退して、新たに受験した新入生のこと。で、これって、留年生であるよりも人の想像力を刺激してしまうのよ!



☆彡 主な登場人物

妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
百地美子 (シグマ)     高校二年
妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
妻鹿由紀夫          父
鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
風信子            高校三年 幼なじみの神社の娘
柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
増田さん           小菊のクラスメート
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