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9[思い出エナジー・3]
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宇宙戦艦三笠
9[思い出エナジー・3]
「お兄ちゃーん、待ってー!」
妹の声は思ったより遠くから聞こえた。
いっしょに横断歩道を渡り終えていたつもりが、妹の来未(くるみ)は車道の真ん中。信号が点滅しかけて足がすくんで動けなくなっていた。
「来未、動くんじゃない!」
トシの言葉は正確には妹には届かなかった。妹は、変わりかけている信号を見ることもなく買ってもらったばかりの自転車を一生懸命に漕ぎながら横断歩道を渡ってきた。それまでの幼児用のそれに比べると買ってもらったばかりの自転車は大きくて重い。
たいがいのドライバーは、この可憐な少女が漕ぐ自転車が歩道を渡り切るのを待ってくれたが、トラックの死角に入っていたバイクがフライングした。
ガッシャーーン!
バイクは、自転車ごと妹を跳ね上げてしまった。
妹は、空中で一回転すると、人形のように車道に叩きつけられた。寝返りの途中のような姿勢で横たわった妹の頭からは、それ自体が生き物のような血が歩道に、じわじわと溢れだした。
トシは、自分のせいだと思った。
ついさっきまで乗っていた幼児用の慣れた自転車なら、妹はチョコマカとトシの自転車に見えない紐で繋がったように付いてきただろう。
だが、ホームセンターで買ってもらったばかりの自転車は、そうはいかなかった。なんとかホームセンターから横断歩道までは付いてきたが、横断歩道でいったん足をつくと、ペダルを漕いで発進するのに時間がかかった。
むろんトシに罪は無い。一義的には前方不注意でフライングしたバイクが悪い。二義的には、そんな幼い兄妹を後にして、さっさと先に行ってしまった両親にある。
だが、妹の死を目の前で見たトシには、全責任が自分にあるように思えた。しばらくカウンセラーにかかり、半年余りで、なんとか妹を死なせた罪悪感を眠らせ、それからは普通の小学生、中学生として過ごすことができた。
高校に入ってからも、ブンケンというマイナーなクラブに入ったことで、少しオタクのように思われたが、まずは普通の生徒のカテゴリーの中に収まっていた。
一学期の中間テスト空けに転校生が入ってきた。
それが妹の来未を思わせる小柄で活発な高橋美紀という女生徒だった。
トシはショックだった。心の中になだめて眠らせていた妹への思いが蘇り、それは美紀への関心という形で現れた。
周囲が誤解し始めた。
本当の理由のわからないクラスの何人かには、転校生に露骨な片思いをしているバカに見え、冷やかしの対象、そして、美紀本人が嫌がり始めてからは、ストーカーのように思われだした。
美紀は親に、親は担任に相談した。そうして、クラスみんなが敵になった。
もし、トシが本当のことを言えば、あるいは分かってもらえたかもしれない。実際トシは、妹が亡くなる前の日に撮った写真をスマホの中に保存していた。美紀をそのまま幼くしたような姿を見れば、少なくとも美紀や担任には理解してもらえただろう。
しかし、そうすることは、妹を言い訳の種にするようで、トシにはできなかった。トシは、そのまま不登校になった。
「どうして、こんな話しちまったんだろう!」
トシは目を真っ赤にして突っ伏した。
「いいんだよ、トシ。この三笠の中じゃ、自分をさらけ出すのが自然みたいだからな」
「それにしちゃ、わたしたちの話はマンガみたいよね。ただの腐れ縁てだけなんだもんね」
樟葉がぼやいた。
「樟葉さんと東郷君は、まだ奥があると思う。でなきゃ、この三笠が、こんなにスピードが出るわけないわ」
みかさんが微笑んだ。
三笠は、冥王星をすっとばしていた。
太陽が、もう金星ほどにしか見えなくなっていた……。
☆ 主な登場人物
修一 横須賀国際高校二年 艦長
樟葉 横須賀国際高校二年 航海長
天音 横須賀国際高校二年 砲術長
トシ 横須賀国際高校一年 機関長
みかさん(神さま) 戦艦三笠の船霊
9[思い出エナジー・3]
「お兄ちゃーん、待ってー!」
妹の声は思ったより遠くから聞こえた。
いっしょに横断歩道を渡り終えていたつもりが、妹の来未(くるみ)は車道の真ん中。信号が点滅しかけて足がすくんで動けなくなっていた。
「来未、動くんじゃない!」
トシの言葉は正確には妹には届かなかった。妹は、変わりかけている信号を見ることもなく買ってもらったばかりの自転車を一生懸命に漕ぎながら横断歩道を渡ってきた。それまでの幼児用のそれに比べると買ってもらったばかりの自転車は大きくて重い。
たいがいのドライバーは、この可憐な少女が漕ぐ自転車が歩道を渡り切るのを待ってくれたが、トラックの死角に入っていたバイクがフライングした。
ガッシャーーン!
バイクは、自転車ごと妹を跳ね上げてしまった。
妹は、空中で一回転すると、人形のように車道に叩きつけられた。寝返りの途中のような姿勢で横たわった妹の頭からは、それ自体が生き物のような血が歩道に、じわじわと溢れだした。
トシは、自分のせいだと思った。
ついさっきまで乗っていた幼児用の慣れた自転車なら、妹はチョコマカとトシの自転車に見えない紐で繋がったように付いてきただろう。
だが、ホームセンターで買ってもらったばかりの自転車は、そうはいかなかった。なんとかホームセンターから横断歩道までは付いてきたが、横断歩道でいったん足をつくと、ペダルを漕いで発進するのに時間がかかった。
むろんトシに罪は無い。一義的には前方不注意でフライングしたバイクが悪い。二義的には、そんな幼い兄妹を後にして、さっさと先に行ってしまった両親にある。
だが、妹の死を目の前で見たトシには、全責任が自分にあるように思えた。しばらくカウンセラーにかかり、半年余りで、なんとか妹を死なせた罪悪感を眠らせ、それからは普通の小学生、中学生として過ごすことができた。
高校に入ってからも、ブンケンというマイナーなクラブに入ったことで、少しオタクのように思われたが、まずは普通の生徒のカテゴリーの中に収まっていた。
一学期の中間テスト空けに転校生が入ってきた。
それが妹の来未を思わせる小柄で活発な高橋美紀という女生徒だった。
トシはショックだった。心の中になだめて眠らせていた妹への思いが蘇り、それは美紀への関心という形で現れた。
周囲が誤解し始めた。
本当の理由のわからないクラスの何人かには、転校生に露骨な片思いをしているバカに見え、冷やかしの対象、そして、美紀本人が嫌がり始めてからは、ストーカーのように思われだした。
美紀は親に、親は担任に相談した。そうして、クラスみんなが敵になった。
もし、トシが本当のことを言えば、あるいは分かってもらえたかもしれない。実際トシは、妹が亡くなる前の日に撮った写真をスマホの中に保存していた。美紀をそのまま幼くしたような姿を見れば、少なくとも美紀や担任には理解してもらえただろう。
しかし、そうすることは、妹を言い訳の種にするようで、トシにはできなかった。トシは、そのまま不登校になった。
「どうして、こんな話しちまったんだろう!」
トシは目を真っ赤にして突っ伏した。
「いいんだよ、トシ。この三笠の中じゃ、自分をさらけ出すのが自然みたいだからな」
「それにしちゃ、わたしたちの話はマンガみたいよね。ただの腐れ縁てだけなんだもんね」
樟葉がぼやいた。
「樟葉さんと東郷君は、まだ奥があると思う。でなきゃ、この三笠が、こんなにスピードが出るわけないわ」
みかさんが微笑んだ。
三笠は、冥王星をすっとばしていた。
太陽が、もう金星ほどにしか見えなくなっていた……。
☆ 主な登場人物
修一 横須賀国際高校二年 艦長
樟葉 横須賀国際高校二年 航海長
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