せやさかい

武者走走九郎or大橋むつお

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408『ヨリコ王女、無名の島で初めての国事行為に臨まれる』

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せやさかい

408『ヨリコ王女、無名の島で初めての国事行為に臨まれる』ソフィー   




 詳しく言っている余裕はない。


 すでに、バンシーとリャナンシーが憑りついている。

 放置していれば、詩(ことは)さんの容態は悪化する。バンシーはそのものズバリ死を予告する妖精。リャナンシーは人に才能を約束するけれども、その代わりに命の灯を削って短命にさせてしまう。

 今はまだシルエットだけだけの、いわば予兆だけれど、はっきり姿を現してしまえば手の施しようがなくなる。



 ギーコ ガチャ  ギーコ ガチャガチャ  ギーコ ガチャガチャ



「ちょ、ちょっときついわね……」

「辛抱してください、帰りはエンジンを掛けられますから」

「りょ、了解……でも、こんなコスプレしなくちゃいけないの」

「言い伝えですから……」



 やっと夜が明けたヤマセン湖を主従甲冑に身を固めてボートを漕ぐ。



 甲冑は王家伝来のもので、殿下はプリンスアーマー、わたしはウィザードアーマー。

 伝説では、立国戦争の時に国王となるヤマセン公と魔法使いのヒギン・ヒギンズが魔王を打ち倒し、その時に魔王から降伏のしるしにもらった魔石が無名の島に隠されている。

 魔石の封印を解くには国王または王位継承者が鍵に手をかざさなければならない。

 それも、立国戦争の時のコスでなければならず、王室には、キング、クィーン、プリンス、プリンセスの甲冑が用意されている。わたしのは先祖伝来のウィザードアーマー。



「見えてきました」



 朝もやの湖面に浮かび上がったシルエットは、子どもの頃、父に「憶えておくんだよ」と100メートルの距離で目に焼き付けさせられて以来。

 父も祖父から「憶えておくんだぞ」と一度見ただけで、上陸したことはない。

 日ごろは靄に包まれることが多く、たまに晴れても湖面の照り返しでまともに見ることができないと言われている。

 グーグルアースに写ってしまった時は、即刻女王の名前で削除が依頼された。

 魔王は、その魔石を譲るにあたり「島を人の目に晒してはならない、王室の者以外に教えてはならない。また、その利用は十年に一度とし、王の在位期間に三度の使用を超えてはならない。そして、魔石の効能はヤマセンブルグの国内においてのみ有効である」と約束させた。

 世界各地で起こる戦争や災害に胸を痛める歴代国王は魔石の力を使って収めようとしたが、その約束の為に果たすことはできなかった。

 陛下も、エリザベス女王がお倒れになった時に魔石の力を使おうとされたが、病床のエリザベス女王を移すためには魔石の事を伝えなければならず、見送られたばかり。

 そして、今回、下半身マヒになった詩さんを救うために魔石の使用を決意された。



 ただ、陛下自身ご高齢であり、また、詩さんに救われたとはいえ、転落で陛下もお体を痛められているので、ヨリコ殿下がお役目を務められる。



 ガチャ ギー ガチャ ガチャリ……ガチャ ガチャリ……ギー……



 二人分で50キロを超える甲冑を軋ませながら島の奥を目指す。

「ウゥ……こんなの着てる意味あるのぉ……」

「殿下はお気づきにならないでしょうが、この島の瘴気は大変なものです、この甲冑を着ていなければ10分ももちません」

「そ、そうなの?」

「三代フェルディナンド王が早逝されたのは、キングスアーマーをお召しにならなかったからだと言われています」

「ああ、イタリアから養子で来たっていう」

「はい、甲冑はフリーサイズだったのですが、それでも合わないほどにお太りになられ。実家から送られた甲冑で間に合わせたからだと言われています」

「そ、そうなの(^_^;)」

「あ、あそこです」

 言い伝え通り、三つ目の目印を過ぎたところで魔窟の入り口が見えた。三メートルほどの間隔をあけて結界の石が据えられ、その向こうに石の扉がある。

「なんか書いてある……」

「解呪の所作です」

「手をかざすだけじゃないの?」

「それは最後です……ムムム……」

 魔王は、丁寧に解呪の所作を図解で描いてくれている。足の運びと、身のこなしが上下に分けて描いてある。

「これって、散策部で玉串川を歩いた時、川岸にあったのに似てる」

「あれは、河内音頭の踊り方でしたね」

「魔王は、ひょっとして民族舞踊かなんかにして残しておきたかったのかもね……」

「最後の所が隠れて……」

 絡まった蔦や葉っぱを取り除くと、とんでもないことが描かれていた!



「では、参ります!」

「おお!」



 一連の所作というかステップをガチャガチャ踏んだあと、問題の最後の部分に取り掛かる。



 セイ!



 入り口の左右の石に上り、剣を抜き放って同時にジャンプし、前転しながら交差する。

 シャキン!!

 あいた(>△<)!

 最後に尻餅をついた殿下ではあったが、なんとか一発で決めることができた。

「殿下、扉が感応しました!」

「おお!」

 扉がエメラルド色に輝き、正面のくぼんだ所には――put your hand here――の文字が浮かんだ。

「ここからは殿下です」

「うん!」

 殿下が手を当てる……なんの変化も無い。 

「殿下、手袋は外した方が良いと思います(-_-;)」

「あ、生体認証ってやったことなかったから(^_^;)」

「では、もう一度」

「うん!」

 殿下の手にはいささか大きいガイドライン。

 それに、少しでもピッタリ合うように指を伸ばし手を広げる殿下。

 お口もキリリと引き締め、額に汗を浮かべられ、思えば、これが殿下初めての国事行為!

 その一途さ、賢明さに扉が開き始めた。



 ゴゴ ゴゴゴゴ…………



☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中
酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  
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