ここは世田谷豪徳寺

武者走走九郎or大橋むつお

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12《待てない未来がある・3》

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ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)

第12話《待てない未来がある・3》 



 
 恵里奈が気を利かして敷いてくれたゴミ袋がクッションになったのか、運がいいのか、わたしは、検査の結果異常なし。

 白石さんのことが気に掛かったけど、ショック状態のため、鎮静剤で眠らせてあると聞き、怖い顔したお姉ちゃんといっしょに家に帰った。


 家に帰ると、お父さんとお母さんが心配顔で待っていた。二人とも無事なあたしを見てホッとした様子。

「迷惑かけました。すみません」

 他人行儀な挨拶をした。

「無事で何よりだ……よくやったな。白石って子、危ないところだったそうじゃないか」

「うん……それが何より」

 ふっと、お父さんとお母さんの顔が優しくなり、力が抜けたようにリビングのソファーに腰を落とした。

 すると、ゴトって音がして、横の棚に置いてあった土偶人形が袈裟懸けに割れて転がった。


「「「「あ……」」」」


 家族四人が、同じ声をあげた。


「……わたしが、ロープを巻いていたところで割れてる」

「お父さんが、安物買ってくるから……きっと最初からヒビがはいっていたのよ」

 お母さんが、片づけようとした。

「待ってくれ……あの出店の女の人は『おやくにたちます』って言ったんだ……それに、この割れ目は新しいよ……」

「……ハハ、身代わりだったのかもね。あたしが接着剤で直しとく」

 お姉ちゃんが陽気に言った。

 お姉ちゃんは大学で映画研究部に入っている。ただ映画を観るだけでなく、たまに自分たちで映画も撮ったりするので、こういう小道具じみたものの修理も上手い……という触れ込みだったけど、仕上がりは、割れ目にそってグレーの接着剤が盛り上がって、まるで袈裟懸けしたみたいだった。

「直してみて思ったんだけど、この土偶、猫じゃないかなあ?」

「猫?」

 お父さんが身を乗り出す。

「ほら、頭の両側でちょびっとだけ盛り上がってるのが耳。口と鼻の間にはうっすら筋が入って……」

「でも、手はまん丸で肉球とかは無いよ」

「土偶だからね……」

「いや、土偶の時代に猫はいないだろう」

「え、そうなの?」

「猫は遣隋使とか遣唐使の時代に入ってきたと言われてる。経文を齧ってダメにするネズミ対策用らしいぞ」

「あなた、その知識は古いわよ。弥生式土器にネコの足跡が点いてるのがあるわよ」

「え、そうなのか?」

「うん、ネコものの短編書くときに調べた」

「あはは、お父さんのは昭和の知識だもんね」

「ひょっとして釈迦誕生像とかじゃない?」

 習ったばかりの日本史の知識で話に加わると「ああ『天上天下唯我独尊』てやつだね」とお姉ちゃん。

「むつかしい言葉知ってんのねぇ」

「あ、呪術〇戦に出てくるわよね、そのフレーズ」

 主婦作家でもあるお母さんは守備範囲が広い。

「でも、釈迦誕生像は右手を上げてるんだぞ」

 なるほど、この土偶は左手を上げてる。

「うん、それに土偶と言うのは仏教伝来以前のものだぞ」

「まねき猫じゃないかなあ」

「「「あ」」」

 わたしの閃きに声を上げる三人。

 豪徳寺といえばまねき猫、ただそれだけの閃きだったんだけどね。

「左手を上げてるのよね、たしか……」

 スマホでチェックするお母さん。

「右手は金運、左手は人脈」

「ほう、人脈かあ……」

 

 まねき猫土偶のお蔭か、その夜、白石さんのご両親がお礼にこられ、明くる日には、白石さん本人がやってきた。



「助けてもらってありがとう」

 と、いうのかと思った。

 が……違った。

「待てない未来があるの」

「え……」

「わたしは、百回生まれ変わったの……それで、百回目を終わりにして、百一回目にジャンプしようとしたところだったのよ」

「どういうこと?」

「白石優奈という子は、使用期限が切れているの。このまま大人になっても無駄に生きるだけだから、だから、終わりにしようと思ったの」

「ええ……?」

 あたしは二の句が継げなかった……。


☆彡 主な登場人物
佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
佐倉  さつき       さくらの姉
佐倉  惣次郎       さくらの父
佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
白石  優奈        帝都の同学年生
氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
秋元            さつきのバイト仲間
四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
香取            北町警察の巡査
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