宇宙戦艦三笠

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
2 / 50

2[黎明の時・2]

しおりを挟む
宇宙戦艦三笠

2[黎明の時・2]   




 なかなか寝付けなかった。

 潰した当事者が言うのもなんだけど、ブンケンは学校での唯一の居場所だった。

 と言っても、ブンケン以外でシカトされたり、学校そのものが嫌になっていたわけじゃない。一年生のトシを除いて樟葉も天音も横須賀国際高校の生徒としてはテキトーに順応して立ち回っている、むろん俺もな。

 でも、なんちゅうか、本音で付き合えたのはブンケンの仲間だけ。でも、そのことをブンケン同士で言うのは気恥ずかしくって言ったことは無い。フランクに生きているようでも、高校生というのはめんどくせえもんだよな。

 ブンケン(横須賀文化研究部)という地味なクラブは元来が横須賀を舞台にしたRPGの聖地巡礼のオタクが集まってできたクラブだけあって、仲間内の結びつきは強かった。

 オレたちが入部したころ、NHKの『坂の上の雲』がネット配信で何度目かのブームになっていた。聖地巡礼みたいに戦艦三笠やロケ地を巡って部活のホームページに上げたり、SNSで動画をアップしたり、イベントなんかは実況したり。広告料やスパチャも少しはあったりして、部活の機材を揃えたり取材費に使えたりして充実していた。

 でも高校生の悲しさ、半年もやると横須賀ネタが途切れてきた。調べると横須賀ネタは『坂の上の雲』の他は『つ〇きす』とかがあるんだけど、R指定なんで取り上げるわけにもいかない。純粋に自衛隊や米軍がらみのネタは歴史にしろリアルにしろ、ブンケンでは及びもつかないオタクや大人の人ばかりで太刀打ちできない。

 それで頭を巡らせると、隣接する横浜や湘南を舞台にした映画やドラマやアニメはいくらでもあることに気付く。それで、放課後や休日に足を伸ばしてネタを仕込むんだけど、やはりニワカがアクセス稼ぎにでっち上げても、そうそうアタリをとれるもんじゃない。

「まあ、資金も少しはできたし、あとは君たちでがんばんなよ」
「うんうん、自分でやってこその部活だからね」

 三年生の広瀬先輩、杉野先輩に励まされて、なんとか頑張ってきたけど。目立った成果もあげられず、部活の最低要件である――部員五人以上――も割ってしまって部室を明け渡すことになってしまった。


 トシ


 トシは、この春、たった一人の新入部員として入ってきた。

 でも、一学期の終わりごろから不登校になっちまって、二学期になったら……という願いも虚しく、本物の引きこもりになっちまった。何度か家まで行ったけど、会うことさえできなかった。校門前で解散の一本締めをやったとき電柱三つ分先に来れたのはトシにしては上出来。

 三人の結びつきは……正直ただの「同級生」になってしまいそうだな。天音も樟葉もわけもなく群れるのは良しとしないタイプだ。

 寝られないままパソコンを点けた。立ち上がると習慣でブンケンのアイコンをクリックしてしまう。

 あ……そうか。

 削除したので何も出てこない。

「天音と同じことやってどーすんだよ……」

 樟葉か天音とチャットとも思ったけど、午前0時半という時間を考えれば気が引ける。それに、こういう傷の舐めあいみたいなことは樟葉は苦手だし天音は嫌いだしな。

 もう切ろう……そう思った時、画面に『後ろを見て』という文字が浮かび上がった。


 え……なんだろう?


 振り返ると……セーラー服にお下げという古典的な女生徒が、オレのベッドにハニカミながら座っていた。

「ども……」

「だれ……?」

「えー……神さまだったり……します(*´∀`*)」

「か、神さま!?」

「あ、一応って枕詞がつくけどね(^_^;)」

 ハニカミながら、でも、どこか真剣な眼差しは、ジブリの『コクリコ坂から』に出てくるメルに似ている。

 スーーーー

 その子は座った姿勢のままオレの傍に寄ってきた……つまり座ったまま宙に浮いている。

「え……神さまが、なんの用……っすか?」

「宇宙戦艦三笠に乗ってもらえないかしら?」

「……は?」

「うん(^_^;)」 

 とたんに周りのものの存在が希薄になり、すぐに真っ白になったかと思うと急に椅子の存在が無くなり、20センチほど自由落下した。 

 わ!? 

 腹にズンときて落ちたところは、革張りのソフアーの上だった。

 テーブルを挟んで右側に樟葉と天音。左側にはトシが居る。

 で、二秒ほどして気づいた。天音が素っ裸。

 で、次の瞬間天音の悲鳴が、世界中の熟睡者を起こすぐらいに響き渡った……。


 キャーーーーーーーーー!!




☆ 主な登場人物

 修一      横須賀国際高校二年
 樟葉      横須賀国際高校二年
 天音      横須賀国際高校二年
 トシ      横須賀国際高校一年
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

リアルメイドドール

廣瀬純七
SF
リアルなメイドドールが届いた西山健太の不思議な共同生活の話

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

日露戦争の真実

蔵屋
歴史・時代
 私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。 日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。  日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。  帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。  日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。 ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。  ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。  深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。  この物語の始まりです。 『神知りて 人の幸せ 祈るのみ 神の伝えし 愛善の道』 この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。 作家 蔵屋日唱

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...