はるか ワケあり転校生の7カ月 (まどか 乃木坂学院高校演劇部物語 姉妹作)

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
35 / 95

35『たこ焼きホロホロ』

しおりを挟む
はるか ワケあり転校生の7カ月

35『たこ焼きホロホロ』



「ハ……ハ……ハ……ハーックチュン!」

 案の定、風邪をひいてしまった。
 熱いシャワーを浴び、身ぐるみ着替え葛根湯を飲んだ。

「あ、制服乾かさなきゃ」

 濡れた制服をバスタオルで挟んで、半分くらいの水分をとり、体育座りしてドライヤーで乾かす。
 モワーっと、やな臭いが湯気とともに立ちこめる。

 制服って、見かけよりずっと汚れている。まだ二ヶ月足らずなのに……。

 臭いとともに、慶沢園でのことが思い出される。
 吉川先輩の言うことは、表現はともかく、断片としては正しいことが多かった。

 でも、全体として受けるメッセージは、ちょっとね(^_^;)。

 お母さんは「案外、はるかと同類かもよ」って言う。

 吉川先輩は、大阪弁と標準語ってか横浜弁を使い分けている。まあ、向こうは中学入学と同時に大阪に来たんだから、当たり前……この当たり前には、それ相当の苦い経験もあったんだろうけど。わたしは「大阪くんだり」とは言えない。

 だって、由香を筆頭にかけがえのない大阪の人たちがいる……。

 気がつくと、マサカドクンが同じ姿勢でドライヤーをかける仕草。よく見ると、手にはドライヤーを持っていないのに、当てているところからは、小さな湯気が立っている。
 そう言えば、菓子箱の湯船で「ポッカーン」をやっていたときも、お湯もないのに泡がたっていたっけ……でも、どうしてわたしの真似をするようになったんだろう。

 テストは、三日目の数学でコケた。

「はずれたね、ヤマ」

 帰り支度をして、すぐ横の由香に話しかけた(テストのときは、出席簿順なので、由香が真横にくる。部活以外は単調になってきた学校生活のささやかな喜び)

「ごめんな、あたしの読みが甘かった」
「そんなことないよ、二人で張ったヤマだもん」
「せやけど、はるかは転校してきて最初のテスト。あたしは、ここで七回目のテストやのに」
「わたしも、東京から数えたら七回目だよ」
「せやけど、ほんまにごめん」

 由香の「ごめん」は、校門を出るときには六回目になっていた。

「このごろの由香『ごめん』て言い過ぎだよ」
「そうかな、ごめん」
「まただ、テストと同じ数になった」

 駅前のタコ焼き屋さんに行くまで、由香は無口だった。

 わたしが三つ目のタコ焼きを、口の中でホロホロさせて(やっと、大阪の子並にできるようになった)いるときに、由香は重い口を開いた。もっともタコ焼きは食べ終わっていたけど。

「あたし、吉川先輩にニアミスし始めてんねん……」
「え……?」
「ねねちゃんのことで、いろいろ話してるうちに……気ぃついたら……」
「好きになっちゃった?」
「せやけど、吉川先輩は、はるかの彼氏やんか。あたし、心にいっぱい鍵かけてんねん。せやけど、せやねんけど、毎日鍵がポロって、はずれていくねん……」
「なんだ、そんなことか……」
「え?」

 うかつに、わたしは四つ目のタコ焼きを頬ばってしまった。

 由香のすがりつくような眼差し。

 早く食べなくっちゃと、ホロホロ口の中で、タコ焼きを転がす。
 熱くて、なかなか噛めない……涙がでてきた。

「ごめん、ごめんな。はるか」
「いいよ、いいんらよ、そんなふぉろ」

 ゴックン

 やっと飲み込んだ。

「そやかて、そんなに涙浮かべて……タコ焼きかて、まだ二つ残ってる」
「これ、一個づつ食べよう」
「食欲なくなってきたん?」
「違う。話ができないから」
 二人で、ホロホロ、ホロホロ……やっぱし、由香の方が食べるのが早く。見つめる視線がおかしく、少し痛かった。
「わたしの彼なんかじゃないからね、吉川先輩は」
「え?」
「つき合ってはいるけど、ワンノブゼムよ。たくさん居る友だち(実は、そんなに居ないんだけど)の一人。由香より浅いつき合いよ」
「そんな、あたしに気ぃつかわんでもええねんよ。はるかが『あかん』言うたら、今やったらあきらめられるし!」

 由香に分かってもらえたのは、架線事故で十五分遅れで電車がホームに入ってきたところだった。

 わたしは事故に感謝した(他の乗客の人には申し訳なかったけど)
 電車の中で話せるようなことじゃないもんね。
 でも、わたしが吉川先輩に持っている微かな、感性というか感覚の違いは言わなかった。
 説明がむつかしいし、変な予断を与えることにもなるもんね。
 しかし、遅着ですし詰めの電車はまるでサウナ。ゲンナリだった。
 でも。胸のつかえがとれた由香は気にもならない様子。
 まあ「めでたし、めでたし」ということにしておこう……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...