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52『出くわしてしまった……』
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はるか ワケあり転校生の7カ月
52『出くわしてしまった……』
あ……
思わず声になるところだった。
ピノキオの公演が終わり、環状線に乗り換えようと電車を降りたとき、それが視界のはしっこに入ってきた。
二つ向こうの環状線のホームに入ってきた外回りの電車に由香が乗り込もうとしているのを。
そしてそれを見送る吉川先輩。
「わたしK書店に寄るから」
みんなと分かれて階段を下りる。
「本の虫やのう」
大橋先生の声と、みんなの笑い声が喧噪の中に際だった。
本屋さんに行くんじゃない。このまま環状線のホームに向かったら、吉川先輩と鉢合わせしてしまう。そのための緊急避難。
中央改札まで出て先輩とみんなをやりすごそうと思った。改札近くに大阪城のジオラマがアクリルのケースの中に見えた。
「そういえば、まだ行ったこと無いなあ……」
という感じでのぞき込んでいたら。
「お、主演女優!」
というわけで、吉川先輩と、コーヒーショップのカウンターに並んで座っている。
しばらく沈黙。カウンターは一面ガラスの壁を隔てて通路に面しているので、動物園のパンダみたい……って、どこにでもいる高校生の二人連れ、パンダほど目立ちゃしないけど。
「わたし主演じゃありませんからね。主演はタマちゃん先輩のスミレです」
「いいじゃんか、どっちでも。あの芝居は二人とも主演だよ」
「ども……」
ココアをすする。
「思ったより、ずっとイイできだったよ。正直もっとショボイかと思ってた」
「どうして、来たんですか」
「電車で」
「もう、そんなズッコケじゃなくって」
「由香が誘ってくれたんだ。はるかの初舞台だしさ……いけなかった?」
「自信がないから、先輩には声かけなかったんです」
「どうしてさ、あんなにイイできだったのに」
「演ってみるまではわかんないもん。それに先輩だって、自分のコンサート言ってくれなかったじゃないですか」
「はるかには大口たたいちゃったからさ、見られてショボイと思われんのやだから」
「わたし、サックスなんて解りませんよ」
「いいや、はるかは解ると思う。ジャンルは違うけど」
「ありがとうございます。とりあえずお礼言っときます」
「とりあえずかよ」
「だって、先輩の基準て、仲良しグループのレベルなんでしょ」
「そうだけど、でもいいものはいい。それでいいじゃん。はるか、文学もいいけど、役者もいいよ。はるかには華があるよ」
「こないだは文学がいいって、言った」
「あのときは、まだ、はるかの芝居観てなかったもんな」
「……ども」
「でも、華の下には、何かが隠れてんだよな……」
「隠してませんよ、ハナの下は口。見えてるでしょ」
「ハハ、そういうとこがさ。ハナの下は自分じゃ見えない。ココアの泡付いてんぞ」
イヤミったらしく、ペーパーナプキンが差し出される。慌てて拭くと何も付いていない。
「もう、帰ります」
……と立ち上がったら、それから行くところは同じだった。
もう見つかちゃったんだから、本当に行ってみようと思った。
ただ、わたしは駅の近くのK書店しか知らなかったけど、先輩は少し離れたところのJ書店。少し離れてるかと尻込みしたが。
「品揃え二百万冊だぜ」
そうささやかれて、あっさり宗旨替え。このへんは母親譲りのようだ。
二百万冊~♪ 東京の本店よりすごいかも!?
基本は、やっぱ、ミーハーなんです。はい。
52『出くわしてしまった……』
あ……
思わず声になるところだった。
ピノキオの公演が終わり、環状線に乗り換えようと電車を降りたとき、それが視界のはしっこに入ってきた。
二つ向こうの環状線のホームに入ってきた外回りの電車に由香が乗り込もうとしているのを。
そしてそれを見送る吉川先輩。
「わたしK書店に寄るから」
みんなと分かれて階段を下りる。
「本の虫やのう」
大橋先生の声と、みんなの笑い声が喧噪の中に際だった。
本屋さんに行くんじゃない。このまま環状線のホームに向かったら、吉川先輩と鉢合わせしてしまう。そのための緊急避難。
中央改札まで出て先輩とみんなをやりすごそうと思った。改札近くに大阪城のジオラマがアクリルのケースの中に見えた。
「そういえば、まだ行ったこと無いなあ……」
という感じでのぞき込んでいたら。
「お、主演女優!」
というわけで、吉川先輩と、コーヒーショップのカウンターに並んで座っている。
しばらく沈黙。カウンターは一面ガラスの壁を隔てて通路に面しているので、動物園のパンダみたい……って、どこにでもいる高校生の二人連れ、パンダほど目立ちゃしないけど。
「わたし主演じゃありませんからね。主演はタマちゃん先輩のスミレです」
「いいじゃんか、どっちでも。あの芝居は二人とも主演だよ」
「ども……」
ココアをすする。
「思ったより、ずっとイイできだったよ。正直もっとショボイかと思ってた」
「どうして、来たんですか」
「電車で」
「もう、そんなズッコケじゃなくって」
「由香が誘ってくれたんだ。はるかの初舞台だしさ……いけなかった?」
「自信がないから、先輩には声かけなかったんです」
「どうしてさ、あんなにイイできだったのに」
「演ってみるまではわかんないもん。それに先輩だって、自分のコンサート言ってくれなかったじゃないですか」
「はるかには大口たたいちゃったからさ、見られてショボイと思われんのやだから」
「わたし、サックスなんて解りませんよ」
「いいや、はるかは解ると思う。ジャンルは違うけど」
「ありがとうございます。とりあえずお礼言っときます」
「とりあえずかよ」
「だって、先輩の基準て、仲良しグループのレベルなんでしょ」
「そうだけど、でもいいものはいい。それでいいじゃん。はるか、文学もいいけど、役者もいいよ。はるかには華があるよ」
「こないだは文学がいいって、言った」
「あのときは、まだ、はるかの芝居観てなかったもんな」
「……ども」
「でも、華の下には、何かが隠れてんだよな……」
「隠してませんよ、ハナの下は口。見えてるでしょ」
「ハハ、そういうとこがさ。ハナの下は自分じゃ見えない。ココアの泡付いてんぞ」
イヤミったらしく、ペーパーナプキンが差し出される。慌てて拭くと何も付いていない。
「もう、帰ります」
……と立ち上がったら、それから行くところは同じだった。
もう見つかちゃったんだから、本当に行ってみようと思った。
ただ、わたしは駅の近くのK書店しか知らなかったけど、先輩は少し離れたところのJ書店。少し離れてるかと尻込みしたが。
「品揃え二百万冊だぜ」
そうささやかれて、あっさり宗旨替え。このへんは母親譲りのようだ。
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