13 / 432
013『ひと月ぶりに大和川を超える』
しおりを挟む
せやさかい・013
『ひと月ぶりに大和川を超える』
ひと月ぶりに大和川を超える。
この前は北の大阪市から超えて堺市に入ってきた。お父さんの失踪宣告をして苗字もお母さんの酒井になって越してきた。
難波行の電車は大和川を超える鉄橋に差しかかって窓の外に堤防が見えてくる。
ちょっとこみ上げて来るもんがある。
来るときは思わへんかった。生まれてからずっと大阪市のA区に住んでた。
保育所から中学校卒業するまでずっと住んでた。
そのわりに、引っ越すときに、こみ上げてくるもんとか想いとかはなかった。
わたして、案外ドライな子ぉなんちゃうやろかと思た。
別にお母さんに気ぃ遣うてのことやない。正直、お母さんは、もうちょっと娘に気ぃ遣うてもええんちゃうかと思うくらいやった。
案外簡単に新生活に馴染めるんやないかと思たし、じっさい、家にも学校にも馴染んだ。
ガタンゴトン ガタンゴトン
鉄橋に差しかかって、振動が変わる。
普通のレールの上を走ってる時よりも体の芯まで伝わってくるような振動。
ガタンゴトン ガタンゴトン
心の引き出しがゆすぶられて、直してたもんが出てくるような、そんな響き。
あかん、涙が滲んでくる。
ハンカチ出そかと思たけど、こっそり涙が流れるよりはハンカチで涙拭く動作の方が大きい。きっと車内の人が変に思う。
筋向いに座ってる四歳くらいの女の子が、こっち向いてる。
あ、あ、どないしょ。めっちゃ心配そうな顔してるし。
顔を背けて窓の外を見る……あ、あかん、涙が流れ落ちてきた。
ズズーーッ
どないしょ、無意識に鼻すすってしもた!
「どうぞ……」
女の子がハンカチを差し出してくれてる。ああ、めっちゃ動揺する!
「あ、大丈夫よ、ちょっと花粉症でね」
ヘラっと笑顔を作るけど「そんでも……」と女の子は手を引っ込めない。
「ハンカチやったら、自分で持ってるし」
自分のハンカチで涙を拭く。
すると女の子は、空いてたシートの横に上がってきて、小さな手で、わたしの頭を撫で始めた。
「いいこいいこ いいこいいこ」
「あ、アハハハ(#*´ω`*#)」
「ちょっと、ユイちゃん!」
お母さんがたしなめて、女の子を引き剥がす。
「ごめんなさいね」
「あ、いえ」
女の子が振る手に、わたしも小さく振って応える。
そうそう、なんで電車に乗って大和川を超えているかと言うと、コトハちゃんの吹部の定期演奏会があるからなんです。
その演奏会の話をするつもりやったのにね。
その話は、また今度します。
『ひと月ぶりに大和川を超える』
ひと月ぶりに大和川を超える。
この前は北の大阪市から超えて堺市に入ってきた。お父さんの失踪宣告をして苗字もお母さんの酒井になって越してきた。
難波行の電車は大和川を超える鉄橋に差しかかって窓の外に堤防が見えてくる。
ちょっとこみ上げて来るもんがある。
来るときは思わへんかった。生まれてからずっと大阪市のA区に住んでた。
保育所から中学校卒業するまでずっと住んでた。
そのわりに、引っ越すときに、こみ上げてくるもんとか想いとかはなかった。
わたして、案外ドライな子ぉなんちゃうやろかと思た。
別にお母さんに気ぃ遣うてのことやない。正直、お母さんは、もうちょっと娘に気ぃ遣うてもええんちゃうかと思うくらいやった。
案外簡単に新生活に馴染めるんやないかと思たし、じっさい、家にも学校にも馴染んだ。
ガタンゴトン ガタンゴトン
鉄橋に差しかかって、振動が変わる。
普通のレールの上を走ってる時よりも体の芯まで伝わってくるような振動。
ガタンゴトン ガタンゴトン
心の引き出しがゆすぶられて、直してたもんが出てくるような、そんな響き。
あかん、涙が滲んでくる。
ハンカチ出そかと思たけど、こっそり涙が流れるよりはハンカチで涙拭く動作の方が大きい。きっと車内の人が変に思う。
筋向いに座ってる四歳くらいの女の子が、こっち向いてる。
あ、あ、どないしょ。めっちゃ心配そうな顔してるし。
顔を背けて窓の外を見る……あ、あかん、涙が流れ落ちてきた。
ズズーーッ
どないしょ、無意識に鼻すすってしもた!
「どうぞ……」
女の子がハンカチを差し出してくれてる。ああ、めっちゃ動揺する!
「あ、大丈夫よ、ちょっと花粉症でね」
ヘラっと笑顔を作るけど「そんでも……」と女の子は手を引っ込めない。
「ハンカチやったら、自分で持ってるし」
自分のハンカチで涙を拭く。
すると女の子は、空いてたシートの横に上がってきて、小さな手で、わたしの頭を撫で始めた。
「いいこいいこ いいこいいこ」
「あ、アハハハ(#*´ω`*#)」
「ちょっと、ユイちゃん!」
お母さんがたしなめて、女の子を引き剥がす。
「ごめんなさいね」
「あ、いえ」
女の子が振る手に、わたしも小さく振って応える。
そうそう、なんで電車に乗って大和川を超えているかと言うと、コトハちゃんの吹部の定期演奏会があるからなんです。
その演奏会の話をするつもりやったのにね。
その話は、また今度します。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜
中岡 始
BL
「辰巳会の次期跡取りは、俺の息子――辰巳悠真や」
大阪を拠点とする巨大極道組織・辰巳会。その跡取りとして名を告げられたのは、一見するとただの天然ボンボンにしか見えない、超絶美貌の若き御曹司だった。
しかも、現役大学生である。
「え、あの子で大丈夫なんか……?」
幹部たちの不安をよそに、悠真は「ふわふわ天然」な言動を繰り返しながらも、確実に辰巳会を掌握していく。
――誰もが気づかないうちに。
専属護衛として選ばれたのは、寡黙な武闘派No.1・久我陣。
「命に代えても、お守りします」
そう誓った陣だったが、悠真の"ただの跡取り"とは思えない鋭さに次第に気づき始める。
そして辰巳会の跡目争いが激化する中、敵対組織・六波羅会が悠真の命を狙い、抗争の火種が燻り始める――
「僕、舐められるの得意やねん」
敵の思惑をすべて見透かし、逆に追い詰める悠真の冷徹な手腕。
その圧倒的な"跡取り"としての覚醒を、誰よりも近くで見届けた陣は、次第に自分の心が揺れ動くのを感じていた。
それは忠誠か、それとも――
そして、悠真自身もまた「陣の存在が自分にとって何なのか」を考え始める。
「僕、陣さんおらんと困る。それって、好きってことちゃう?」
最強の天然跡取り × 一途な忠誠心を貫く武闘派護衛。
極道の世界で交差する、戦いと策謀、そして"特別"な感情。
これは、跡取りが"覚醒"し、そして"恋を知る"物語。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
アレンジ可シチュボ等のフリー台本集77選
上津英
大衆娯楽
シチュエーションボイス等のフリー台本集です。女性向けで書いていますが、男性向けでの使用も可です。
一人用の短い恋愛系中心。
【利用規約】
・一人称・語尾・方言・男女逆転などのアレンジはご自由に。
・シチュボ以外にもASMR・ボイスドラマ・朗読・配信・声劇にどうぞお使いください。
・個人の使用報告は不要ですが、クレジットの表記はお願い致します。
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる