はるか ワケあり転校生の7カ月 (まどか 乃木坂学院高校演劇部物語 姉妹作)

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
38 / 95

38『ムカツクことが二つあった』

しおりを挟む

はるか ワケあり転校生の7カ月

38『ムカツクことが二つあった』




 明くる日の稽古は梅雨明け宣言の日だった。

 心機一転、気持ちがいい。
 
 そして、新しい仲間が増えた。

 正式な部員ではないが(わたしも、未だに入部届を出していないので、厳密には正式部員とは言えないかもしれないけど)音響係、三年生の山中青葉さん。

 わたしと同じく、乙女先生の口車組のようだ。

 わたしとの違いは、他のクラブと掛け持ち。週に二日しか来られないことがはっきりしていたこと。そして、山中さんは少林寺拳法部の元部長である!
 夏休みを期に、二年生に部活の主導権を渡すために、少林寺に行く回数を減らした。そこのところを、乙女先生に目を付けられたらしい。
 ショートカットの頭に、キリッと引き締まった顔。だのに笑顔を絶やさない。
 制服の上からでも、けして大柄ではないが、はっきり分かる鍛え上げた身体。
 最初から、高校生のアリカタとして負けているなあと思わされた。

 それから、N音大の『すみれ』を、みんなで観た。

 プレゼンの倍くらい、ホールとしてはけして大きくはない平場の空間。百席ほどの椅子が並べられ、高さ三十センチほどの仮設のステージ。ホリゾント幕は、大型のスクリーンで代用。道具は、上下(かみしも)に、椅子と長椅子くらいの大きさの箱がおいてあるだけ。

 正直、ショボイ。
 
 しかし、そこから始まったドラマはすごい!

 どのようにすごかったかは、これからのわたしたちの『すみれ』を観て感じてください。話だしたらきりがないから!

 ただ、これだけは言っときます、マネージメントがすごい!

 役者、生音の演奏、効果、照明が、一つのテーマ「命と希望」に向かってスクラムを組んでいた。だからお客さんと呼吸がぴたりと合っていた。
 これはマネージメントがよくできている証拠。
 わたしたちも、この二日間で、その土台はできた。
 スピードと、目標を持った楽観。それが最初の第一歩。
 今のところ、わたしの表現力では、そうとしか言えません。


 この日は三時から、卒業アルバムのための部活写真の撮影が入っていた。

 N音大のDVDを観た後、一本通して、予定時間には撮影場所の体育館に全員で着いた。

 ここでムカツクことが二つあった。
 一つは、時間通りに着いたのに「遅い!」と、担当の細川先生に叱られたこと。
 全員にではない、タロくん先輩だけ舞台の隅に呼んで叱っていた。

「なんで!?」
「あの先生、自分の指示で予定より早よう進んでんのに、演劇部のためにテンポ崩されて、また怒ってんねん」
 タマちゃん先輩の解説。
「そんなのありですか、こっちは予定通りに来てんのに」
「まあ、また、ああいう先生やねん。言わしとったらええねん」
 タロくん先輩はおとなしく叱られていた。
 まあ、こんなところで、つまらないオッサンのために神経と時間を無駄にすることもない。叱るだけ叱ったら……。
「な、もう気がすんでるやろ」
 こういう点、タロくん先輩は人格者だ。
「さあ、写すで。そこのセミロングの彼女、ちょっと顔が怖いで」
 写真屋さんのチェック。わたしのことだ。はい、ホンワカと……。
 ズボッっとストロボ。カシャっとシャッター!

 そして二つ目に気がついた。
 列のはしっこに辞めたはずのルリちゃんが立っていた……。

 なんであの子が!?

「演劇には、これをとったら成立せんという要素が三つある。ええか、よう肝に銘じとけよ。観客、戯曲、役者や。それ以外は、できたらあったほうがええいうだけのもんや。照明、音響、装置、衣装、メイク。どないうまいことやっても『すごい!』と思てもらえんのは一瞬だけや。せやろ、イケメンでかっこええユニフォーム着た野球選手でも、打たれへん、投げられへん、走ったらドン亀、守ったらトンネルいうやつはすぐにブーイングや。今の芝居、特に高校演劇は、そういうイケメンでかっこええユニフォームみたいなもんにだけ気ぃとられてる。我々は、この基本に立ち返って『すみれ』をやりとげる。観客は、ええ芝居演ったらついてくる。ええ芝居を自分でこさえてる思たら、観客動員にも力が入る。戯曲は信じろ。『すみれ』は、ええ本や。残る一つは……役者や。せいだいがんばれよ!」

 先生は、その日の稽古をそう締めくくった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...