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016:勇者の墓・1・忌み地の墓場
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待ての勇者と急ぎの姫騎士
016:勇者の墓・1・忌み地の墓場
「西門から行ってみるか……」
パン屋のオバサンを思い出したんだ。南門の襲撃についてふってみると「南に出るなら西の門から迂回したほうがいいよ」と言っていた(012:襲撃の明くる朝 ギルドに向かう)。
ズィッヒャーブルクはほぼ円形の城塞都市だから、逆に周れば北門にも行けるだろうと踏んだんだ。
昨夜の戦いで、自分たちの力は分かっている。ヒルデもオレも、十分A級の力はある。少し時間はかかるが、だいじょうぶ、少し急げば日の落ちるまでにはズィッヒャー川を渡れるだろう。
「地図では草原になっている、3キロほどの回り道だがどうということはあるまい」
ヒルデが賛同し、エマも承知して、おれ達は西門を目指した。
「ク、ぜんぜん違うぞぉ……」
地図と見比べるまでも無い。西門を出ると、パン屋のオバサンが言った通り南門への道は確認できたが、北側が全然違う。
草原ではなくて、草ぼうぼうの墓地があって、墓地の向こうは陰気な森が広がっている。堀端に道はあるのだが、墓地の中にフェードアウトして、その先は墓地ぐるみ森に呑み込まれている。
堀端に押し寄せた森は、意地悪く堀の上に枝を伸ばし、その下端は水面に接している。たとえボートがあっても北門にはたどり着けないだろう。南側同様、めちゃくちゃ臭いしな。
「……これは忌み地でございますね」
エマも顔をこわばらせる。エマもご主人様との旅でこういうところに出くわしてはいるんだろう。しかし踏み入ったことはないという反応だ。
「距離は知れている、せいぜい2キロ。方角さえ間違えなかったら一時間もあれば突破できる」
「待て」
「ここで考えてもラチが明かんぞ」
「蔦や下草を刈るために山刀も買ってあります、参りましょう!」
エマがまなじりを上げる。
アキたちが「先輩、もう一度やりましょう!」と言った時のことを思いだす。
サブ研(サブカルチャー研究部)が傾いた時、就活に力を入れなきゃならないこともあって、夏コミの参加に二の足を踏んでいたんだ。けっこうな赤字も出していたし。あいまいな返事をして、ろくに手助けも出来なかったけど、それでもアキたちは「赤字は冬コミの半分でした!」と明るく乗り切っていた。
「そうだな、行くか!」
「はい、装備が汚れたら、また洗濯させていただきます!」
「行くぞ!」
ヒルデが宣言して、とりあえず墓地に足を踏み入れた。
「名前が書かれたものもあるが、墓碑銘のないものも多いな……」
「それって……」
「無縁仏……おそらくは、途中で引き返し、ここで息絶えた冒険者たちだろう」
「写真を撮っておいてよろしいですか?」
「うん、あんまり時間はとれないけどね」
「はい、すぐに済ませます」
ストレージから四台のカメラを出すと「お行き」とスピンして周囲を指さすエマ。
カメラたちは文字通り四方に飛んで、すごい高速でシャッターを切りまくる。
「……十代の若者から九十代のお年寄りまで……多彩ですね、冒険者の方々は……え……赤ん坊のお墓……?」
「赤ん坊?」
アニメとかで沢山の異世界ものを見たけど、赤ちゃんの冒険者というのは聞いたことないぞ。
「……旅の途中で妊娠して、ズィッヒャーブルグの街で生まれた赤ん坊です」
「冒険の旅は過酷だが、いろんなことがある、いろんなことが起こる……」
エマもヒルデも遠い目をする。
二人とも絶世の美少女だが、ひどく大人っぽい……二次元とか二次元半でしか知らないオレとは違って、この二人はリアルにこの世界で生きてきたんだ。ちょっとシミジミしてしまう。
「あ、勇者のお墓があります!」
「「勇者の墓!?」」
「あっちです!」
それは、墓地の中にいくつかある大きな木の根元に隠れていた。他の墓石よりも二回りも大きく、特別な墓であることが分かる。
「ちょっと、きれいにしてみます」
エマが手を振りながらかざすと、見る見るゴミや汚れが消えていって、印刻された墓碑が現れた。
「え……え……ええ(◎△◎)!?」
墓石の一番上には――H〇mmel the Hero――と彫ってある。
これは、腐れオタクのオレでも知っている、あの、魔王を倒したところから始まる討伐系アニメの金字塔。その一方の主人公と言っていいイケメン勇者の墓ではないか!?
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀(すずきすぐる) 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神 異世界転生の境に立つ正体不明の女神
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・秀の友人たち アキ 田中
016:勇者の墓・1・忌み地の墓場
「西門から行ってみるか……」
パン屋のオバサンを思い出したんだ。南門の襲撃についてふってみると「南に出るなら西の門から迂回したほうがいいよ」と言っていた(012:襲撃の明くる朝 ギルドに向かう)。
ズィッヒャーブルクはほぼ円形の城塞都市だから、逆に周れば北門にも行けるだろうと踏んだんだ。
昨夜の戦いで、自分たちの力は分かっている。ヒルデもオレも、十分A級の力はある。少し時間はかかるが、だいじょうぶ、少し急げば日の落ちるまでにはズィッヒャー川を渡れるだろう。
「地図では草原になっている、3キロほどの回り道だがどうということはあるまい」
ヒルデが賛同し、エマも承知して、おれ達は西門を目指した。
「ク、ぜんぜん違うぞぉ……」
地図と見比べるまでも無い。西門を出ると、パン屋のオバサンが言った通り南門への道は確認できたが、北側が全然違う。
草原ではなくて、草ぼうぼうの墓地があって、墓地の向こうは陰気な森が広がっている。堀端に道はあるのだが、墓地の中にフェードアウトして、その先は墓地ぐるみ森に呑み込まれている。
堀端に押し寄せた森は、意地悪く堀の上に枝を伸ばし、その下端は水面に接している。たとえボートがあっても北門にはたどり着けないだろう。南側同様、めちゃくちゃ臭いしな。
「……これは忌み地でございますね」
エマも顔をこわばらせる。エマもご主人様との旅でこういうところに出くわしてはいるんだろう。しかし踏み入ったことはないという反応だ。
「距離は知れている、せいぜい2キロ。方角さえ間違えなかったら一時間もあれば突破できる」
「待て」
「ここで考えてもラチが明かんぞ」
「蔦や下草を刈るために山刀も買ってあります、参りましょう!」
エマがまなじりを上げる。
アキたちが「先輩、もう一度やりましょう!」と言った時のことを思いだす。
サブ研(サブカルチャー研究部)が傾いた時、就活に力を入れなきゃならないこともあって、夏コミの参加に二の足を踏んでいたんだ。けっこうな赤字も出していたし。あいまいな返事をして、ろくに手助けも出来なかったけど、それでもアキたちは「赤字は冬コミの半分でした!」と明るく乗り切っていた。
「そうだな、行くか!」
「はい、装備が汚れたら、また洗濯させていただきます!」
「行くぞ!」
ヒルデが宣言して、とりあえず墓地に足を踏み入れた。
「名前が書かれたものもあるが、墓碑銘のないものも多いな……」
「それって……」
「無縁仏……おそらくは、途中で引き返し、ここで息絶えた冒険者たちだろう」
「写真を撮っておいてよろしいですか?」
「うん、あんまり時間はとれないけどね」
「はい、すぐに済ませます」
ストレージから四台のカメラを出すと「お行き」とスピンして周囲を指さすエマ。
カメラたちは文字通り四方に飛んで、すごい高速でシャッターを切りまくる。
「……十代の若者から九十代のお年寄りまで……多彩ですね、冒険者の方々は……え……赤ん坊のお墓……?」
「赤ん坊?」
アニメとかで沢山の異世界ものを見たけど、赤ちゃんの冒険者というのは聞いたことないぞ。
「……旅の途中で妊娠して、ズィッヒャーブルグの街で生まれた赤ん坊です」
「冒険の旅は過酷だが、いろんなことがある、いろんなことが起こる……」
エマもヒルデも遠い目をする。
二人とも絶世の美少女だが、ひどく大人っぽい……二次元とか二次元半でしか知らないオレとは違って、この二人はリアルにこの世界で生きてきたんだ。ちょっとシミジミしてしまう。
「あ、勇者のお墓があります!」
「「勇者の墓!?」」
「あっちです!」
それは、墓地の中にいくつかある大きな木の根元に隠れていた。他の墓石よりも二回りも大きく、特別な墓であることが分かる。
「ちょっと、きれいにしてみます」
エマが手を振りながらかざすと、見る見るゴミや汚れが消えていって、印刻された墓碑が現れた。
「え……え……ええ(◎△◎)!?」
墓石の一番上には――H〇mmel the Hero――と彫ってある。
これは、腐れオタクのオレでも知っている、あの、魔王を倒したところから始まる討伐系アニメの金字塔。その一方の主人公と言っていいイケメン勇者の墓ではないか!?
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀(すずきすぐる) 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
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