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012:襲撃の明くる朝 ギルドに向かう
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待ての勇者と急ぎの姫騎士
012:襲撃の明くる朝 ギルドに向かう
昼まで寝てしまった。
目が覚めると、天井が違う、オフホワイトの見慣れたそれではなくて、山小屋のような天井板……そうか、異世界に飛ばされたんだった……痛て!
起き上がると体のあちこちが痛い…………そうだ、夕べは城門の外で戦ったんだ。
凄惨な戦いだった……魔物の大半はやっつけたが、キャンプに居た者たちは半分以上殺されただろう。踏み潰された商人、妹を庇って殺された兄、妹も直後に息絶えてしまった。荷馬車の砕けの下でメイドが震えていた。主人の排泄物を堀に捨てていたメイドだ、助かっていればいいが……戦っていたのは、オレとヒルデの他は、キャンプに居た傭兵や男たち。レベルが低いうえに連携ができていなかった、半分も生き残ってないだろう。
凄惨だった割には平気だぞ、オレ……学生の頃、道路で猫が轢かれたのを見て、しばらく飯が喉を通らなくなった。勇者のデフォルトなのか、女神が設定してくれたのか。とりあえず助かる。
で、ヒルデが居ない。
ピピ ピピ
窓辺に小鳥が来ている。目が合うとヒルデの声で喋った。
『目が覚めたらギルドに来てくれ、わたしは1時半には行ってるからな……返事は?』
「了解」
あちゃあ……
脱ぎ捨てた服と装備は汚れたままだ。
血糊やなんやかが付いて、このままでは歩けない。仕方が無いのでストレージから一着だけある普段着というのを出して身に着ける。
スキルでウォシュレットにしていたトイレを元に戻す。
ウッ……
ポットン式の香しい臭いが蘇る。
トイレスキルが無きゃ、異世界生活なんて三日も持たないと思う。
フロントを通ると、オヤジが「良くお休みになられましたかぁ」と意味深な上目遣い。「ああ、世話になった」とだけ応えて街に出る。あの面は襲撃を知っている顔じゃない。表通りに出ても夕べの事を噂している奴も見かけない。
グ~~~~~
そう言えば朝飯も食ってない。
ストレージを開くと戦闘糧食というのがあるが、乾パンみたいなのでキャンセルして食い物屋を探す。広場の時計はそろそろ一時を回っている。
小さなパン屋を見つけ、コッペパンにマーマレードを挟んだのを買う。気の良さそうなオバサンだったので「夕べ、城門の外で騒ぎがあったんだって?」と他人事めかしく聞いてみる。
「ああ、たまに起こるけど、王様の結界があるからねえ。あ、南に出るなら西の門から迂回したほうがいいよ」
オバサンが目配せした掲示板には、夕べのことと現場の清掃のため馬車の通行不可の張り紙が出ている。
「なるほどなあ………」
独り言ちてパンにかぶりつくと、意外に大きい。
ス-パーとかで買い物をして家で開いてみると、総菜やパンが意外のほか大きかったり量が多かったりして持て余すことがある。学生の頃は感じなかったから、三十路間近、胃袋がオッサン化しているのかもしれない。
少し迷ってギルドに着く。
予想に反して一筋裏通り。裏通りと言っても宿があったそれに比べると幅員もあって賑わいもある。
アキバで言えば広場や中央通りに対するジャンク通りといったところか。
ギルドは、その四辻の角の三階建て。入り口の両側には掲示板があって、求人やら依頼やらの張り紙。
こういうものは中にあるもんだが、数が多いようで、レベルの低いのは外に出されているようだ。
そういうのを見ているのは若い奴がほとんどで年寄もちらほら。上級のクエストに手を出したら生きて帰れそうにない連中ばかりだ。一見立派そうな装備を付けているが、ほとんどコスプレ。腰に揺れているソードは立派な割には軽そうだ。装備同士が当っても金属音ではない音がする。おそらくプラスチックか軽合金。
え?
いま前を通った奴は、丈の長いチュニックに甲冑がプリントされただけ。もう、安物のハローウィンだ。
「待っていたぞ」
声に振り返ると、半日ぶりのヒルデ。
「なんでセーラー服?」
「装備が血みどろの泥まみれでなあ、ストレージの普段着に入っていたのが、これだけなんだ」
「女神の趣味かぁ?」
「スグル、貴様のトレーナーもたいがいだぞ」
「え、そうなのか。古代文字のプリントでかっこいいと思ったんだがな」
「それ、今の言葉に直したら『働いたら負け!!』って書いてあるぞ」
「ええ!?」
「まあいい、古代文字を読めるやつなんて、そうそう居るもんじゃないからな。それよりも登録を済ませてしまおう」
「お、おお(-_-;)」
腕組みしながら中に入る。さすがにハローウィンやコスプレみたいな奴はいない。
「お待たせいたしました、108番の札でお待ちのお客様~」
五人待ってやっと受付。
「……ブリュンヒルデ様とスズキ・スグル様ですね」
「「お、おお」」
受付嬢は、こっちが名乗る前にこっちの素性を暴露する。ただし、なぜかヒソヒソ声。
「お二人のことは、城門司令からも連絡が入っておりまして、当方もお待ち申し上げておりました。このカードをお持ちになって奥の部屋へおまわりください」
「はい」「わかった」
カウンターを離れて『スタッフオンリー』のドアへ、ノブに手を掛けると締まっているので、カウンターの方を見ると、ちょうど交代したのかオッサンに替わっている。
「カードキーかなあ……」
「ここじゃないか」
スコープのようなところにかざすとカチャリと音がしてドアが開いた……。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀(すずきすぐる) 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・女神 異世界転生の境に立つ正体不明の女神
・秀の友人たち アキ 田中
012:襲撃の明くる朝 ギルドに向かう
昼まで寝てしまった。
目が覚めると、天井が違う、オフホワイトの見慣れたそれではなくて、山小屋のような天井板……そうか、異世界に飛ばされたんだった……痛て!
起き上がると体のあちこちが痛い…………そうだ、夕べは城門の外で戦ったんだ。
凄惨な戦いだった……魔物の大半はやっつけたが、キャンプに居た者たちは半分以上殺されただろう。踏み潰された商人、妹を庇って殺された兄、妹も直後に息絶えてしまった。荷馬車の砕けの下でメイドが震えていた。主人の排泄物を堀に捨てていたメイドだ、助かっていればいいが……戦っていたのは、オレとヒルデの他は、キャンプに居た傭兵や男たち。レベルが低いうえに連携ができていなかった、半分も生き残ってないだろう。
凄惨だった割には平気だぞ、オレ……学生の頃、道路で猫が轢かれたのを見て、しばらく飯が喉を通らなくなった。勇者のデフォルトなのか、女神が設定してくれたのか。とりあえず助かる。
で、ヒルデが居ない。
ピピ ピピ
窓辺に小鳥が来ている。目が合うとヒルデの声で喋った。
『目が覚めたらギルドに来てくれ、わたしは1時半には行ってるからな……返事は?』
「了解」
あちゃあ……
脱ぎ捨てた服と装備は汚れたままだ。
血糊やなんやかが付いて、このままでは歩けない。仕方が無いのでストレージから一着だけある普段着というのを出して身に着ける。
スキルでウォシュレットにしていたトイレを元に戻す。
ウッ……
ポットン式の香しい臭いが蘇る。
トイレスキルが無きゃ、異世界生活なんて三日も持たないと思う。
フロントを通ると、オヤジが「良くお休みになられましたかぁ」と意味深な上目遣い。「ああ、世話になった」とだけ応えて街に出る。あの面は襲撃を知っている顔じゃない。表通りに出ても夕べの事を噂している奴も見かけない。
グ~~~~~
そう言えば朝飯も食ってない。
ストレージを開くと戦闘糧食というのがあるが、乾パンみたいなのでキャンセルして食い物屋を探す。広場の時計はそろそろ一時を回っている。
小さなパン屋を見つけ、コッペパンにマーマレードを挟んだのを買う。気の良さそうなオバサンだったので「夕べ、城門の外で騒ぎがあったんだって?」と他人事めかしく聞いてみる。
「ああ、たまに起こるけど、王様の結界があるからねえ。あ、南に出るなら西の門から迂回したほうがいいよ」
オバサンが目配せした掲示板には、夕べのことと現場の清掃のため馬車の通行不可の張り紙が出ている。
「なるほどなあ………」
独り言ちてパンにかぶりつくと、意外に大きい。
ス-パーとかで買い物をして家で開いてみると、総菜やパンが意外のほか大きかったり量が多かったりして持て余すことがある。学生の頃は感じなかったから、三十路間近、胃袋がオッサン化しているのかもしれない。
少し迷ってギルドに着く。
予想に反して一筋裏通り。裏通りと言っても宿があったそれに比べると幅員もあって賑わいもある。
アキバで言えば広場や中央通りに対するジャンク通りといったところか。
ギルドは、その四辻の角の三階建て。入り口の両側には掲示板があって、求人やら依頼やらの張り紙。
こういうものは中にあるもんだが、数が多いようで、レベルの低いのは外に出されているようだ。
そういうのを見ているのは若い奴がほとんどで年寄もちらほら。上級のクエストに手を出したら生きて帰れそうにない連中ばかりだ。一見立派そうな装備を付けているが、ほとんどコスプレ。腰に揺れているソードは立派な割には軽そうだ。装備同士が当っても金属音ではない音がする。おそらくプラスチックか軽合金。
え?
いま前を通った奴は、丈の長いチュニックに甲冑がプリントされただけ。もう、安物のハローウィンだ。
「待っていたぞ」
声に振り返ると、半日ぶりのヒルデ。
「なんでセーラー服?」
「装備が血みどろの泥まみれでなあ、ストレージの普段着に入っていたのが、これだけなんだ」
「女神の趣味かぁ?」
「スグル、貴様のトレーナーもたいがいだぞ」
「え、そうなのか。古代文字のプリントでかっこいいと思ったんだがな」
「それ、今の言葉に直したら『働いたら負け!!』って書いてあるぞ」
「ええ!?」
「まあいい、古代文字を読めるやつなんて、そうそう居るもんじゃないからな。それよりも登録を済ませてしまおう」
「お、おお(-_-;)」
腕組みしながら中に入る。さすがにハローウィンやコスプレみたいな奴はいない。
「お待たせいたしました、108番の札でお待ちのお客様~」
五人待ってやっと受付。
「……ブリュンヒルデ様とスズキ・スグル様ですね」
「「お、おお」」
受付嬢は、こっちが名乗る前にこっちの素性を暴露する。ただし、なぜかヒソヒソ声。
「お二人のことは、城門司令からも連絡が入っておりまして、当方もお待ち申し上げておりました。このカードをお持ちになって奥の部屋へおまわりください」
「はい」「わかった」
カウンターを離れて『スタッフオンリー』のドアへ、ノブに手を掛けると締まっているので、カウンターの方を見ると、ちょうど交代したのかオッサンに替わっている。
「カードキーかなあ……」
「ここじゃないか」
スコープのようなところにかざすとカチャリと音がしてドアが開いた……。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀(すずきすぐる) 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
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