49 / 50
49[そして、トシとみんなの決意]
しおりを挟む
宇宙戦艦三笠
49[そして、トシとみんなの決意] 修一
三笠を飛び出したトシは地理的にも心理的にも自分の居場所を見失っていた。
人類が滅亡してから数百年。惑星ピレウスは密林状態になっている。みんなからはぐれてしまうと、もう元の場所が分からない。
―― 自分が残る! ――そう宣言して、クローンだから能力が無いと言われて、今まで人間だと思っていたロボットが「おまえはただの機械なんだぞ」と言われたように滑稽で惨めだ。
生体反応を示すモジュールは、駆けだすと同時にオフになった。これは、仲間同士位置を見失わないための測位システムで、身に危険が迫ると自動でオフになる。敵に位置を知られないためのセキュリティーでもあるのだ。
―― スイッチオン ――と思いさえすれば、いつでもモジュールはトシの居場所を発信する。が、トシはその気にはならなかった。
そのくせ、心のどこかで発見されたい気持ちもある。引きこもりの弱っちいアンビバレンツ。トシはますます自分が嫌になる。
自分としては、誤解される恐れがありながら勇気を出して言ったつもりだ「オ、オレも残ってもいいです……」
樟葉さんのことは密かな憧れだった。だから樟葉さんが「残る」と言った時、ドキッとした。でも樟葉さんだから自分も残るのではない。天音さんが言っても同じだったろう。いや、だれも言いださなくても自分は申し出た。その自信はある。
だが「トシはクローンだ」とレイマ姫に言われてパニックになった。たった今の決心も、自分の存在さえコピーのイミテーションのように思われた。まるで自分はピエロだ……そう思う気持ちさえ、イミテーションの夢のようにおぼろで寄る辺ないものに感じられた。
ふと血の味がした。
木の枝か鋭い葉っぱで切ったのだろう、頬が切れ、そこから流れた血が口の中に入ってきたようだ。手で頬を拭うと、鮮やかな赤が手のひらに残った。
妹が車に跳ねられた直後のことを思い出した。
お兄ちゃーん!
ホームセンターで買ってもらったばかりの自転車をもてあまし、幼い妹は信号を渡り損ねた。それでも通行量が少ないので、自転車を押しながら、点滅しかけた信号を強引に渡ってきた。そして、前方不注意のトラックに人形のように跳ね上げられた。目立つ怪我は無いように見えたが、耳から血が流れていた。
クローンと言われ、自分の存在がひどくバーチャルなような気がしたが、この鉄のような確かな血の感覚だけは本物だった。
「そう、本物なのよ」
エッ!?
びっくりして顔を上げると、船霊(ふなだま)のミカさんがいた。
「どうして……」
「いちおう神さまだからね。モジュールを切っても分かる……ごめんね、トシ君がクローンだというみんなの記憶は、わたしが消したのよ。トシ君はね、オリジナルトシ君のDNAから生まれたから紛い物じゃない。その……子供をつくる能力だけはないけど、あとは全て本物のトシ君だよ。今の血の味の確かさ……本物でしょ。妹のユミちゃんの記憶も」
「うん……」
「トシ君は、ユミちゃんを死なせたのは自分の責任だと思っている。だから、その償いとしてこのピレウスでアダムになろうと手を挙げたのよね」
「う、うん(灬ꈍ ꈍ灬)……」
トシは涙が止まらなかった、トシは恥ずかしくて回れ右した。
ミカさんは、そんなトシを後ろから静かにハグしてやった。
「この大遠征に来たことだけで、トシ君は十分に償っているのよ、もう十分なのよ……みんなそう思ってる。だからレイマ姫も、はっきり言ったのよ。トシ君に最後のハードルを越えてもらうためにも……」
みかさんは、トシを掴まえに行く前にみんなに告げた。トシは自分が連れ戻すって。
「意見はまとまったぞ」
トシが戻ると、俺は静かに宣言した。
「ピレウスには、あたしと修一が残る。寒冷化防止装置は、みんなで持って帰って……」
樟葉が、今度は落ち着いて続ける。
「分かりました」
トシも冷静に返事した。
「寒冷化防止装置は、ソフトのような気がします。わたしのPCの容量で間に合うのなら、わたしを初期化してダウンロードしましょう」
クレアが当たり前のように言う。
「わりばって、そえでも足らね。っていうが、PCにダウンロードでぎるようなもんでねんだ。トス君ど天音さんの心ど体さ埋め込むんだ。並の人間ではまいね。この大遠征成す遂げで経験値マックスになったはんででぎるごどだ」
「あたしと、トシが……」
天音が、いつになく真剣な面持ちで顔をあげる。
「そうだよ。で、こぃには膨大なエネルギーど制御が必要なんだ。エネルギーは三笠どテキサスさ、制御はクレアさんに……けっぱってね」
みんなは静かに頷いた。
「グリンヘルドとシュトルハーヘンの脅威は」
俺は、もう一つの大切なことを聞いた。
「グリンハーヘンのミネア司令……あのふとがなんとかするびょん。あった風にほいどつけだばって、ミネア司令の艦隊最強なのはグリンヘルドもシュトルハーヘンもおべでら。この上三笠敵さ回すては割さ合わねごどば。なんどどのごどで、たげ学習すたす、二づの星も三笠どの戦いで戦力喪失同然。地球さ行ってら余裕はねど思う」
そう言うと、クレアはレイマ姫の背中にまわりツボを探るように手を動かす。何度目かに一度はボタンを押すようにグイッと力を入れて、そのたびにレイマ姫は輝きを増していく。
そんなことを十数回繰り返したところで、俺たちは眩しさに目を開けられなくなり、そして体が熱くなって意識を失った……。
☆ 主な登場人物
修一(東郷修一) 横須賀国際高校二年 艦長
樟葉(秋野樟葉) 横須賀国際高校二年 航海長
天音(山本天音) 横須賀国際高校二年 砲術長
トシ(秋山昭利) 横須賀国際高校一年 機関長
レイマ姫 暗黒星団の王女 主計長
ミカさん(神さま) 戦艦三笠の船霊
メイドさんたち シロメ クロメ チャメ ミケメ
テキサスジェーン 戦艦テキサスの船霊
クレア ボイジャーが擬人化したもの
ウレシコワ 遼寧=ワリヤーグの船霊
こうちゃん ろんりねすの星霊
49[そして、トシとみんなの決意] 修一
三笠を飛び出したトシは地理的にも心理的にも自分の居場所を見失っていた。
人類が滅亡してから数百年。惑星ピレウスは密林状態になっている。みんなからはぐれてしまうと、もう元の場所が分からない。
―― 自分が残る! ――そう宣言して、クローンだから能力が無いと言われて、今まで人間だと思っていたロボットが「おまえはただの機械なんだぞ」と言われたように滑稽で惨めだ。
生体反応を示すモジュールは、駆けだすと同時にオフになった。これは、仲間同士位置を見失わないための測位システムで、身に危険が迫ると自動でオフになる。敵に位置を知られないためのセキュリティーでもあるのだ。
―― スイッチオン ――と思いさえすれば、いつでもモジュールはトシの居場所を発信する。が、トシはその気にはならなかった。
そのくせ、心のどこかで発見されたい気持ちもある。引きこもりの弱っちいアンビバレンツ。トシはますます自分が嫌になる。
自分としては、誤解される恐れがありながら勇気を出して言ったつもりだ「オ、オレも残ってもいいです……」
樟葉さんのことは密かな憧れだった。だから樟葉さんが「残る」と言った時、ドキッとした。でも樟葉さんだから自分も残るのではない。天音さんが言っても同じだったろう。いや、だれも言いださなくても自分は申し出た。その自信はある。
だが「トシはクローンだ」とレイマ姫に言われてパニックになった。たった今の決心も、自分の存在さえコピーのイミテーションのように思われた。まるで自分はピエロだ……そう思う気持ちさえ、イミテーションの夢のようにおぼろで寄る辺ないものに感じられた。
ふと血の味がした。
木の枝か鋭い葉っぱで切ったのだろう、頬が切れ、そこから流れた血が口の中に入ってきたようだ。手で頬を拭うと、鮮やかな赤が手のひらに残った。
妹が車に跳ねられた直後のことを思い出した。
お兄ちゃーん!
ホームセンターで買ってもらったばかりの自転車をもてあまし、幼い妹は信号を渡り損ねた。それでも通行量が少ないので、自転車を押しながら、点滅しかけた信号を強引に渡ってきた。そして、前方不注意のトラックに人形のように跳ね上げられた。目立つ怪我は無いように見えたが、耳から血が流れていた。
クローンと言われ、自分の存在がひどくバーチャルなような気がしたが、この鉄のような確かな血の感覚だけは本物だった。
「そう、本物なのよ」
エッ!?
びっくりして顔を上げると、船霊(ふなだま)のミカさんがいた。
「どうして……」
「いちおう神さまだからね。モジュールを切っても分かる……ごめんね、トシ君がクローンだというみんなの記憶は、わたしが消したのよ。トシ君はね、オリジナルトシ君のDNAから生まれたから紛い物じゃない。その……子供をつくる能力だけはないけど、あとは全て本物のトシ君だよ。今の血の味の確かさ……本物でしょ。妹のユミちゃんの記憶も」
「うん……」
「トシ君は、ユミちゃんを死なせたのは自分の責任だと思っている。だから、その償いとしてこのピレウスでアダムになろうと手を挙げたのよね」
「う、うん(灬ꈍ ꈍ灬)……」
トシは涙が止まらなかった、トシは恥ずかしくて回れ右した。
ミカさんは、そんなトシを後ろから静かにハグしてやった。
「この大遠征に来たことだけで、トシ君は十分に償っているのよ、もう十分なのよ……みんなそう思ってる。だからレイマ姫も、はっきり言ったのよ。トシ君に最後のハードルを越えてもらうためにも……」
みかさんは、トシを掴まえに行く前にみんなに告げた。トシは自分が連れ戻すって。
「意見はまとまったぞ」
トシが戻ると、俺は静かに宣言した。
「ピレウスには、あたしと修一が残る。寒冷化防止装置は、みんなで持って帰って……」
樟葉が、今度は落ち着いて続ける。
「分かりました」
トシも冷静に返事した。
「寒冷化防止装置は、ソフトのような気がします。わたしのPCの容量で間に合うのなら、わたしを初期化してダウンロードしましょう」
クレアが当たり前のように言う。
「わりばって、そえでも足らね。っていうが、PCにダウンロードでぎるようなもんでねんだ。トス君ど天音さんの心ど体さ埋め込むんだ。並の人間ではまいね。この大遠征成す遂げで経験値マックスになったはんででぎるごどだ」
「あたしと、トシが……」
天音が、いつになく真剣な面持ちで顔をあげる。
「そうだよ。で、こぃには膨大なエネルギーど制御が必要なんだ。エネルギーは三笠どテキサスさ、制御はクレアさんに……けっぱってね」
みんなは静かに頷いた。
「グリンヘルドとシュトルハーヘンの脅威は」
俺は、もう一つの大切なことを聞いた。
「グリンハーヘンのミネア司令……あのふとがなんとかするびょん。あった風にほいどつけだばって、ミネア司令の艦隊最強なのはグリンヘルドもシュトルハーヘンもおべでら。この上三笠敵さ回すては割さ合わねごどば。なんどどのごどで、たげ学習すたす、二づの星も三笠どの戦いで戦力喪失同然。地球さ行ってら余裕はねど思う」
そう言うと、クレアはレイマ姫の背中にまわりツボを探るように手を動かす。何度目かに一度はボタンを押すようにグイッと力を入れて、そのたびにレイマ姫は輝きを増していく。
そんなことを十数回繰り返したところで、俺たちは眩しさに目を開けられなくなり、そして体が熱くなって意識を失った……。
☆ 主な登場人物
修一(東郷修一) 横須賀国際高校二年 艦長
樟葉(秋野樟葉) 横須賀国際高校二年 航海長
天音(山本天音) 横須賀国際高校二年 砲術長
トシ(秋山昭利) 横須賀国際高校一年 機関長
レイマ姫 暗黒星団の王女 主計長
ミカさん(神さま) 戦艦三笠の船霊
メイドさんたち シロメ クロメ チャメ ミケメ
テキサスジェーン 戦艦テキサスの船霊
クレア ボイジャーが擬人化したもの
ウレシコワ 遼寧=ワリヤーグの船霊
こうちゃん ろんりねすの星霊
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日露戦争の真実
蔵屋
歴史・時代
私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。
日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。
日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。
帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。
日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。
ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。
ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。
深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。
この物語の始まりです。
『神知りて 人の幸せ 祈るのみ
神の伝えし 愛善の道』
この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。
作家 蔵屋日唱
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる