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090『富岳百景・1』
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せやさかい
090『富岳百景・1』
あら、月見草。
部室に入るなり、頼子さんが気が付いた。
実は、コトハちゃんからもらった。
「わ、かわいい花!」
「よかったらあげるよ。授業で余ったやつだから」
もらって、小さな花瓶に生けたんやけど、部室に飾ることを思いついた。
部室は本堂裏の和室で、ちゃんと床の間もある。
床の間には、古い掛け軸が掛かってるんやけど、彩りに欠ける。
花瓶のまま置いたら、なんや床の間にはそぐわない。
おばちゃんに言うて、花器と剣山を借り、ちょっと自己流に活けてみた。
我ながら美しく活けられて、部活が始まったら気ぃつくやろかと、ちょっと楽しみ。
そして、頼子さんがノッケに気ぃついてくれたんで嬉しい。
「富士には月見草が、よく似合う……だよね」
こんどは留美ちゃん意味深なことを言う。
「富士山?」
「ほら、掛け軸。狙ったんじゃないの?」
言われて初めて気ぃついた。掛け軸は富士山の水墨画。
「最初から、この掛け軸やけど」
「うん、なんか軸が掛かってるのは分かってたけど、富士山だったのは気づかなかったなあ」
頼子さんは腕を組んで感心する。
「なんかあるんですか、この組み合わせ?」
「太宰治よ」
「手塚治虫やったら知ってますけど」
「『走れメロス』とか、習わなかった?」
「ああ、習いました!」
「その『走れメロス』書いた人だよ」
六年の国語で習った。習ったけど、作者までは憶えてへんかった。なんや、オッサンがブツブツ言いながら走る話やった?
頼子さんも留美ちゃんも、さすがは文芸部!
「けど、『走れメロス』に花なんか出てきた?」
「ううん、『富嶽百景』って小説に出てくる」
「ふがくひゃっけい……」
「あ、うん、こんな小説だよ」
留美ちゃんが手際よくパソコンのウィキペディアを開く。
「二人とも『富岳百景』読んだんですか?」
「「うん」」
かくして、あたしは『富岳百景』を遅ればせながら読んでみることになった。
「それなら、あるわよ」
晩御飯で、その話をしたらコトハちゃんがお箸をおいて本を取りに行ってくれた。
「ほら、これ」
コトハちゃんがお箸を伸ばしかけてたエビフライを――とったら悪いなあ――と迷ってるうちに持ってきてくれた。
「うわ、分厚い本」
「表題になってるからね、他の小説も載ってるから『富岳百景』は四十ページほどだよ」
「あ、それ、オレが詩(ことは)にやったやつやな」
テイ兄ちゃんがエビフライをかっさらいながら言う。
「アハハ、わたしも『富岳百景』しか読んでないんだ」
パラパラとめくってみる。
―― 昭和十三年の初秋、 思いを新たにする覚悟で鞄一つ下げて旅に出た…… ――
最初の書き出しでビックリした。
『富岳百景』の表題からのイメージは時代劇、ビジュアル的には永谷園のお茶漬けのり。
ほら、パックの中に浮世絵のカードが入ってるでしょ。
「それは『富岳三十六景』やで」
そうなんや!
と思ったら、目の前のエビフライが無くなってしもてた。
090『富岳百景・1』
あら、月見草。
部室に入るなり、頼子さんが気が付いた。
実は、コトハちゃんからもらった。
「わ、かわいい花!」
「よかったらあげるよ。授業で余ったやつだから」
もらって、小さな花瓶に生けたんやけど、部室に飾ることを思いついた。
部室は本堂裏の和室で、ちゃんと床の間もある。
床の間には、古い掛け軸が掛かってるんやけど、彩りに欠ける。
花瓶のまま置いたら、なんや床の間にはそぐわない。
おばちゃんに言うて、花器と剣山を借り、ちょっと自己流に活けてみた。
我ながら美しく活けられて、部活が始まったら気ぃつくやろかと、ちょっと楽しみ。
そして、頼子さんがノッケに気ぃついてくれたんで嬉しい。
「富士には月見草が、よく似合う……だよね」
こんどは留美ちゃん意味深なことを言う。
「富士山?」
「ほら、掛け軸。狙ったんじゃないの?」
言われて初めて気ぃついた。掛け軸は富士山の水墨画。
「最初から、この掛け軸やけど」
「うん、なんか軸が掛かってるのは分かってたけど、富士山だったのは気づかなかったなあ」
頼子さんは腕を組んで感心する。
「なんかあるんですか、この組み合わせ?」
「太宰治よ」
「手塚治虫やったら知ってますけど」
「『走れメロス』とか、習わなかった?」
「ああ、習いました!」
「その『走れメロス』書いた人だよ」
六年の国語で習った。習ったけど、作者までは憶えてへんかった。なんや、オッサンがブツブツ言いながら走る話やった?
頼子さんも留美ちゃんも、さすがは文芸部!
「けど、『走れメロス』に花なんか出てきた?」
「ううん、『富嶽百景』って小説に出てくる」
「ふがくひゃっけい……」
「あ、うん、こんな小説だよ」
留美ちゃんが手際よくパソコンのウィキペディアを開く。
「二人とも『富岳百景』読んだんですか?」
「「うん」」
かくして、あたしは『富岳百景』を遅ればせながら読んでみることになった。
「それなら、あるわよ」
晩御飯で、その話をしたらコトハちゃんがお箸をおいて本を取りに行ってくれた。
「ほら、これ」
コトハちゃんがお箸を伸ばしかけてたエビフライを――とったら悪いなあ――と迷ってるうちに持ってきてくれた。
「うわ、分厚い本」
「表題になってるからね、他の小説も載ってるから『富岳百景』は四十ページほどだよ」
「あ、それ、オレが詩(ことは)にやったやつやな」
テイ兄ちゃんがエビフライをかっさらいながら言う。
「アハハ、わたしも『富岳百景』しか読んでないんだ」
パラパラとめくってみる。
―― 昭和十三年の初秋、 思いを新たにする覚悟で鞄一つ下げて旅に出た…… ――
最初の書き出しでビックリした。
『富岳百景』の表題からのイメージは時代劇、ビジュアル的には永谷園のお茶漬けのり。
ほら、パックの中に浮世絵のカードが入ってるでしょ。
「それは『富岳三十六景』やで」
そうなんや!
と思ったら、目の前のエビフライが無くなってしもてた。
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