はるか ワケあり転校生の7カ月 (まどか 乃木坂学院高校演劇部物語 姉妹作)

武者走走九郎or大橋むつお

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51『いよいよ本番』

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はるか ワケあり転校生の7カ月

51『いよいよ本番』



 問題は、この四百席の客席をどう埋めるか……。

 本番は平日だから、タキさんやお母さんを呼ぶわけにはいかない。
 吉川先輩は、あの人がわたしをコンサートに呼ばなかったのと同じ理由で呼ばなかった(後で分かったんだけど、由香は声をかけてくれていた)結局は、由香を含め三人ほどになりそうだ。

 立秋はすぎたとはいえ、まだ真夏の暑さの中、リハを終えてA駅へ向かう。

「まだまだ暑いなあ」

 乙女先生が豪快に汗をぬぐう。

 ところどころ、並木の下に短い地上での生を終えた蝉がひっくりかえっていた。気がつかないところで確実に季節は移ろい始めているんだ。そして人の心もね。

 かすかな季節の移ろいに気づいて、ちょっと得意になっていたわたしは、その人の心の移ろいにまでは気が回っていなかった。

 リハを終えて、大橋先生のダメは一つだけだった。

「稽古は本番のつもりで、本番は稽古のつもりで」

 これは、『ノラ』の稽古に入る前にも言われた。
 まあ、本番を直前に気合いを入れたぐらいのつもりでいた。

 が、そうではなかった……。


 そして、いよいよ本番の日。


 一ベルが鳴ったとたんに、心臓がバックンバックン。
 日頃「あんなもの」と軽くみていたAKBや乃木坂が偉く思えてきた。
 緊張緩和のために、基礎練でやった脱力をやってみた。呼吸もそれに合わせて穏やかに……なったところで、本ベルが鳴った。
 リハで慣れていたはずなのに、照明がまぶしい。
 そして、まぶしさの向こうの客席にたくさんの人の気配と視線。
 あ、ここで、見慣れた(という設定の)スミレの姿を見て、軽く声をかけるんだ。

「こんにちは……」

 そして、目線はその向こうにある(という設定)桜の並木に向かう――まだ咲かないなあ――と、思う。

「え……」と、スミレが反応。

『ジュニア文芸』を見つけたときと同質のときめきが湧き上がってくる。

 それからは、ほとんど集中できて芝居が流れ始めた。
 宝塚風の歌のところでは、思わぬお客さんからの拍手。タマちゃん先輩は、アドリブでニッコリと頭を下げる。やっぱキャリアの差! 新川で、紙ヒコーキを飛ばす、クライマックス。

「すごい、あんなに遠くまで……!」
「まぶしい……」

 実感だから言いやすかった(視線の方角にシーリングライト)。カオル(わたし)の身体が透け始め、お別れのときがやってきた。

『おわかれだけど、さよならじゃない』テーマの二部合唱。
「あなたと出会えた、つかの間だーけれど……いつまーでも、いつまーでも……忘れーない……♪」 ソプラノのまま、息の続く限りの余韻。

 感極まって、涙が出る。稽古では出なかった感動の涙が……。

 そしてラスト。キャスト全員(といっても三人だけど)で歌と踊り。
 それに合わせて客席から沸くように手拍子!

 もうサイコー!!
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