32 / 95
32『ポツリポツリと雨』
しおりを挟む
はるか ワケあり転校生の7カ月
32『ポツリポツリと雨』
このままでは、クラブがバラバラになって脱落する者が出てくる。
みんな口に出しては言わないけど、大橋、乙女両先生に頼り切っている。
「わたしと、タロくんの責任や」
タマちゃん先輩は、ハンバーガー屋さんでくり返していた。
「先輩、膝が……」
と、わたしもくり返していた。
「また二人でクラブを引き締めよ」
そうタロくん先輩にも話したそうだ。
「分かってる。オレがなんとかする」
返事はいいらしい。
しかし「今日部活休みます」とルリちゃんからメールがきても、
「今日、ルリちゃん休みです」
人ごとのように先生達に報告するだけのタロくん先輩。
「言わなあかんで!」
タマちゃん先輩はタロくん先輩に迫る。
「言い方を考えてんねん!」
タロくん先輩は、いつも、そう答えるだけだそうだ。
分からないでもない、言い方によっては……。
「ほんなら、あたし辞めるから」
こうなりかねない。
「わたしが言うてもええねんけど……」
タマちゃん先輩のため息混じりの語尾には「もう言うてしもた……」の後悔がうかがえた。
結果は、かんばしくなかったのだろう。
それ以上は、部長であるタロくん先輩の顔を潰す……。
というより、クラブの秩序を崩してしまう。タマちゃん先輩はそう心配しているようだった。
二人の気持ちは、どちらもよく分かる。入部届も出していない新参者のわたしが、あまりしゃしゃり出ることではないような気がする……そこまで思い至ったとき、ポツリポツリと雨。
手紙を濡らさないようにかばいながら校舎へ。
そのとき、中庭の対角線の方向に吉川先輩と由香の姿が見えた。
今まで、大きな蘇鉄にさえぎられて見えなかったんだ。
瞬間、吉川先輩と目が合った……。
それから二日。
由香は未提出の課題があるので、教室に残っている。待っていても、かえって邪魔になるだろうと思い、先に帰ることにした。
上履きを下足のローファーに履き替えて、頭を上げると吉川先輩が立っていた。
「テスト前日で悪いんだけどサ、ちょっとつき合ってくれないかなあ」
「ええ……いいですよ」
と、答えた二十分後。わたしたちは天王寺公園に来ていた。
正確には、天王寺公園の奥にある市立美術館のさらに裏にある「慶沢園」
「ウワアー……こんなところがあるんだ!」
広大な回遊式日本庭園であることぐらいは、わたしの知識でも分かった。
つい二三分前まで、天王寺駅前の、ロータリーや空中回廊のような歩道橋。そこに繋がる、JRや私鉄、地下鉄の出入り口、アベノハルカス、ファーストフードなどから吐き出されてくる群衆と、その喧噪の中にいたとは思えない。
東京でいえば、渋谷の駅前から、いきなり明治神宮の御苑に来たようなもんだ。
「もう一週間も早ければ、花菖蒲がきれいに咲いていたんだけどサ。今は、クチナシとか睡蓮くらいのもんかな」
「なんで、こんな所があるんですか?」
直球すぎて、間の抜けた質問。
「ここは、元は住友財閥の本宅があって、この庭園は付属の庭」
「これが付属……」
「昭和になって、住友家から大阪市に寄贈されたんだ」
「へー……」
間の抜けたまま、ため息をついた。
「ハハ、そういう間の抜けた感動するはるかって好きだぜ」
誉め言葉なんだろうけど「感動」の前の修飾語は余計だ。
32『ポツリポツリと雨』
このままでは、クラブがバラバラになって脱落する者が出てくる。
みんな口に出しては言わないけど、大橋、乙女両先生に頼り切っている。
「わたしと、タロくんの責任や」
タマちゃん先輩は、ハンバーガー屋さんでくり返していた。
「先輩、膝が……」
と、わたしもくり返していた。
「また二人でクラブを引き締めよ」
そうタロくん先輩にも話したそうだ。
「分かってる。オレがなんとかする」
返事はいいらしい。
しかし「今日部活休みます」とルリちゃんからメールがきても、
「今日、ルリちゃん休みです」
人ごとのように先生達に報告するだけのタロくん先輩。
「言わなあかんで!」
タマちゃん先輩はタロくん先輩に迫る。
「言い方を考えてんねん!」
タロくん先輩は、いつも、そう答えるだけだそうだ。
分からないでもない、言い方によっては……。
「ほんなら、あたし辞めるから」
こうなりかねない。
「わたしが言うてもええねんけど……」
タマちゃん先輩のため息混じりの語尾には「もう言うてしもた……」の後悔がうかがえた。
結果は、かんばしくなかったのだろう。
それ以上は、部長であるタロくん先輩の顔を潰す……。
というより、クラブの秩序を崩してしまう。タマちゃん先輩はそう心配しているようだった。
二人の気持ちは、どちらもよく分かる。入部届も出していない新参者のわたしが、あまりしゃしゃり出ることではないような気がする……そこまで思い至ったとき、ポツリポツリと雨。
手紙を濡らさないようにかばいながら校舎へ。
そのとき、中庭の対角線の方向に吉川先輩と由香の姿が見えた。
今まで、大きな蘇鉄にさえぎられて見えなかったんだ。
瞬間、吉川先輩と目が合った……。
それから二日。
由香は未提出の課題があるので、教室に残っている。待っていても、かえって邪魔になるだろうと思い、先に帰ることにした。
上履きを下足のローファーに履き替えて、頭を上げると吉川先輩が立っていた。
「テスト前日で悪いんだけどサ、ちょっとつき合ってくれないかなあ」
「ええ……いいですよ」
と、答えた二十分後。わたしたちは天王寺公園に来ていた。
正確には、天王寺公園の奥にある市立美術館のさらに裏にある「慶沢園」
「ウワアー……こんなところがあるんだ!」
広大な回遊式日本庭園であることぐらいは、わたしの知識でも分かった。
つい二三分前まで、天王寺駅前の、ロータリーや空中回廊のような歩道橋。そこに繋がる、JRや私鉄、地下鉄の出入り口、アベノハルカス、ファーストフードなどから吐き出されてくる群衆と、その喧噪の中にいたとは思えない。
東京でいえば、渋谷の駅前から、いきなり明治神宮の御苑に来たようなもんだ。
「もう一週間も早ければ、花菖蒲がきれいに咲いていたんだけどサ。今は、クチナシとか睡蓮くらいのもんかな」
「なんで、こんな所があるんですか?」
直球すぎて、間の抜けた質問。
「ここは、元は住友財閥の本宅があって、この庭園は付属の庭」
「これが付属……」
「昭和になって、住友家から大阪市に寄贈されたんだ」
「へー……」
間の抜けたまま、ため息をついた。
「ハハ、そういう間の抜けた感動するはるかって好きだぜ」
誉め言葉なんだろうけど「感動」の前の修飾語は余計だ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら
普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。
そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる