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88『長徳寺の終戦・1』
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ここは世田谷豪徳寺
88『長徳寺の終戦・1』(さくら編)
「代役だけど、おもしろい役なんだ、どうだろ?」
吾妻さん、顔は笑っていたけど目は真剣だった。
「でも、たった一週間じゃ……」
正直自信はない。
ことの始まりは三日前。
新宿での、ちょっとした車同士の接触事故だった。一方は示談ですませようとし、相手も、それに乗りかけた時、通行人が警察に通報してしまった。
すぐに警察が来たが、示談が成立しかけていたので、実況見分だけやって済ますつもりでいた。
ところが、一方の車内から脱法ハーブが出てきてしまった。
で、その車の持ち主がYという俳優で、同乗していた女性が三越紀香という女優であったことが問題だった。
紀香は、番組の打ち合わせのあと、Yに誘われて車に乗せてもらって帰宅する途中だった。警察の取り調べの結果、Yが脱法ハーブを使っていたことは明らかになったが、三越は無関係であることが分かった。
しかし、それで済まないのが芸能界だ。
三越紀香が出ているCMは中止になり、収録済みの番組も、編集しなおしたり、放送中止になったりした。
その一つが、終戦の日の記念番組『長徳寺の終戦』だった。
話は、長徳寺という八王子の寺の開戦から終戦までの物語。
三越の役は、寺の七人姉弟の長女の役。毎週のように繰り返される出征兵士の見送りと、それと同じ数だけの骨箱だけのお葬式。
疎開児童の引き受け、そして自分自身女子挺身隊にとられ、慣れない飛行機工場での労働や苦労のエピソードで綴られている庶民の戦争体験をコミカルに描いた三時間ドラマだった。
「全部撮りなおすわけじゃないんだ。三越紀香がはっきり写っている一時間分だけの撮り直し。やってくれないかなあ」
一応お願いのかたちだけど、吾妻さんが引き受けてしまったのは見え見えだった。
で、あたしは、もうすぐ期末テストだった……なんて、この世界では関係ない。
「……分かりました」
そう答えるしかなかった。
「じゃ、さっそく行ってもらいたいんだ」
「はい、放送局ですね」
「の前に寄ってもらうところがある」
で、あたしを乗せた車は、なぜか、あたしの地元の豪徳寺に寄ることになった。
なんで?
答えは、豪徳寺の境内に入ってすぐに分かった。三越紀香その人が待っていたのだ。
大先輩に深々と頭を下げられて恐縮した。
「わたしの不始末のために、ご迷惑かけます」
「と、とんでもない。突然のいきなりですけど、三越さんの名前を汚さないようにがんばります!」
へんてこな常套句しか出てこなかった。
それから、しどろもどろになりながら、話をした後、本堂にお参りした。
「長徳寺って、架空のお寺だけど、豪徳寺と、どことなく似てるじゃない。それにさくらちゃんの地元でもあるし、お詫びと引継ぎと、撮影の成功をお願いするのにはピッタリだと思ったの。これ、番組の成功と、さくらちゃんの一層の成長を祈って……受け取ってくれる?」
三越さんは、風呂敷包みから、招き猫を取り出した。
「あ、招き猫!」
思い出した。
豪徳寺は招き猫発祥の地だった。
そして気づいた。
ずっとカメラが回っていたことを。この業界、無駄なことはしません。なんでもネタだ……。
88『長徳寺の終戦・1』(さくら編)
「代役だけど、おもしろい役なんだ、どうだろ?」
吾妻さん、顔は笑っていたけど目は真剣だった。
「でも、たった一週間じゃ……」
正直自信はない。
ことの始まりは三日前。
新宿での、ちょっとした車同士の接触事故だった。一方は示談ですませようとし、相手も、それに乗りかけた時、通行人が警察に通報してしまった。
すぐに警察が来たが、示談が成立しかけていたので、実況見分だけやって済ますつもりでいた。
ところが、一方の車内から脱法ハーブが出てきてしまった。
で、その車の持ち主がYという俳優で、同乗していた女性が三越紀香という女優であったことが問題だった。
紀香は、番組の打ち合わせのあと、Yに誘われて車に乗せてもらって帰宅する途中だった。警察の取り調べの結果、Yが脱法ハーブを使っていたことは明らかになったが、三越は無関係であることが分かった。
しかし、それで済まないのが芸能界だ。
三越紀香が出ているCMは中止になり、収録済みの番組も、編集しなおしたり、放送中止になったりした。
その一つが、終戦の日の記念番組『長徳寺の終戦』だった。
話は、長徳寺という八王子の寺の開戦から終戦までの物語。
三越の役は、寺の七人姉弟の長女の役。毎週のように繰り返される出征兵士の見送りと、それと同じ数だけの骨箱だけのお葬式。
疎開児童の引き受け、そして自分自身女子挺身隊にとられ、慣れない飛行機工場での労働や苦労のエピソードで綴られている庶民の戦争体験をコミカルに描いた三時間ドラマだった。
「全部撮りなおすわけじゃないんだ。三越紀香がはっきり写っている一時間分だけの撮り直し。やってくれないかなあ」
一応お願いのかたちだけど、吾妻さんが引き受けてしまったのは見え見えだった。
で、あたしは、もうすぐ期末テストだった……なんて、この世界では関係ない。
「……分かりました」
そう答えるしかなかった。
「じゃ、さっそく行ってもらいたいんだ」
「はい、放送局ですね」
「の前に寄ってもらうところがある」
で、あたしを乗せた車は、なぜか、あたしの地元の豪徳寺に寄ることになった。
なんで?
答えは、豪徳寺の境内に入ってすぐに分かった。三越紀香その人が待っていたのだ。
大先輩に深々と頭を下げられて恐縮した。
「わたしの不始末のために、ご迷惑かけます」
「と、とんでもない。突然のいきなりですけど、三越さんの名前を汚さないようにがんばります!」
へんてこな常套句しか出てこなかった。
それから、しどろもどろになりながら、話をした後、本堂にお参りした。
「長徳寺って、架空のお寺だけど、豪徳寺と、どことなく似てるじゃない。それにさくらちゃんの地元でもあるし、お詫びと引継ぎと、撮影の成功をお願いするのにはピッタリだと思ったの。これ、番組の成功と、さくらちゃんの一層の成長を祈って……受け取ってくれる?」
三越さんは、風呂敷包みから、招き猫を取り出した。
「あ、招き猫!」
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