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17『アイドルタイム』
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はるか ワケあり転校生の7カ月
17『アイドルタイム』
明くる日は木曜日。
で、部活は休み。由香を誘って志忠屋へ。
かねてタキさんが「友だちできたら連れといでぇ」と言ってくれていたから。
もちろん例のアイドルタイム。
タキさんは、マカナイのパスタを出してくれた。もち毛糸の手袋の方。でもホワイトソースの中の具は、ランチの食材の残りがあれこれと入っていてとても賑やか。
「あ、モンゴイカ使てはるんですね」
由香がフォークに突き刺してしみじみと言った。
「よう分かったなぁ」
タキさんが、仕込みを終えて、原稿用紙を取り出しながら言った。
「あたし、黒門市場の魚屋の子ぉですねん」
由香は、黒門に力を入れて答えた。
「黒門やったら、儲かってるやろ」
「ボチボチですわ」
おお、大阪の伝統的ごあいさつ!
「歯ごたえと、甘さのあるイカですねぇ。刺身とか天ぷらが多いねんけど、パスタにも使うんや」
「うん、皮むくのんえらいけどな。美味いしボリュ-ム感があるよってなあ」
それから、魚介類の話に花が咲いた。モンゴイカがカミナリイカのことであることがその話の途中で分かった。
「ああ、やっと終わった」
奥でなにをいじけてんのかと思っていたら、お母さんはそのモンゴイカの皮むきにいそしんでいたようだ。
それから、タキさんは、女子高生二人を相手に最近の映画が、3Dやら、CGのこけおどしになってきたこと、意外なB級映画に見所があることなど、を論じ始めた。
由香は「ええ!」「うそぉ!」「そうなんや!?」「ギョエ!」などを連発して感心した。
わたしは、タキさんが、そうやって原稿の構想をまとめているのが分かって、おかしかった。お母さんも原稿を打ちながら、肩で笑っていた。
タキさんにしろ、大橋先生にしろ、大阪のオジサンの話は面白い。
ひとしきり語り終えると「ゆっくりしていきや」と声をかけて、タキさんはお母さんとカウンターに並んで、原稿用紙を相手にし始めた。
由香とわたしは、窓ぎわのテーブル席に。
カウンターではカシャカシャとシャカシャカ。テーブル席ではペチャクチャとアハハが続いた。
コップの氷がコトリと音をたてて、まるでそれが合図だったように由香が切り出した。
「はるか、あんた東京に戻りたいんちゃう?」
お母さんのパソコンの音が一瞬途切れた。
わたしは完ぺきな平静を装った。
「どうして?」
「え……ああっと、あたしの気ぃのせえ。はるかと居ったら、いっつも楽しいよって、楽しいことていつか終わりがくるやんか。お正月とか、クリスマスとか、夏休みとか冬休みとか……」
「アハハ、わたしって年中行事といっしょなの?」
「ちゃうちゃう。せやから、あたしの気ぃのせえやねんてば。演劇部も楽しかったけど、行かれへんようになってしもたさかい。ちょっと考えすぎてんねん」
「うん、ちょっとネガティブだよ」
その時ケータイの着メロ。名前を確認して、すぐにマナーモードにした。
「ひょっとして、吉川先輩から?」
「え、どうして!?」
「ちょっと評判になってるよ。時々廊下とか中庭とかで恋人みたいに話してるて……」
由香は声を潜めた。
逆効果だってば! お母さんパソコンの画面スクロ-ルするふりして聞き耳ずきんになっちゃったし、タキさんなんかモロにやついてタバコに火を点けだしちゃうし。
「ただの知り合いってか、メルトモの一人だよ。タロちゃん先輩とか、タマちゃん先輩みたく。話ったって、立ち話。由香の百分の一も話なんかしてないよ」
ああ……ますます逆効果。お母さんのスクロ-ルは完全に止まってしまった(^_^;)。
17『アイドルタイム』
明くる日は木曜日。
で、部活は休み。由香を誘って志忠屋へ。
かねてタキさんが「友だちできたら連れといでぇ」と言ってくれていたから。
もちろん例のアイドルタイム。
タキさんは、マカナイのパスタを出してくれた。もち毛糸の手袋の方。でもホワイトソースの中の具は、ランチの食材の残りがあれこれと入っていてとても賑やか。
「あ、モンゴイカ使てはるんですね」
由香がフォークに突き刺してしみじみと言った。
「よう分かったなぁ」
タキさんが、仕込みを終えて、原稿用紙を取り出しながら言った。
「あたし、黒門市場の魚屋の子ぉですねん」
由香は、黒門に力を入れて答えた。
「黒門やったら、儲かってるやろ」
「ボチボチですわ」
おお、大阪の伝統的ごあいさつ!
「歯ごたえと、甘さのあるイカですねぇ。刺身とか天ぷらが多いねんけど、パスタにも使うんや」
「うん、皮むくのんえらいけどな。美味いしボリュ-ム感があるよってなあ」
それから、魚介類の話に花が咲いた。モンゴイカがカミナリイカのことであることがその話の途中で分かった。
「ああ、やっと終わった」
奥でなにをいじけてんのかと思っていたら、お母さんはそのモンゴイカの皮むきにいそしんでいたようだ。
それから、タキさんは、女子高生二人を相手に最近の映画が、3Dやら、CGのこけおどしになってきたこと、意外なB級映画に見所があることなど、を論じ始めた。
由香は「ええ!」「うそぉ!」「そうなんや!?」「ギョエ!」などを連発して感心した。
わたしは、タキさんが、そうやって原稿の構想をまとめているのが分かって、おかしかった。お母さんも原稿を打ちながら、肩で笑っていた。
タキさんにしろ、大橋先生にしろ、大阪のオジサンの話は面白い。
ひとしきり語り終えると「ゆっくりしていきや」と声をかけて、タキさんはお母さんとカウンターに並んで、原稿用紙を相手にし始めた。
由香とわたしは、窓ぎわのテーブル席に。
カウンターではカシャカシャとシャカシャカ。テーブル席ではペチャクチャとアハハが続いた。
コップの氷がコトリと音をたてて、まるでそれが合図だったように由香が切り出した。
「はるか、あんた東京に戻りたいんちゃう?」
お母さんのパソコンの音が一瞬途切れた。
わたしは完ぺきな平静を装った。
「どうして?」
「え……ああっと、あたしの気ぃのせえ。はるかと居ったら、いっつも楽しいよって、楽しいことていつか終わりがくるやんか。お正月とか、クリスマスとか、夏休みとか冬休みとか……」
「アハハ、わたしって年中行事といっしょなの?」
「ちゃうちゃう。せやから、あたしの気ぃのせえやねんてば。演劇部も楽しかったけど、行かれへんようになってしもたさかい。ちょっと考えすぎてんねん」
「うん、ちょっとネガティブだよ」
その時ケータイの着メロ。名前を確認して、すぐにマナーモードにした。
「ひょっとして、吉川先輩から?」
「え、どうして!?」
「ちょっと評判になってるよ。時々廊下とか中庭とかで恋人みたいに話してるて……」
由香は声を潜めた。
逆効果だってば! お母さんパソコンの画面スクロ-ルするふりして聞き耳ずきんになっちゃったし、タキさんなんかモロにやついてタバコに火を点けだしちゃうし。
「ただの知り合いってか、メルトモの一人だよ。タロちゃん先輩とか、タマちゃん先輩みたく。話ったって、立ち話。由香の百分の一も話なんかしてないよ」
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