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088『六時間目』

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せやさかい

088『六時間目』 

 

 
 頼子さんのお祖母ちゃんが来る。

 
 ただのお婆ちゃんやない、ヤマセンブルグの女王陛下。

 天皇陛下の即位式には総理大臣が出席したんやけど、君主国として王族を派遣せえへんのは、ちょっと礼儀に欠けるらしい。

 夏休みにお会いした時はお元気そうやったけど、循環器系の持病をお持ちやったらしい。

「頼子さんが出るべきだったんじゃないかなあ」

 留美ちゃんは言う。

 女王陛下が出られへんかったら、王位第一継承権を持つ頼子さんが出るのが順当らしいけど、頼子さんは二重国籍で、まだ正式の継承者にはなってない。

 女王陛下の来日は、遅ればせながら天皇陛下の即位のお祝いが主目的。頼子さんに会いに来るのは『ついでに』ということらしい。

 でも『ついでに』いうのは、あくまで建前で、いや、即位のお祝いが『ついでに』ということやなくて、頼子さんの事が同じくらい大事なことにちがいない。

 二十二歳までには国籍選択をせなあかんらしい。

 ヤマセンブルグの国籍を選べへんかったら王位継承権を失う。

「週末にでも来はるんですか?」

 つい庶民の感覚で聞いてしまう。

「天皇陛下にお会いするのは、一か月以上前に申し込まなきゃならないのよ」

「そうなん?」

「うん、習近平さんが慣例を破って三週間前に会った時はヒンシュクだったって」

「シュウキンペイさんて?」

「中国の国家主席!」

 留美ちゃんの博識には驚くよ、ほんま。

「おい、喋ってんと自習課題やれよ」

「「はーーい」」

 自習監督の先生に怒られる。いまは六時間目、菅ちゃんの授業やねんけど、菅ちゃんは休み。で、ついつい留美ちゃんと話し込んでしもたという次第。

「さてと……」

 自習課題のプリント……ヤバイ、まだ名前しか書いてへん(^_^;)。

 チラッと前の留美ちゃんを見る。

 なんと、全部仕上げて文庫本を読んでる(早く仕上がった者は読書してええいうことになってる)。こういうことで、人生、差が付くんやろなあ。

 
「掃除、サボんなよお!」

 
 遅刻のし過ぎで掃除を命じられてる瀬田と田中のヘッポココンビにイヤミを言うて、廊下に。

 向こうの階段からドタドタ駆け上がって来る音がする。

「あ、頼子さん!?」

 ヤマセンブルグ第一王位継承者さまが、頬っぺたを赤くして駆け上がってきた。

「重大ニュース!」

 え、また、女王陛下のお祖母さま!?

「焼き芋屋の新装開店! 本日限りの半額だってさ!」

「「え? あ、アハハハ……」」

「さっさと行かなきゃ、売り切れちゃうよ! ウァチャ!」

 人とぶつかりかけてタタラを踏んで、オッサンみたいな声をあげる頼子さん。

 あたしも留美ちゃんも、こういう頼子さんが大好きです!

 
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