はるか ワケあり転校生の7カ月 (まどか 乃木坂学院高校演劇部物語 姉妹作)

武者走走九郎or大橋むつお

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37『この話、わたしのことだ!』

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はるか ワケあり転校生の7カ月

37『この話、わたしのことだ!』



「ほんなら……」

 先生がもみ手して、パソコンのキーを二つほど叩くと『作品集』というファイルが開かれた。
 ファイルには四五十本のタイトルが並んでいた。

 すごい……。

 二三分でそのいくつかを開いたあと、USBをパソコンに付けながら宣言した。
「ほんなら、これでいくぞ!」
 パソコンの画面には、かわいいタイトルが咲いていた。
『すみれの花さくころ 宝塚に入りたい物語』
 手早く、操作を終える。
「乙女さん、これB4で袋とじの印刷。四十部お願いします」
「うん、分かった」
「印刷できるまでに、『すみれ』の解説しとくわな」

 先生の解説によると、こうだ。

 ある年の春、スミレという高校二年の女子が、学校の帰り道に宿題をやろうとして、図書館に寄る。元々読書好きのスミレは、宿題をやる前に一冊の本に目を奪われる。

『この街の女たち』

 結局、宿題なんかちっともやらずに、その本を借りて新川の土手道をトボトボ歩いて帰る。だって、肝心の 宿題は何一つできなかったんだから。
 土手のあちこちには、自分と同じ名前の花が咲いている。
 それをボンヤリ見ながら歩いていると前方に人の気配。
 セーラー服に、ダブっとしたモンペ。胸には大きな名札のようなもの、肩から斜めのズタ袋に防空ずきん……一見して変。

「こんにちは」すれ違いざまに声をかけられた。
「こんちは」と、思わず返事をしてしまった。

 それが幽霊のカオルとの出会いだった。

 カオルは、昭和二十年三月の大空襲で死んでしまった。

 一度は避難したんだけど、宝塚を受験するための課題曲の譜面を忘れ、取りにもどったのが運の尽きだった。

 カオルは、スミレにこう説明した。

「わたし、スミレちゃんと霊波動が合うの。だから、スミレちゃんが生まれたときから目をつけていた。でも、霊波動が合っても、二人の間を結びつけてくれるアイテムがないと、姿も見えないし、声も聞こえないの。そして、今、ラッキーアイテムの『この町の女たち』の本で二人は結びつけられた! お願い、わたしにのりうつらせて! わたしもう一度宝塚を受けたい。あ、のりうつるっていっても、スミレちゃんは、ちゃんとスミレちゃんなんだよ。ただ、試験とかここ一番て時に助けてあげるの。どうだろ、ダメかな宝塚は……」

 カオルに同情するスミレであったが、なかなか宝塚を受ける気にはならない。

 カオルは、仕方なくあきらめるが、いつしか二人の間には友情が芽生えていた。
 おりから始まったアラブの戦争の号外を紙ヒコーキにする二人。

「新川の土手に飛ばしに行こう!」
 二人は新川の土手に(わたし、お父さん……元チチのことを思い出しちゃった)
「いくよ!」
 風に乗って、紙ヒコーキは視界没に……。
 そのとき、カオルの身体が透け始める。
 幽霊は、生まれ変わるか、人に憑くかしないとやがては消えてしまう。

 そして今。

 カオルに、その運命の時がやってきた! スミレは叫ぶ。心の底から!
「おねがい、わたしに取り憑いて、わたし宝塚受けるんだからさ!」
「だめだよ、それは。スミレちゃんが心から望んでいることじゃないんだから」
 そうして、川の中で消えていくカオル……。
 でも、そこで奇跡がおこった……!

 この話、わたしのことだ……そう感動に打ち震えているとき。

「できたよ!」

 乙女先生が、刷り上がったばかりのページの束を抱えて入ってきた。
 みんなで、製本にかかる。できあがったところで大橋先生が叫んだ。
「キャストの発表するぞ!」
 え、まだ読みもしてないのに。

 でも、その熱気の中では自然な飛躍だった。

 ついさっきまでは、絶望の底に沈んでいた集団とは思えない活気が三人の生徒と二人の先生の中に沸き始めていた。

「カオルは、はるか。スミレは、タマちゃん。ユカは……進一、男の子にしてタロくん」
 みんなで読みながら、ユカの台詞を男言葉に書き換えた。

 由香といっしょにできたらなあ、と思ったが仕方がない。

「これ歌が入るねん。当てレコでもかめへんけど、できたら自分らで唄ってほしいねんけど」
 歌、少しはいける。堺筋を由香と二人で唄ってOLさんに拍手してもらった。
「わたしやります!」
 すぐに返事をした。
「また、わたしも!」
 タマちゃん先輩も絶好調。
「歌は二曲。すみれが唄う『宝塚風の歌』と、かおるが川の中で消えていくときに二人で唄う『おわかれれだけど、さよならじゃない』や」
「なんですのん、その『おわかれれだけど……』いうのは?」
「この本は以前N音大がミュージカルにしてくれたんですわ。その時の曲がええから使用許可とりますわ」

 大橋先生は、N音大の先生にメールを打ち出した。
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