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13《世田谷八百比丘尼》
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ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)
第13話《世田谷八百比丘尼》
「熊野明神は知っているかしら?」
「クマノミョウジン?」
「世田谷熊野明神」
世田谷には20ちょっとの神社があるって、いつかお父さんが言っていた。
好事家のお父さんは、図書館勤務のせいか世田谷はおろか東京にあるお寺や神社の半分以上を知っている。「なんだ半分か」と反抗期の頃の兄貴がいったことがあるけど、「日本中の神社とお寺を合わせたらコンビニの倍近いんだぞ」と言っていた。そういう兄貴も今はアメリカと中国とロシアの軍艦はシルエットを見ただけで当ててしまう。
そういう趣味の無いわたしは、お寺なら豪徳寺、神社なら八幡さまと松陰神社くらいしか知らないけど、名前を言われたら――ああ、聞いたことあるかな――という感じにはなる。
でも、世田谷熊野明神はそういう感じではない。
「明治の初めに焼けてしまって、知ってる人は居なくても仕方がないかな」
「えと、その熊野明神の神主さんの家系だったりするの?」
白石というのはなんとなく東北のイメージ。
「熊野明神は熊野権現の他に八百比丘尼を祀っているの」
ハッピャク……八百比丘尼、聞いたことがある。
「聞いたことがあるという顔ね」
高校に入って隣りの席の子と話して共通の知人に思い至った感じ。
「人魚の肉を食べて永遠の命を得たって尼さんだったけ……?」
「うん、その八百比丘尼がわたしなの」
「え?」
「うん、登録番号48番、世田谷八百比丘尼」
48番なんだ(^_^;)
「もっと居るけど、わたしは48番」
まくさやえりなが「実は、ほんとうは男なんだ」と言っても、これほど驚かないだろうね。
「でも、その八百比丘尼がジサ……」
後の言葉は呑み込んだ。
「なんで自殺って思うよね……」
「え、あ、その……(^_^;)」
「昭和からこっち、少し力が弱くなってきて、歳をとるようになってきたの。むろん歳をとっても死ぬわけじゃないけどね、ヨボヨボとか寝たきりじゃなにもできないでしょ」
「え、あ、まあ……」
「体力も判断力も落ちるし、八百比丘尼が永遠の命を授けられているのは、世のため人のため。ただただ命ながらえて老人ホームで下の世話とかされていたんでは意味が無いわ」
「う、うん……」
「それでね、時どき肉体は滅ぼして生まれ変わるの。もう六回生まれ変わったわ。前世はバブルのころが青春時代。仲間引き連れてジュリアナのお立ち台で踊ってた、女でも不動産で大儲けできるってことを実証して。その前は、女性解放運動の闘士で〇〇党の女性議員。その前は国防婦人会のトップにいて。あれは比較的長い人生だったわ。夫がいたわ。陸軍の統制派の軍人で、わたしは夫の尻を叩いて、対米戦争をやれとハッパを掛けた。石原 莞爾閣下のお茶に下剤を仕込んで大事な会議に遅刻させたのも、わたしよ。結果、日本は無謀な戦争に走ってしまって。それから……」
それから、お母さんがお茶とお菓子を持ってきて話は中断。
主婦作家のお母さんは、日常系の小説が得意。ちょっぴり不思議な話題やテーマを織り込んで一定の評価を受けている。そんなお母さんの話の種にされてはかなわないので、話題を変え、お母さんも――さすがにまずいか――と五分ほどで降りていく。
「待てない未来があるの」
「待てない未来?」
「来年か五年先か、もうちょっと先か……何かは分からないけど、わたしが力を発揮しなければならない事態が迫ってる。その時にベストの状態でいるために、体を更新するの」
「それが昨日の屋上……」
「うん、でも大丈夫、当分はやらないわ」
「あはは……」
当分なんだ……(^_^;)
☆彡 主な登場人物
佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
佐倉 さつき さくらの姉
佐倉 惣次郎 さくらの父
佐久間 まくさ さくらのクラスメート
山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
秋元 さつきのバイト仲間
四ノ宮 忠八 道路工事のガードマン
香取 北町警察の巡査
第13話《世田谷八百比丘尼》
「熊野明神は知っているかしら?」
「クマノミョウジン?」
「世田谷熊野明神」
世田谷には20ちょっとの神社があるって、いつかお父さんが言っていた。
好事家のお父さんは、図書館勤務のせいか世田谷はおろか東京にあるお寺や神社の半分以上を知っている。「なんだ半分か」と反抗期の頃の兄貴がいったことがあるけど、「日本中の神社とお寺を合わせたらコンビニの倍近いんだぞ」と言っていた。そういう兄貴も今はアメリカと中国とロシアの軍艦はシルエットを見ただけで当ててしまう。
そういう趣味の無いわたしは、お寺なら豪徳寺、神社なら八幡さまと松陰神社くらいしか知らないけど、名前を言われたら――ああ、聞いたことあるかな――という感じにはなる。
でも、世田谷熊野明神はそういう感じではない。
「明治の初めに焼けてしまって、知ってる人は居なくても仕方がないかな」
「えと、その熊野明神の神主さんの家系だったりするの?」
白石というのはなんとなく東北のイメージ。
「熊野明神は熊野権現の他に八百比丘尼を祀っているの」
ハッピャク……八百比丘尼、聞いたことがある。
「聞いたことがあるという顔ね」
高校に入って隣りの席の子と話して共通の知人に思い至った感じ。
「人魚の肉を食べて永遠の命を得たって尼さんだったけ……?」
「うん、その八百比丘尼がわたしなの」
「え?」
「うん、登録番号48番、世田谷八百比丘尼」
48番なんだ(^_^;)
「もっと居るけど、わたしは48番」
まくさやえりなが「実は、ほんとうは男なんだ」と言っても、これほど驚かないだろうね。
「でも、その八百比丘尼がジサ……」
後の言葉は呑み込んだ。
「なんで自殺って思うよね……」
「え、あ、その……(^_^;)」
「昭和からこっち、少し力が弱くなってきて、歳をとるようになってきたの。むろん歳をとっても死ぬわけじゃないけどね、ヨボヨボとか寝たきりじゃなにもできないでしょ」
「え、あ、まあ……」
「体力も判断力も落ちるし、八百比丘尼が永遠の命を授けられているのは、世のため人のため。ただただ命ながらえて老人ホームで下の世話とかされていたんでは意味が無いわ」
「う、うん……」
「それでね、時どき肉体は滅ぼして生まれ変わるの。もう六回生まれ変わったわ。前世はバブルのころが青春時代。仲間引き連れてジュリアナのお立ち台で踊ってた、女でも不動産で大儲けできるってことを実証して。その前は、女性解放運動の闘士で〇〇党の女性議員。その前は国防婦人会のトップにいて。あれは比較的長い人生だったわ。夫がいたわ。陸軍の統制派の軍人で、わたしは夫の尻を叩いて、対米戦争をやれとハッパを掛けた。石原 莞爾閣下のお茶に下剤を仕込んで大事な会議に遅刻させたのも、わたしよ。結果、日本は無謀な戦争に走ってしまって。それから……」
それから、お母さんがお茶とお菓子を持ってきて話は中断。
主婦作家のお母さんは、日常系の小説が得意。ちょっぴり不思議な話題やテーマを織り込んで一定の評価を受けている。そんなお母さんの話の種にされてはかなわないので、話題を変え、お母さんも――さすがにまずいか――と五分ほどで降りていく。
「待てない未来があるの」
「待てない未来?」
「来年か五年先か、もうちょっと先か……何かは分からないけど、わたしが力を発揮しなければならない事態が迫ってる。その時にベストの状態でいるために、体を更新するの」
「それが昨日の屋上……」
「うん、でも大丈夫、当分はやらないわ」
「あはは……」
当分なんだ……(^_^;)
☆彡 主な登場人物
佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
佐倉 さつき さくらの姉
佐倉 惣次郎 さくらの父
佐久間 まくさ さくらのクラスメート
山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
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四ノ宮 忠八 道路工事のガードマン
香取 北町警察の巡査
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