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44『ラブラブ席』
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はるか ワケあり転校生の7カ月
44『ラブラブ席』
昇降口をグルーっと見渡してから靴を履き替える。
校門を出ようとしたら、吉川先輩が追いかけてきた。
「待ってろって言っただろ」
「うそ! あとでって、わたし下足室で待ってた」
「オレ、生徒会室に来ると思って」
「え、あんな暑いところで(生徒会室にはエアコンがない)!」
「窓開けっ放しにしとくと、あんまり気にならない。それに、オレの自由になる部屋ってあそこだけだから」
「ごめんなさい」
「いいよ、オレも帰る、カバンとってくる。ちょっと待っててくれよ」
で、おなじみの、駅前のハンバーガー屋さんの二階。
ただし、今日は奥の通称「ラブラブ席」。観葉植物がちょっとしたパーテーションになっいて、ちょびっとだけ見えにくい。ここに座ってるカップルには声をかけないのが、Y高ではセオリーになっている。
「言っとくけど、告白じゃないからな」
「う、うん」
「そんときゃ、もう少し場所を選ぶよ」
先輩は、カバンをガサゴソしだした。
「これ……」
「あ……!」
ここだけ見た人は、ぜったい誤解する。
出されたモノは、指輪のケースよりも大きかった。
そして、そのときのわたしには、指輪よりもトキメクモノだった。
『ジュニア文芸八月号』
どんな宝石よりもまぶしい。パンドラの箱って、きっとこんな感じ!
窓ぎわの真田山の生徒が完全に誤解している。
でもセオリー通りに、無視してくれている。
あらぬ噂が……なんて、その時は気にならなかった。
「二百十八ページ……」
わたしは、おそるおそるページを開いた……。
「あ……」
「入賞おめでとう」
先輩は、優しくつぶやくように言った。そして……。
「作品を見せてよ」
金賞、銀賞は掲載されているが、佳作は名前だけ。
そう佳作だったんです……。
「見せなきゃだめですか」
「だって、約束だろ」
先輩は、にこやかに、かつ意地悪そうに脚を組み直した。
「だって……」
「それとも、オレには見せられない事情でもあるわけ?」
「う、ううん!」
思いっきりのウソつきホンワカ顔になってかぶりを振って通学カバンを開ける。
「え……すごい、スマホに残してんのかと思った!」
わたしは、暗誦していたそれを、部活用のノートに書いた。
『オレンジ色の自転車』
ひとひらの雲の下、ふと目にとまった3000円
中古にしても安い。
オレンジ色の自転車。
「どうしてこんなに安いんですか?」
「ああ、名前がね、元の持ち主の名前が、特殊な塗料でとれないんだよ」
見ると、うしろのフェンダーに「ハル」と書かれていた。
「これください」
「いいのかい?」
「いいんです、この下に(カ)を入れればわたしの名前だから。
「なるほど」
おじさんは、サービスで(ハル)の下に(カ)の字を入れてくれた。
ひとひらの雲といっしょにハルカに乗って帰った。
ハルカを置いて、アパートの階段を駆け上がった。
お母さんが、ドアに表札をつけているのが見えた。
「あ、そうだ」
部屋から、油性ペンを取り出してハルカのお尻にまわる。
一呼吸して、油性ペンをかまえる。
あ……思わずGと書いてしまうところだった。
ハルカの(カ)の下にBと書いた。
ひとひらの雲がゆっくりと流れていく。
Gの思い出といっしょに……
「はるか、お使いお願い!」
「分かってるって!」
オレンジ色の「ハルカB」にうちまたがって、お使いに……。
ふと空を見上げる。
ひとひらの雲は、もう流れていってしまった。
そのあとには、一面、群青の空……。
白いヒコーキが、潔く浮かんでいた。
読み終わると――くれるんじゃないの?――という先輩の顔に気づかないふりをして、ノートをカバンにしまう。
ズズズズー
一気にシェイクを吸いこんだ。
44『ラブラブ席』
昇降口をグルーっと見渡してから靴を履き替える。
校門を出ようとしたら、吉川先輩が追いかけてきた。
「待ってろって言っただろ」
「うそ! あとでって、わたし下足室で待ってた」
「オレ、生徒会室に来ると思って」
「え、あんな暑いところで(生徒会室にはエアコンがない)!」
「窓開けっ放しにしとくと、あんまり気にならない。それに、オレの自由になる部屋ってあそこだけだから」
「ごめんなさい」
「いいよ、オレも帰る、カバンとってくる。ちょっと待っててくれよ」
で、おなじみの、駅前のハンバーガー屋さんの二階。
ただし、今日は奥の通称「ラブラブ席」。観葉植物がちょっとしたパーテーションになっいて、ちょびっとだけ見えにくい。ここに座ってるカップルには声をかけないのが、Y高ではセオリーになっている。
「言っとくけど、告白じゃないからな」
「う、うん」
「そんときゃ、もう少し場所を選ぶよ」
先輩は、カバンをガサゴソしだした。
「これ……」
「あ……!」
ここだけ見た人は、ぜったい誤解する。
出されたモノは、指輪のケースよりも大きかった。
そして、そのときのわたしには、指輪よりもトキメクモノだった。
『ジュニア文芸八月号』
どんな宝石よりもまぶしい。パンドラの箱って、きっとこんな感じ!
窓ぎわの真田山の生徒が完全に誤解している。
でもセオリー通りに、無視してくれている。
あらぬ噂が……なんて、その時は気にならなかった。
「二百十八ページ……」
わたしは、おそるおそるページを開いた……。
「あ……」
「入賞おめでとう」
先輩は、優しくつぶやくように言った。そして……。
「作品を見せてよ」
金賞、銀賞は掲載されているが、佳作は名前だけ。
そう佳作だったんです……。
「見せなきゃだめですか」
「だって、約束だろ」
先輩は、にこやかに、かつ意地悪そうに脚を組み直した。
「だって……」
「それとも、オレには見せられない事情でもあるわけ?」
「う、ううん!」
思いっきりのウソつきホンワカ顔になってかぶりを振って通学カバンを開ける。
「え……すごい、スマホに残してんのかと思った!」
わたしは、暗誦していたそれを、部活用のノートに書いた。
『オレンジ色の自転車』
ひとひらの雲の下、ふと目にとまった3000円
中古にしても安い。
オレンジ色の自転車。
「どうしてこんなに安いんですか?」
「ああ、名前がね、元の持ち主の名前が、特殊な塗料でとれないんだよ」
見ると、うしろのフェンダーに「ハル」と書かれていた。
「これください」
「いいのかい?」
「いいんです、この下に(カ)を入れればわたしの名前だから。
「なるほど」
おじさんは、サービスで(ハル)の下に(カ)の字を入れてくれた。
ひとひらの雲といっしょにハルカに乗って帰った。
ハルカを置いて、アパートの階段を駆け上がった。
お母さんが、ドアに表札をつけているのが見えた。
「あ、そうだ」
部屋から、油性ペンを取り出してハルカのお尻にまわる。
一呼吸して、油性ペンをかまえる。
あ……思わずGと書いてしまうところだった。
ハルカの(カ)の下にBと書いた。
ひとひらの雲がゆっくりと流れていく。
Gの思い出といっしょに……
「はるか、お使いお願い!」
「分かってるって!」
オレンジ色の「ハルカB」にうちまたがって、お使いに……。
ふと空を見上げる。
ひとひらの雲は、もう流れていってしまった。
そのあとには、一面、群青の空……。
白いヒコーキが、潔く浮かんでいた。
読み終わると――くれるんじゃないの?――という先輩の顔に気づかないふりをして、ノートをカバンにしまう。
ズズズズー
一気にシェイクを吸いこんだ。
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