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87『吉本一佐の退職』
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ここは世田谷豪徳寺・87(惣一編)
『吉本一佐の退職』
吉本一佐はGパンにポロシャツというナリで裏門を出ようとしていた。
「待ってください、艦長!」
我々は、一世に駆けだした。
「あちゃー、見つかってしもたな」
護衛艦たかやすの艦長吉本一佐は、オンボロ艦隊の司令職も解かれ、定年にまだ数週間を残し、依願退職というカタチで自衛隊を放り出されようとしている。
「言うとくけどな、この依願退職は、わしが言いだしたこっちゃ。基地司令は、せめて定年退官をて言うてくれたんやけどな。自衛隊に迷惑かけられへんよってな」
「しかし艦長。世論の中には、艦長や我々の戦いを擁護、いや、積極的に賞揚する声もあります」
「国際的な常識から言っても、我々の戦闘は完全無欠な自衛行動です」
「艦長のお気持ちも分からんではありませんが、二十五万の自衛官の士気にかかわります」
艦長は首をコキっと言わせて切り出した。
「こないだ集団的自衛権に反対して、焼身自殺しかけた人も居てる。C国が分裂した責任がわしらにある言うもんもおる。基地の正門前には市民団体がピケ張っとる。せやけど、自衛官たるもん一切反応したらあかん。いずれ歴史が、わしらがやったことを判定しよる。それから……佐倉君、ポケットに入ってるもん出し」
見透かされていた。オレは黙って、白い封筒を取り出した。
「こんなことで連れション気分出すなよ」
「連れションでもありますが、わたしは、自衛隊が嫌になりました」
「君が嫌になっても、自衛隊は君を嫌にはなってへんで。あの海戦でわしらが無傷でおられたんは、いつにかかって君らの技量と錬度や。そんな自衛官を養成すんのにどれほどの税金と時間がかかってるか、よう考えならあかんで」
「しかし、我々が無傷であったことも世論は過剰防衛……いや、C国艦隊をなぶり殺しにしたとも言われています」
「これが現代戦や。我々の反応が数秒遅れてたら、状況は逆になってた。君らは最善を尽くした。そのことが分かってたら、それを胸にしまい込んで、明日の糧にせえ。まだまだ東アジアの状況は不安定や。気ぃ抜かんときばれ。な、ほんなら行くで」
吉本艦長は、まるで出入りの業者のように飄々と裏門を出た。
門衛の敬礼にもオッサン然と頭を下げただけである。我々は、まだ収まらず、裏門の際まで迫った。すると裏門に通じる道を一台の軽自動車がやってくるのが分かった。市民団体に見つかったかと一瞬緊張した。
車から出てきたのは、艦長同様ポロシャツにGパンという外人のオッサンだった。一呼吸して気づいた。
「ジェンキンス司令!?」
我々は、一斉に敬礼した。相手は在日佐世保アメリカ海軍のジェンキンス司令官だった。司令官は慌てて、我々の敬礼をやめさせた。
「吉本さん。四月にやったゴルフ、ドローだったから、勝負つけようよ。ちょうどボクも休暇だし」
「アメリカの諜報は、一枚上手やなあ。わしちょっとも凹んでへんさかい、負けしませんよ」
「口ではなんとでも言える。正門前にいる人たちみたいにね」
「しゃあないなあ。ほなワンラウンドだけ……」
日米のオッサン二人は軽自動車に乗っていってしまった。
かなわないと思った。
しかし、自衛官としてのオレは、全く面白くなかった。
『吉本一佐の退職』
吉本一佐はGパンにポロシャツというナリで裏門を出ようとしていた。
「待ってください、艦長!」
我々は、一世に駆けだした。
「あちゃー、見つかってしもたな」
護衛艦たかやすの艦長吉本一佐は、オンボロ艦隊の司令職も解かれ、定年にまだ数週間を残し、依願退職というカタチで自衛隊を放り出されようとしている。
「言うとくけどな、この依願退職は、わしが言いだしたこっちゃ。基地司令は、せめて定年退官をて言うてくれたんやけどな。自衛隊に迷惑かけられへんよってな」
「しかし艦長。世論の中には、艦長や我々の戦いを擁護、いや、積極的に賞揚する声もあります」
「国際的な常識から言っても、我々の戦闘は完全無欠な自衛行動です」
「艦長のお気持ちも分からんではありませんが、二十五万の自衛官の士気にかかわります」
艦長は首をコキっと言わせて切り出した。
「こないだ集団的自衛権に反対して、焼身自殺しかけた人も居てる。C国が分裂した責任がわしらにある言うもんもおる。基地の正門前には市民団体がピケ張っとる。せやけど、自衛官たるもん一切反応したらあかん。いずれ歴史が、わしらがやったことを判定しよる。それから……佐倉君、ポケットに入ってるもん出し」
見透かされていた。オレは黙って、白い封筒を取り出した。
「こんなことで連れション気分出すなよ」
「連れションでもありますが、わたしは、自衛隊が嫌になりました」
「君が嫌になっても、自衛隊は君を嫌にはなってへんで。あの海戦でわしらが無傷でおられたんは、いつにかかって君らの技量と錬度や。そんな自衛官を養成すんのにどれほどの税金と時間がかかってるか、よう考えならあかんで」
「しかし、我々が無傷であったことも世論は過剰防衛……いや、C国艦隊をなぶり殺しにしたとも言われています」
「これが現代戦や。我々の反応が数秒遅れてたら、状況は逆になってた。君らは最善を尽くした。そのことが分かってたら、それを胸にしまい込んで、明日の糧にせえ。まだまだ東アジアの状況は不安定や。気ぃ抜かんときばれ。な、ほんなら行くで」
吉本艦長は、まるで出入りの業者のように飄々と裏門を出た。
門衛の敬礼にもオッサン然と頭を下げただけである。我々は、まだ収まらず、裏門の際まで迫った。すると裏門に通じる道を一台の軽自動車がやってくるのが分かった。市民団体に見つかったかと一瞬緊張した。
車から出てきたのは、艦長同様ポロシャツにGパンという外人のオッサンだった。一呼吸して気づいた。
「ジェンキンス司令!?」
我々は、一斉に敬礼した。相手は在日佐世保アメリカ海軍のジェンキンス司令官だった。司令官は慌てて、我々の敬礼をやめさせた。
「吉本さん。四月にやったゴルフ、ドローだったから、勝負つけようよ。ちょうどボクも休暇だし」
「アメリカの諜報は、一枚上手やなあ。わしちょっとも凹んでへんさかい、負けしませんよ」
「口ではなんとでも言える。正門前にいる人たちみたいにね」
「しゃあないなあ。ほなワンラウンドだけ……」
日米のオッサン二人は軽自動車に乗っていってしまった。
かなわないと思った。
しかし、自衛官としてのオレは、全く面白くなかった。
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