せやさかい

武者走走九郎or大橋むつお

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274『送辞と声優と』

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せやさかい

274『送辞と声優と』頼子     




 声優というのは化け物だと思う。


 オタクというほどではないけど、けっこうアニメは観るほう。

 ハマったのは、寝付けないまま深夜に観るようになったからなんだけど。寝られるようになってからも、そのグレードの高さから観続けるようになった。

 え、この声も○○さん!?

 そういう騙されたのが分かった瞬間の『してやられた感』が好き。してやるのが好きなわたしは、こういう時のゾクゾク感がたまらない。わたしも、こういうの出来たらいいなアと思いつつ、意外な『同じ声優』を発見して喜んでいた。

 古いところじゃ、ミッキーマウスの声がウォルトディズニー、その人だったとか。

『けいおん』のあずにゃんが『オレイモ』の桐乃と同じ声優さん。

「そんなの、いっぱつで分かるでしょ!?」

 と、お友だちモードの時のソフィーにはバカにされたけどね。

「でもさ、エヴァのミサトとのび太のお母さんいっしょなのはビックリでしょ?」

「え、あれも分からなかったんですか?」

「あ、すぐに分かったけどね(^_^;)。ケロロ軍曹と『あたしンち』のお母さんとか」

「国民的常識」

「ピカチュウと光彦!」

「あたりまえ」

「碇シンジとレイアーズ!」

「フン」

「しょくぱんまんとナウシカ!」

「ハアーー」

 ことごとく知ってて、友だちモードのソフィアにはバカにされてたけど、そのソフィアでさえ気が付かなかったのが『恋するマネキン』の百武真鈴(ももたけまりん)。

 主役のけなげな妹系のマネキと敵役のネキンが同じ声優だという噂がネットで流れ、「そんなバカな(;'∀')!?」と思ったソフィーは、諜報部の声紋判別機を使って、噂通りだということを確認して、あやうく諜報部員としてのアイデンテティーを喪失するところだった。

 それだけではない。

 ヤマセンブルクの諜報部員として、王室魔法使いとして魂に火のついたソフィーは、より高次元の『声優の正体』を突き詰めるべく、日夜調査(わたしは気が付かなかったけど)して、その意外な実態を明らかにした。

 なんと、クラスメートにして生徒会執行部の田中真央が百武真鈴だったのを突き止めた!

 謎の覆面声優は大阪の現役女子高生!

 この事実を突き止めたソフィーはすごいんだけど。

 その田中真央が、生徒会役員として、下校途中のわたしを呼び止めることまでは分からなかった。


「夕陽丘さーん、待ってえ! 話があるのん!」


 正門を出たところで追いついた田中さんは息を整えて、用件を切り出そうとする。

 正門を出てお友だちモードからガードモードになったソフィーは、少し警戒して、わたしの前に半身を割り込ませようとした。

「えと、何かしら田中さん?」

「夕陽丘さんに卒業式の送辞を読んでもらいたいの」

「「ええ!?」」

「生徒会で、いろいろリサーチとかやってね、夕陽丘さんにお願いしたいってことになった」

「え、わたしが……?」

 戸惑いと気後れ。

 人前で喋ることは気にならない。

 ただね、なんで、こんなに目立つ自分が選ばれたのかという不思議と、送辞と言えば公的なスピーチ同然なので、王女としては軽々と引き受けられないことが問題なのよ。

「ちょっと考えさせてもらっていいかしら(^_^;)」

 田中さんの正体に触れる余裕もなく、そう答えたのがこないだ。


 領事館に戻って、スカイプでお祖母ちゃんと相談。


『あら、いいことじゃない。引き受けたら』

「でも、お祖母ちゃん……」

『手続きを踏んで選ばれたのなら引き受けるべき。ただし、条件が一つ』

「なにかしら?」

『事前に原稿を見せてちょうだい。ヨリコの立場上不適当だと思える箇所に手を入れることを認めてもらって』

「え、あ、そうね……って、いいの?」

 ここ一年、ヨーロッパの王室や日本の皇族でも、発言や行動について問題になることが多かった。

 だから、ちょっと引けていたんだ。

『こんな時だからこそ、しっかりやって、王室の弥栄に貢献してくれると嬉しいわ』

「うん、分かった!」

 お祖母ちゃんのポジティブさには、いつもながら脱帽。


 で、今度は教室前の廊下、二日ぶりに田中さんに返答をする。


「お待たせしてごめんなさい」

「どうかなあ、夕陽丘さん?」

「うん、いろいろ考えて、引き受けることにしたわ」

「え、ほんま!? よかったあ!」

「ただし」

 え、ソフィーが割り込んできた。

「なにかしら?」

「ヨリッチを『恋するマネキン』に出してもらえないかしら?」

「え…………ええ!」

「ちょ、ソフィー!」

 わたしも、田中さんも絶句してしまった。


 眼下のピロティーには、ちょうど入学願書提出にやってきたさくらと留美ちゃんが居たらしいけど、むろん気づくことも無いわたしだった。

 

 
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