待ての勇者と急ぎの姫騎士

武者走走九郎or大橋むつお

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011:門前の激闘!

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待ての勇者と急ぎの姫騎士

011:門前の激闘!




 着地した目の前にゴブリン!

 ズサッ!

 横に薙ぎ払うと、その後ろからやってきたゴブリンの腕まで宙に飛ぶ!

 ヒ

 背後に小動物が怯えるような声、視界の端に小さな女の子を庇って立ちすくむ少年。

「伏せろ!」

 言いながら二人を押しのけて、ケモ耳の首を撥ね、そのままダッシュしてアンデッド三体を粉砕し、堀際に追い詰められていた商人を助ける。

 すでに息絶えた者の上にスライムがたかっている!

 させるか!

 シュ!

 手応えが無い……スライムは切っただけじゃだめなのか。

「核を切れ!」

 ヒルデの声がして、逃げ始めたスライムの中心を切る!

 シュ!

 一匹は四散したが、もう一匹に変化はない。

「核は中心とは限らん、よく見ろ!」

「分かった!」

 シュ シュシュ シュ!

 数回攻めて気が付いた、少し目を細めると見えてくる、種のようなものを切るとスライムは息絶える。

「ゴブリンが主力だ、集中して……倒せええ!」

 ズビィビビビーーーー!

 ゴブリンの首がまとまって撥ね上げられ、瞬間目を奪われると、もうヒルデは数十メートル離れたところででっかいゴブリンに打ちかかっている。

 戦乙女の二つ名は伊達じゃないんだ。

 瞬間目を離した。

 ズト

 目の前に落ちて来たものがあって、思わず除けると、ついさっきの少年の首!

「くそ!」

 妹の喉首に食らいついたゴブリンの背中を絶ち割る! 手応えがあったと思うと、そいつの背中から石が飛び出し、コイントスの要領で手に取ると魔石だ。

 ストレージ

 何年も前にやったゲームの用語が閃いて魔石は消えた、たぶんアイテムボックスに入ったんだろ。

「しっかりしろ!」

 女の子の首からは、ウォータークーラーのような勢いで血が噴き出し、その顔は真っ白だ。

 か、回復魔法、いや、その前に止血、止血のスキルは!?

「その子は助からん! 敵を倒せ!」

「え、ええ……」

 ドゲシ!

 蹴りを喰らって我に返った、僅かの間に俺の周囲には死体の山ができてしまっている。


 それからは憶えていない。


 ガシ

 腕を掴まれ、反射的に剣を振りかぶると、ヒルデが冷たい目で俺を見ている。

「死体をミンチにしてどうする」

 言われて足もとを見ると、ゴブリンであっただろうものがグチャグチャに蟠っている。

「これだけぶっ叩いて、魔石を取り残してる。ほれ」

 剣先で撥ね上げた魔石は瞬間空中で制止、オレにその気がないと知ると、ヒルデは自分のストレージに入れた。

 キャンプは、会社の新人歓迎会で出て来たホルモンをぶちまけた、その数百倍も無残だった。

 大方はキャンプの犠牲者。魔物の大半は消えていたが、何十体かは、人と同じように骸を晒している。

「種族にもよるが、倒し方が悪いと消えずに残るんだ。憶えておけ」

 シャラン

「なにをした?」

「酔い止めの魔法だ。このままだと、数十秒後にはヘド吐きまくって半日は動けなくなるからな」

「すまん……」

「さあ、宿に帰って風呂に入りなおそう……」

「あ、ああ……」

 目を上げると、あちこち、生き残った旅人たちがオレ同様に呆然と幽霊のように佇んでいる。中には怪我をして蹲ったり横たわっている者もいるが、誰も助けないし、オレも助けようという気力が湧いてこない。

「さ、行くぞ」

「ああ……」

 セイ

 軽くジャンプ、城壁を一跨ぎにする。

 東の空が、ほんのりと明るくなっていた。


☆彡 主な登場人物

・鈴木 秀(すずきすぐる)    三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ         ブァルキリーの戦乙女
・女神              異世界転生の境に立つ正体不明の女神
・秀の友人たち          アキ 田中
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