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75『ドローンを船捕獲して佐世保に戻る』
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ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)
第75話《ドローンを船捕獲して佐世保に戻る》惣一
漁船の捕獲には意味がある。
船を捕まえる場合、普通は拿捕という。
しかし拿捕というのは人が乗っている船を指すので、ドローン船の場合は適当ではない。だから無人のボートやブイを確保するように捕獲(艦長は「捕まえろ」と言った)という。
言葉遊びではない。拿捕という言葉を使えば、その時点では漁船に人が乗っていると日本側が認識していたことになる。人が乗っている場合、たとえ領海侵犯をしていても人命を軽視したような行動はとれない。
まして、巡視船は有人船に対するように電光掲示板と大音量スピーカーで呼びかけていた。たかやすからはドローンであると知らせてはいたが、有人船の対応をしている。C国は――ドローンではなく人が乗っていた――と主張するに違いない。
その『有人船』を乱暴にも巡視船で挟み込んで爆発、沈没に至らせたのだから、相当の非難と攻撃を受ける。
そのために、艦長は現物を捕獲しろと命じたのだ。
その意味をたかやすの乗員は良く理解していたので、手すきの総員が甲板に上がって捕獲に務めた。
「誰か船に乗り込んで爆薬を無効化してこいや!」
艦長はブリッジのウィングに出てメガホンで叫んだ。
巨人阪神戦、ここ一番のところで阪神ファンが「ここは盗塁じゃあ!」とか「リリーフ出さんかい!」とか叫ぶのに似ている。
似てはいるが、これには日本の命運がかかっていると言っていい。
「自分が行きまーす!」
艦長に負けないくらいの声で応えると、他にも五名の手が上がる。
「ほんなら、佐倉、真田の二名! あとは介助に回れ、ホースを構えて火災にも備えとけ!」
俺と真田三曹はライフジャケットの上からロープを付けて、その先は甲板の仲間に預けて舷側に立った。二人とも胸とヘルメットにカメラを付けている。
たかやすはあかぎに比べると半分ほどの小艦艇だが、漁船はもっと小さい。乾舷の高さは二メートルほどの差がある。
それに、接触を避けるために防舷物を挟んであるので、一メートルちょっとの隙間ができている。
「乾舷がせり上がったところで飛び乗る」
「了解!」
さくらのことを思い出した。
さくらは年末の大掃除で、屋上から飛び降りようとしていた女生徒を助けた。体にロープを結び付けて、転落しながらも救助に成功したんだ。
あの時に似ている。
あの時、親父が勝ってきた土偶が割れた。あとで修復されていたが、よく見ると、耳の取れたまねき猫の人形だった。
その後、さくらが豪徳寺で小さいまねき猫を買って来て、俺とさつきにくれた。
あの、まねき猫……しまった、どこかにやってしまったかなぁ。
そう思った時、漁船の甲板がせり上がってきた。
「今だ!」
スタ!
我ながら、きれいに着地……と思ったら、真田三曹はたかやすの甲板に片手を残した状態で宙づりになっている。微妙にタイミングを外してしまったようだ。
「先に行く! 無理はするな!」
そう叫んでブリッジ。
ブリッジにはマネキンが舵輪のポールに固定されていた。計器盤の下にノートパソコン、こいつが船と爆薬を操作しているんだろう。
うかつには触れない。起爆してしまったら元も子もない。
沈んだ船から考えて爆薬は機関室だ。
ブリッジ後方のラッタルを下り、隔壁を挟んで機関室。
案の定両舷の壁と天井に爆薬、受信モジュールと繋いだだけの簡単なものだ。バッテリーのプラグを引き抜くと受信機のLEDが消えた。残りの二つも無効化したところで、真田三曹が入ってきた。
「プラグを引き抜いたんですか?」
「ああ、簡単な構造だったから」
「……おっしゃる通りのようです。中には、電源を切ると起爆する仕組みのもあります」
真田三曹は遠慮気味に言ったが、ゲリラが使う爆薬などは三曹が言うタイプが主流のようだった(^_^;)。
無事に爆薬の解除と船内捜索を済ますと、たかやすはドローン船を曳航して佐世保に帰った。
てっきり、防衛省の専門家が来てドローン船を調査するのかと思ったら、待ち構えていたのは海上保安庁だった。
「あくまで、陸上の事件と同様に扱うことになったらしい」
吉本艦長が9回の裏、ジャイアンツに逆転ホームランを打たれたような顔をして言った。
そのまま休暇になる……と期待したが、司令部からは抜錨の上、横須賀に向かえという指令だった。
ドローン船は遅れて入港したやしまが曳航して東京に引っ張っていくことになり、やしまの船長が挨拶に来た。
「ひとつ間違えば巡視船側に被害がでていたところでした。たかやすの臨機応変な対応で、船体の軽微な損傷ですみました。まことにありがとうございます」
念の入った挨拶に、艦長も俺たち乗員も半分ほどは納得した。
自衛隊も海上保安庁も現場は辛い。
「あっちはあっちで大変なんやなあ……」
舷門まで船長を見送って、波止場を自分の船に戻っていく船長の背中を見送りながら船長は呟いた。
「あれぇ、変な背広がやしまに乗って行きよるでぇ……」
波止場には黒塗りの公用車が停まっていて、後部座席から二人の背広が出てきて、気づいたやしまの船長は、ビシッと敬礼を決めると二人をやしまに誘った。
☆彡 主な登場人物
佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
佐倉 さつき さくらの姉
佐倉 惣次郎 さくらの父
佐倉 由紀子 さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
佐倉 惣一 さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
佐久間 まくさ さくらのクラスメート
山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
原 鈴奈 帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
坂東 はるか さくらの先輩女優
氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
秋元 さつきのバイト仲間
四ノ宮 忠八 道路工事のガードマン
四ノ宮 篤子 忠八の妹
明菜 惣一の女友達
香取 北町警察の巡査
クロウド Claude Leotard 陸自隊員
第75話《ドローンを船捕獲して佐世保に戻る》惣一
漁船の捕獲には意味がある。
船を捕まえる場合、普通は拿捕という。
しかし拿捕というのは人が乗っている船を指すので、ドローン船の場合は適当ではない。だから無人のボートやブイを確保するように捕獲(艦長は「捕まえろ」と言った)という。
言葉遊びではない。拿捕という言葉を使えば、その時点では漁船に人が乗っていると日本側が認識していたことになる。人が乗っている場合、たとえ領海侵犯をしていても人命を軽視したような行動はとれない。
まして、巡視船は有人船に対するように電光掲示板と大音量スピーカーで呼びかけていた。たかやすからはドローンであると知らせてはいたが、有人船の対応をしている。C国は――ドローンではなく人が乗っていた――と主張するに違いない。
その『有人船』を乱暴にも巡視船で挟み込んで爆発、沈没に至らせたのだから、相当の非難と攻撃を受ける。
そのために、艦長は現物を捕獲しろと命じたのだ。
その意味をたかやすの乗員は良く理解していたので、手すきの総員が甲板に上がって捕獲に務めた。
「誰か船に乗り込んで爆薬を無効化してこいや!」
艦長はブリッジのウィングに出てメガホンで叫んだ。
巨人阪神戦、ここ一番のところで阪神ファンが「ここは盗塁じゃあ!」とか「リリーフ出さんかい!」とか叫ぶのに似ている。
似てはいるが、これには日本の命運がかかっていると言っていい。
「自分が行きまーす!」
艦長に負けないくらいの声で応えると、他にも五名の手が上がる。
「ほんなら、佐倉、真田の二名! あとは介助に回れ、ホースを構えて火災にも備えとけ!」
俺と真田三曹はライフジャケットの上からロープを付けて、その先は甲板の仲間に預けて舷側に立った。二人とも胸とヘルメットにカメラを付けている。
たかやすはあかぎに比べると半分ほどの小艦艇だが、漁船はもっと小さい。乾舷の高さは二メートルほどの差がある。
それに、接触を避けるために防舷物を挟んであるので、一メートルちょっとの隙間ができている。
「乾舷がせり上がったところで飛び乗る」
「了解!」
さくらのことを思い出した。
さくらは年末の大掃除で、屋上から飛び降りようとしていた女生徒を助けた。体にロープを結び付けて、転落しながらも救助に成功したんだ。
あの時に似ている。
あの時、親父が勝ってきた土偶が割れた。あとで修復されていたが、よく見ると、耳の取れたまねき猫の人形だった。
その後、さくらが豪徳寺で小さいまねき猫を買って来て、俺とさつきにくれた。
あの、まねき猫……しまった、どこかにやってしまったかなぁ。
そう思った時、漁船の甲板がせり上がってきた。
「今だ!」
スタ!
我ながら、きれいに着地……と思ったら、真田三曹はたかやすの甲板に片手を残した状態で宙づりになっている。微妙にタイミングを外してしまったようだ。
「先に行く! 無理はするな!」
そう叫んでブリッジ。
ブリッジにはマネキンが舵輪のポールに固定されていた。計器盤の下にノートパソコン、こいつが船と爆薬を操作しているんだろう。
うかつには触れない。起爆してしまったら元も子もない。
沈んだ船から考えて爆薬は機関室だ。
ブリッジ後方のラッタルを下り、隔壁を挟んで機関室。
案の定両舷の壁と天井に爆薬、受信モジュールと繋いだだけの簡単なものだ。バッテリーのプラグを引き抜くと受信機のLEDが消えた。残りの二つも無効化したところで、真田三曹が入ってきた。
「プラグを引き抜いたんですか?」
「ああ、簡単な構造だったから」
「……おっしゃる通りのようです。中には、電源を切ると起爆する仕組みのもあります」
真田三曹は遠慮気味に言ったが、ゲリラが使う爆薬などは三曹が言うタイプが主流のようだった(^_^;)。
無事に爆薬の解除と船内捜索を済ますと、たかやすはドローン船を曳航して佐世保に帰った。
てっきり、防衛省の専門家が来てドローン船を調査するのかと思ったら、待ち構えていたのは海上保安庁だった。
「あくまで、陸上の事件と同様に扱うことになったらしい」
吉本艦長が9回の裏、ジャイアンツに逆転ホームランを打たれたような顔をして言った。
そのまま休暇になる……と期待したが、司令部からは抜錨の上、横須賀に向かえという指令だった。
ドローン船は遅れて入港したやしまが曳航して東京に引っ張っていくことになり、やしまの船長が挨拶に来た。
「ひとつ間違えば巡視船側に被害がでていたところでした。たかやすの臨機応変な対応で、船体の軽微な損傷ですみました。まことにありがとうございます」
念の入った挨拶に、艦長も俺たち乗員も半分ほどは納得した。
自衛隊も海上保安庁も現場は辛い。
「あっちはあっちで大変なんやなあ……」
舷門まで船長を見送って、波止場を自分の船に戻っていく船長の背中を見送りながら船長は呟いた。
「あれぇ、変な背広がやしまに乗って行きよるでぇ……」
波止場には黒塗りの公用車が停まっていて、後部座席から二人の背広が出てきて、気づいたやしまの船長は、ビシッと敬礼を決めると二人をやしまに誘った。
☆彡 主な登場人物
佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
佐倉 さつき さくらの姉
佐倉 惣次郎 さくらの父
佐倉 由紀子 さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
佐倉 惣一 さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
佐久間 まくさ さくらのクラスメート
山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
原 鈴奈 帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
坂東 はるか さくらの先輩女優
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