はるか ワケあり転校生の7カ月 (まどか 乃木坂学院高校演劇部物語 姉妹作)

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
39 / 95

39『恨めしい夕陽』

しおりを挟む
はるか ワケあり転校生の7カ月

39『恨めしい夕陽』



 え?

 職員室の前まで来ると、乙女先生の罵声で校舎が揺れるようだった。

「ちゃんと生徒らは時間通りに集まっとったでしょうがな!」
「しかし、空気を読ませることも、教えなあかんのんとちゃいますか!」

 どうやら、相手は細川先生のようだ。

「どんな空気やのん!?」
「あんな写真撮影は水物です。流れと空気があります。一生でいっぺんの卒業写真、笑顔で写してやりたいやないですか。もうちょっと早めに来て空気読むことも教えなら……」
「あんたなあ、あの子ら二分前には集合しとった。自分が勝手に早よした流れ止められて、山田に八つ当たりしてただけやんか!」
「ちゃいます。僕の時計は三時ちょうどでした。僕のは、あくまでも指導です!」
「けっこうな指導やね。怒られた山田らも、写される側やねんよ。それに気ぃついてた、他のクラブのもんがよそのクラブに混ざって何遍も映っとたん!?」
「それは顧問の責任でしょ!」
「なんやてぇ!」
「まあ、お二人とも、アメチャンでも食べて……」
 竹内先生が間に入ったようだ。

 どうしょう……

 わたしはプレゼンの鍵を返しに来たのだ。

「どないしたん?」

 穏やかな声に振り返ると山中先輩。

「実は……」
「ほんなら、うちが返してきたげるわ」
「でも……」
「大丈夫、うち透明人間になれるさかい」

 山中さんは、そーっと職員室のドアを開け……。

「失礼しまーす……」

 ほんとうに透明人間のように気配を消して、あっという間に鍵を返して出てきた。

「ほな、うち少林寺の方行ってくるさかい……」

 山中さんは気配を消したまま行ってしまった。わたしは帰ろっと……。

「だれや、そこに居るのは!?」

 尻に帆かけて(われながら古い慣用句。でも実感です)わたしは、下足室に突進した。
 こないだは、ここで吉川先輩に声をかけられたんだけど、今度はわたしが声をかけた。

「ちょっと、ルリちゃん」
「え、なにぃ?」
「なんで、さっき写真に入ってきたのよ」
「なんでて……あかんのん?」
「あかんも、ヤカンもないわよ。あんたね!」
 大阪に来て、始めて人のこと「あんた」呼ばわりした。
「なに言うてんのよ」
「クラブ辞めたばっかで、よく入れたもんね!」
 もう止まんない。
「だれのおかげで、台本替えるハメになったと思ってんのよ。本が決まって一ヶ月、ずっと稽古してきたんだよ。それをプッツンプッツン、便秘ウサギのフンみたくしか稽古にこないで、挙げ句の果てにハイサヨナラしちまったんだよ。年末の大掃除のゴミのほうがよっぽど礼儀正しいわよ。思わない? 捨てたら二度と戻ってこないもんね。いったい、どのツラ下げてクラブ写真に入れんのよ!?」

 ついさっきの職員室のように空気が張り詰めてきた。

「あんたに、なにが分かんのよ! あたしらは演劇学校の生徒やないねんさかいね。あんなムズイことやりながら部活なんかしとないわ。あたしらクラブに息抜きに来てんねんよ。そこのとこ間違わんといてね!」
「あんたには、責任感てものがないの!?」
「ふん、優等生ぶってからに。あたしら家帰ったら、家の用事して、弟のめんどうみて、おまけにこのごろは週三日のバイト。進路のこと考えたら、勉強も手ぇ抜かれへんねん。そやから部活は息抜き、それがY高の部活や。それで、思い出のクラブ写真にも写ったらあかんのん、あかんのん!? しょせん、しょせん、あんたは東京のお嬢ちゃんや、部活に青春かけられる苦労知らずや!」

 駆け出そうとしたルリちゃんの腕をつかんだ。

「……上等な口きくじゃないのよさ」

「またにしとき……」

 タマちゃん先輩の声に、わずかに手の力が抜けた。スルリとその手を抜けて、駆け去るルリちゃん。

「待て、ヒキョーモノ!!」
 今度は、わたしの腕がつかまれた。意外に強い力だった。
「またにしときぃ……な」
 強い力は、すぐに弱くなった……でも、そのタマちゃん先輩の手を振り切ることはできなかった。

 夕陽が恨めしかった。

 頬をつたう涙をいつまでも照らし出す夏本番間近の夕陽が……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...