はるか ワケあり転校生の7カ月 (まどか 乃木坂学院高校演劇部物語 姉妹作)

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
52 / 95

52『出くわしてしまった……』

しおりを挟む
はるか ワケあり転校生の7カ月

52『出くわしてしまった……』




 あ……

 思わず声になるところだった。

 ピノキオの公演が終わり、環状線に乗り換えようと電車を降りたとき、それが視界のはしっこに入ってきた。
 二つ向こうの環状線のホームに入ってきた外回りの電車に由香が乗り込もうとしているのを。
 そしてそれを見送る吉川先輩。

「わたしK書店に寄るから」
 みんなと分かれて階段を下りる。
「本の虫やのう」
 大橋先生の声と、みんなの笑い声が喧噪の中に際だった。

 本屋さんに行くんじゃない。このまま環状線のホームに向かったら、吉川先輩と鉢合わせしてしまう。そのための緊急避難。

 中央改札まで出て先輩とみんなをやりすごそうと思った。改札近くに大阪城のジオラマがアクリルのケースの中に見えた。
「そういえば、まだ行ったこと無いなあ……」
 という感じでのぞき込んでいたら。

「お、主演女優!」

 というわけで、吉川先輩と、コーヒーショップのカウンターに並んで座っている。

 しばらく沈黙。カウンターは一面ガラスの壁を隔てて通路に面しているので、動物園のパンダみたい……って、どこにでもいる高校生の二人連れ、パンダほど目立ちゃしないけど。

「わたし主演じゃありませんからね。主演はタマちゃん先輩のスミレです」
「いいじゃんか、どっちでも。あの芝居は二人とも主演だよ」
「ども……」

 ココアをすする。

「思ったより、ずっとイイできだったよ。正直もっとショボイかと思ってた」
「どうして、来たんですか」
「電車で」
「もう、そんなズッコケじゃなくって」
「由香が誘ってくれたんだ。はるかの初舞台だしさ……いけなかった?」
「自信がないから、先輩には声かけなかったんです」
「どうしてさ、あんなにイイできだったのに」
「演ってみるまではわかんないもん。それに先輩だって、自分のコンサート言ってくれなかったじゃないですか」
「はるかには大口たたいちゃったからさ、見られてショボイと思われんのやだから」
「わたし、サックスなんて解りませんよ」
「いいや、はるかは解ると思う。ジャンルは違うけど」
「ありがとうございます。とりあえずお礼言っときます」
「とりあえずかよ」
「だって、先輩の基準て、仲良しグループのレベルなんでしょ」
「そうだけど、でもいいものはいい。それでいいじゃん。はるか、文学もいいけど、役者もいいよ。はるかには華があるよ」
「こないだは文学がいいって、言った」
「あのときは、まだ、はるかの芝居観てなかったもんな」
「……ども」
「でも、華の下には、何かが隠れてんだよな……」
「隠してませんよ、ハナの下は口。見えてるでしょ」
「ハハ、そういうとこがさ。ハナの下は自分じゃ見えない。ココアの泡付いてんぞ」
 イヤミったらしく、ペーパーナプキンが差し出される。慌てて拭くと何も付いていない。
「もう、帰ります」

……と立ち上がったら、それから行くところは同じだった。

 もう見つかちゃったんだから、本当に行ってみようと思った。
 ただ、わたしは駅の近くのK書店しか知らなかったけど、先輩は少し離れたところのJ書店。少し離れてるかと尻込みしたが。

「品揃え二百万冊だぜ」

 そうささやかれて、あっさり宗旨替え。このへんは母親譲りのようだ。
 二百万冊~♪ 東京の本店よりすごいかも!?

 基本は、やっぱ、ミーハーなんです。はい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...