84 / 95
84『枯葉と焼き芋の尻尾』
しおりを挟む
はるか ワケあり転校生の7カ月
84『枯葉と焼き芋の尻尾』
帰りの電車は、大橋先生といっしょになった。
「前から、聞こうと思っていたんですけど……」
「なんや、女の趣味か?」
「違いますよ……以前先生は言ってたでしょ、真田山の演劇部の世話をするのは。メソードとか、マネージメントの実験だって。そのために、コンクールで一等賞をとるんだって」
「そんなことも言うたかなあ」
「もう、しらばっくれて」
「それが、どないかしたんか?」
「この半年、いっしょにやってもらって、なんだかそれだけじゃないような気がしてきたんです」
「どんな気ぃ?」
「それを、聞いてるんです!」
その答えを聞くころ、わたしたちは玉串川の遊歩道を歩いていた。
歩くにつれ、足許の落ち葉たちがシャワシャワと陽気な音をたてる。
わたしは、五月に越してきた。あのころは一面の葉桜だった。
あのころの桜の若葉が今は、枯れ葉になって、わたしの足に踏みしだかれていく。
「ほんまのとこは、オレにもよう分からへん……今の気持ちは、忘れ物を見つけたような気ぃやな」
「忘れ物……?」
「はるかやったら分かるやろ。荒川まで忘れ物とりに行ったんやさかい」
「……先生の忘れ物?」
「はるかのんとはちゃうけどな……そうとしか言えへんかなあ」
「それって、見果てぬ夢ですか?」
わたしは、吉川先輩の言葉を思い出していた。だから否定してほしかった。
「そうかもしれん……かな」
やっぱ、そうなのか……その気持ちを見透かしたように先生が立ち止まった。
「はるか、言うとくけどな、高校演劇いうのはお遊びやない。プロの予備校でもない。新劇とか、新派とか、歌舞伎とかと同じ演劇の一ジャンルやと思てる。しかし、一ジャンルにしては在り様が未熟や。なんちゅうか、ソシャゲのオフ会みたいな……マイナーで求心力の無いお祭り」
「……そうなんだ」
「ああ、やんぺ。これは説明するもんやない、実践するもんや」
「ですね……」
そのときいい匂いがしてきた。
先生が焼きイモを、おごってくれた。
「一本百円か……昔は、もうちょっと高かったけどな。味は……ホクホク(食べる音です)昔と変わらへんのにな」
「ホクホク……先生、じつは……」
わたしは、由香に約束させられたNOZOMIプロの白羽さんのことを話した。
「そうか、吉川いうのんはそんな風に見とんねんな」
「ひどいでしょ」
「まあ、焼きイモの価値を値段だけで評価するようなもんやな」
「でしょ」
「そやけどな。もし、はるかにその気と才能があるんやったら、その話のってもええと思うで」
「先生……」
わたしは、焼き芋の尻尾を持てあました。
「誤解すんなよ。オレは高校演劇をそんなイジケたもんやとは思てへん。あくまでジャンルの違いや。新劇の役者が映画にいくんと同じ感覚や。白羽さんのことはオレも、間接的には知ってる……けど、予備知識はいっさい言わへん。自分で判断しぃ」
「はい……」
84『枯葉と焼き芋の尻尾』
帰りの電車は、大橋先生といっしょになった。
「前から、聞こうと思っていたんですけど……」
「なんや、女の趣味か?」
「違いますよ……以前先生は言ってたでしょ、真田山の演劇部の世話をするのは。メソードとか、マネージメントの実験だって。そのために、コンクールで一等賞をとるんだって」
「そんなことも言うたかなあ」
「もう、しらばっくれて」
「それが、どないかしたんか?」
「この半年、いっしょにやってもらって、なんだかそれだけじゃないような気がしてきたんです」
「どんな気ぃ?」
「それを、聞いてるんです!」
その答えを聞くころ、わたしたちは玉串川の遊歩道を歩いていた。
歩くにつれ、足許の落ち葉たちがシャワシャワと陽気な音をたてる。
わたしは、五月に越してきた。あのころは一面の葉桜だった。
あのころの桜の若葉が今は、枯れ葉になって、わたしの足に踏みしだかれていく。
「ほんまのとこは、オレにもよう分からへん……今の気持ちは、忘れ物を見つけたような気ぃやな」
「忘れ物……?」
「はるかやったら分かるやろ。荒川まで忘れ物とりに行ったんやさかい」
「……先生の忘れ物?」
「はるかのんとはちゃうけどな……そうとしか言えへんかなあ」
「それって、見果てぬ夢ですか?」
わたしは、吉川先輩の言葉を思い出していた。だから否定してほしかった。
「そうかもしれん……かな」
やっぱ、そうなのか……その気持ちを見透かしたように先生が立ち止まった。
「はるか、言うとくけどな、高校演劇いうのはお遊びやない。プロの予備校でもない。新劇とか、新派とか、歌舞伎とかと同じ演劇の一ジャンルやと思てる。しかし、一ジャンルにしては在り様が未熟や。なんちゅうか、ソシャゲのオフ会みたいな……マイナーで求心力の無いお祭り」
「……そうなんだ」
「ああ、やんぺ。これは説明するもんやない、実践するもんや」
「ですね……」
そのときいい匂いがしてきた。
先生が焼きイモを、おごってくれた。
「一本百円か……昔は、もうちょっと高かったけどな。味は……ホクホク(食べる音です)昔と変わらへんのにな」
「ホクホク……先生、じつは……」
わたしは、由香に約束させられたNOZOMIプロの白羽さんのことを話した。
「そうか、吉川いうのんはそんな風に見とんねんな」
「ひどいでしょ」
「まあ、焼きイモの価値を値段だけで評価するようなもんやな」
「でしょ」
「そやけどな。もし、はるかにその気と才能があるんやったら、その話のってもええと思うで」
「先生……」
わたしは、焼き芋の尻尾を持てあました。
「誤解すんなよ。オレは高校演劇をそんなイジケたもんやとは思てへん。あくまでジャンルの違いや。新劇の役者が映画にいくんと同じ感覚や。白羽さんのことはオレも、間接的には知ってる……けど、予備知識はいっさい言わへん。自分で判断しぃ」
「はい……」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる