待ての勇者と急ぎの姫騎士

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
22 / 64

023:崖を下ると日暮里に似ていた

しおりを挟む
待ての勇者と急ぎの姫騎士

023:崖を下ると日暮里に似ていた




 小一時間歩くと崖に出た。

 
 崖を下った先は荒れ野で、ライズゼニッヒ山がその向こうに霞んでいる。

「……日暮里みたいだ」

「ニッポリ……でございますか?」

「え、ああ……オレの世界の町だ。崖の下の町でね、繊維関係の店が並んでいて、よくコスプレの生地とかを買いに来た」

「コスプレならアキバではないのか?」

「ちょっと前は日暮里とかだった……」

 学生の頃、今のようにコスプレの専門店なんか無かったから、日暮里で安い生地を探したんだ。

 娑婆っ気の抜けないオレは、見たものをついリアル世界のそれと重ねてしまう。

 日暮里の向こうは果てしない関東平野。遠く筑波の山々が霞み、二十歳の自分にはただの遠景。芝居の背景幕ぐらいにしか感じていなかった。

 いま、目の前に広がる荒れ野と山々はセットでも背景幕でもない。これから踏み込まなければならないオープンワールド。

 これが見ての通り、関東平野ほどの広さがあって、ライズゼニッヒ山が筑波山だとしたら……直線距離で60キロ、道を探りながらだと80キロは超えるだろう。道路や鉄道が整った令和なら屁でもないが、歩くんだ……それも、魔物や化け物てんこ盛りのオープンワールド(-_-;)。

「臆したか?」

「そんなわけないだろ、行くぞ!」

「はい!」「フフ」

 エマはオレの気持ちに寄り添うよう気合いを籠めて。ヒルデは鼻で笑って、オレの後に続いて崖を下りた。


「おい、なにか銅像が立ってるぞ」


 俺より先に崖を下りきったヒルデが薮の向こうを指さした。

「なんでしょう、馬に乗って狩りをしているような姿でございますが……」

「あ……」

「見覚えがあるのか?」

 それは、見覚えのある太田道灌の銅像だった。

「「オータドーカン?」」

「ああ、日暮里の駅前に立ってる銅像でな、昔、日暮里あたりを治めていた豪族だ」

「有名な人間なのか?」

 勇壮な馬上の姿に、ヒルデは興味を持ったようだ。

「たしか、家康以前に江戸城を作った殿さまだ」

「イエヤス?」

「あ、ええと……東京の元になった江戸という町を巨大都市にした男だ。サムライの頂点に立っていた奴で……ヒルデの世界だったらオーディンにあたるかな」

「グッ、オーディンだと(-"-)!?」

「「え?」」

 オーディンは北欧神話の主神、ヒルデの父親のはずだぞ、なんで怒る?

 こういう時は話題を変える。営業テクというよりは大人の処世術。

「まあ、その種になる町を作ったということで、太田道灌はパイオニアとして尊敬されてるわけだ」

「なるほどなぁ、そう言えば、無駄のない体格で弓の構えもなかなかのものだ」

 ヒルデは、こういうのが趣味なのか。思わず腹の肉をさすってしまった(^_^;)。

「あ、こちらにも銅像が……」

 草むらの向こうにもう一つの銅像があるのをエマが見つけた。

「こっちは女だな」

「ああ……」

「見覚えがあるのか?」

「ああ、駅前にあったからな……」

 あったのは憶えているが、いちいち銅像の由来なんか読んだりしないからな。

 和服のロングヘア……たぶん歴史上の人物なんだろうが、よく分からん。

「両手で小さな枝を持っております……」

「花でも摘みに行ったのか?」

「さあな……まだ崖を下りただけだ、先に進むぞ」

「おお」「はい」

 薮をかき分けて先に進む。ちょっと煩わしい。

「わたしが前に立ちます」

「お、おお……」

 ズィッヒャーブルグで買った山刀を取り出して、バシバシ草を刈り倒しながら進むエマ。

 バシ ビシバシ バシ……

 パッと見、華奢なメイドなんだけど、なかなかの馬力だ。

 五分ほど進むと開けたところに出たのだが——しまった!——という顔をしてエマが停まってしまった。

「申しわけございません、わたくしとしたことが、元の場所に出てしまいました……」

「「ああ……」」

 太田道灌と和服のロン毛が、さっきと変わらずに建っていた。

 

 ☆彡 主な登場人物

・鈴木 秀(すずきすぐる)    三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ         ブァルキリーの戦乙女
・エマ              バンシーのメイド
・女神              異世界転生の境に立つ正体不明の女神
・ハンス・バウマン        ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル            西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ             フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・秀の友人たち          アキ 田中
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...