ここは世田谷豪徳寺

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
88 / 139

88『長徳寺の終戦・1』

しおりを挟む
ここは世田谷豪徳寺

88『長徳寺の終戦・1』(さくら編) 




「代役だけど、おもしろい役なんだ、どうだろ?」

 吾妻さん、顔は笑っていたけど目は真剣だった。

「でも、たった一週間じゃ……」

 正直自信はない。

 ことの始まりは三日前。


 新宿での、ちょっとした車同士の接触事故だった。一方は示談ですませようとし、相手も、それに乗りかけた時、通行人が警察に通報してしまった。
 すぐに警察が来たが、示談が成立しかけていたので、実況見分だけやって済ますつもりでいた。

 ところが、一方の車内から脱法ハーブが出てきてしまった。

 で、その車の持ち主がYという俳優で、同乗していた女性が三越紀香という女優であったことが問題だった。

 紀香は、番組の打ち合わせのあと、Yに誘われて車に乗せてもらって帰宅する途中だった。警察の取り調べの結果、Yが脱法ハーブを使っていたことは明らかになったが、三越は無関係であることが分かった。

 しかし、それで済まないのが芸能界だ。

 三越紀香が出ているCMは中止になり、収録済みの番組も、編集しなおしたり、放送中止になったりした。

 その一つが、終戦の日の記念番組『長徳寺の終戦』だった。

 話は、長徳寺という八王子の寺の開戦から終戦までの物語。

 三越の役は、寺の七人姉弟の長女の役。毎週のように繰り返される出征兵士の見送りと、それと同じ数だけの骨箱だけのお葬式。
 疎開児童の引き受け、そして自分自身女子挺身隊にとられ、慣れない飛行機工場での労働や苦労のエピソードで綴られている庶民の戦争体験をコミカルに描いた三時間ドラマだった。

「全部撮りなおすわけじゃないんだ。三越紀香がはっきり写っている一時間分だけの撮り直し。やってくれないかなあ」

 一応お願いのかたちだけど、吾妻さんが引き受けてしまったのは見え見えだった。

 で、あたしは、もうすぐ期末テストだった……なんて、この世界では関係ない。

「……分かりました」

 そう答えるしかなかった。

「じゃ、さっそく行ってもらいたいんだ」

「はい、放送局ですね」

「の前に寄ってもらうところがある」

 で、あたしを乗せた車は、なぜか、あたしの地元の豪徳寺に寄ることになった。

 なんで?

 答えは、豪徳寺の境内に入ってすぐに分かった。三越紀香その人が待っていたのだ。

 大先輩に深々と頭を下げられて恐縮した。

「わたしの不始末のために、ご迷惑かけます」

「と、とんでもない。突然のいきなりですけど、三越さんの名前を汚さないようにがんばります!」

 へんてこな常套句しか出てこなかった。

 それから、しどろもどろになりながら、話をした後、本堂にお参りした。

「長徳寺って、架空のお寺だけど、豪徳寺と、どことなく似てるじゃない。それにさくらちゃんの地元でもあるし、お詫びと引継ぎと、撮影の成功をお願いするのにはピッタリだと思ったの。これ、番組の成功と、さくらちゃんの一層の成長を祈って……受け取ってくれる?」

 三越さんは、風呂敷包みから、招き猫を取り出した。

「あ、招き猫!」

 思い出した。

 豪徳寺は招き猫発祥の地だった。

 そして気づいた。

 ずっとカメラが回っていたことを。この業界、無駄なことはしません。なんでもネタだ……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】メインヒロインとの恋愛フラグを全部ブチ壊した俺、サブヒロインと付き合うことにする

エース皇命
青春
《将来ヤンデレになるメインヒロインより、サブヒロインの方が良くね?》  16歳で自分が前世にハマっていた学園ドラマの主人公の人生を送っていることに気付いた風野白狼。しかしそこで、今ちょうどいい感じのメインヒロインが付き合ったらヤンデレであることを思い出す。  告白されて付き合うのは2か月後。  それまでに起こる体育祭イベント、文化祭イベントでの恋愛フラグを全てぶち壊し、3人の脈ありサブヒロインと付き合うために攻略を始めていく。  3人のサブヒロインもまた曲者揃い。  猫系ふわふわガールの火波 猫音子に、ツンデレ義姉の風野 犬織、アニオタボーイッシュガールの空賀 栗涼。  この3人の中から、最終的に誰を選び、付き合うことになるのか。てかそもそも彼女たちを落とせるのか!?  もちろん、メインヒロインも黙ってはいない!  5人の癖強キャラたちが爆走する、イレギュラーなラブコメ、ここに誕生! ※カクヨム、小説家になろうでも連載中!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...