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83『地区予選結果発表』
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はるか ワケあり転校生の7カ月
83『地区予選結果発表』
わたしは、それでもいいと思った、精いっぱいやったんだから。
そして最優秀、つまり一等賞の発表。
上の空だった。由香との約束がある。これが終わったら白羽さんに会わなきゃならない。
正直、気が重い……たそがれがかっていた。
と、そこにどよめきと拍手……二拍ほど遅れて分かった。
最優秀賞、真田山学院高校『すみれの花さくころ』……感動がサワサワとやってきた。
その明くる日は、創立記念日で休みだったけど、午前中いっぱい稽古になった。
なんたって、本選は六日後の土曜日だ。
まずプレゼンで予選のDVDを観た……これがわたしたち?……と、感じた。
変な力みも、感情のフライングもなかった。
もう、習い性になっていて、台詞をしゃべっていない役者に目がいく。
きちんと、芝居ができている。
他のみんなも同じ目で、人と自分の演技、演奏、効果、照明がきちんとできていたか真剣に観ていた。
ただ、わたしがフィナーレで、可動壁にぶつかったところだけは爆笑になった。
幸い、ドスンという、わたしには大きく聞こえた音は、歌と拍手に紛れてぜんぜん聞こえなかった。
「まずまずのできやな」
「もうちょっとやな」
先生たちは素直には誉めない。教師(大橋先生は元だけど)の性だろうか。
大橋先生の「まずまず」には、具体的な指摘があった。
「スミレは、進路とか興味がころころ変わることを進一に指摘されるやろ。そのときの不愉快さが弱い。これは、タマちゃん自身が進路決まってしもて、安心してしもてるからカタチだけになってしもてる。進路が決定するまでの、不安やったころの自分を思い出してほしい」
「はい」
「カオルは、アラブで戦争が起こった号外を見たあと、隣町の米軍基地から飛行機が飛んでいく。それに対する、不安感、恐怖心が類型的や」
「類型的って……」
分かっていたけど、聞いてしまった。
「紋切りガタやいうことや。カタチだけなぞって、本質的な表現ができてないいうことや」
わたし飛行機に追いかけ回されたことなんかないもん……この感覚だけは、マサカドさん、見せてはくれなかった。
「と、いうわけで、そこらへんが、はるかの課題。ほな、一本通すで!」
一本通して、道具のチェックと整理をした。
最後にプレゼンの掃除をしていると、いい匂いがしてきた。
「さあ、みんな、受賞記念パーティーや!」
乙女先生が、Lサイズの宅配ピザを三段重ねにして持ってきた!
「ソフトドリンクは、司書室や、みんなでとっといで」
テーブルの上に、あつあつのピザが並んだ。
さあ、食うぞ!
「と、そのまえに」
しばしおあずけ……お腹が鳴る。
「できは、まずまずやったけど、ピノキオも予選も観客動員は今イチやった。本選のLホールはキャパが六百、今までで一番大きい。がんばって動員かけや!」
乙女先生の訓辞。で、ようやくピザにありついた。
83『地区予選結果発表』
わたしは、それでもいいと思った、精いっぱいやったんだから。
そして最優秀、つまり一等賞の発表。
上の空だった。由香との約束がある。これが終わったら白羽さんに会わなきゃならない。
正直、気が重い……たそがれがかっていた。
と、そこにどよめきと拍手……二拍ほど遅れて分かった。
最優秀賞、真田山学院高校『すみれの花さくころ』……感動がサワサワとやってきた。
その明くる日は、創立記念日で休みだったけど、午前中いっぱい稽古になった。
なんたって、本選は六日後の土曜日だ。
まずプレゼンで予選のDVDを観た……これがわたしたち?……と、感じた。
変な力みも、感情のフライングもなかった。
もう、習い性になっていて、台詞をしゃべっていない役者に目がいく。
きちんと、芝居ができている。
他のみんなも同じ目で、人と自分の演技、演奏、効果、照明がきちんとできていたか真剣に観ていた。
ただ、わたしがフィナーレで、可動壁にぶつかったところだけは爆笑になった。
幸い、ドスンという、わたしには大きく聞こえた音は、歌と拍手に紛れてぜんぜん聞こえなかった。
「まずまずのできやな」
「もうちょっとやな」
先生たちは素直には誉めない。教師(大橋先生は元だけど)の性だろうか。
大橋先生の「まずまず」には、具体的な指摘があった。
「スミレは、進路とか興味がころころ変わることを進一に指摘されるやろ。そのときの不愉快さが弱い。これは、タマちゃん自身が進路決まってしもて、安心してしもてるからカタチだけになってしもてる。進路が決定するまでの、不安やったころの自分を思い出してほしい」
「はい」
「カオルは、アラブで戦争が起こった号外を見たあと、隣町の米軍基地から飛行機が飛んでいく。それに対する、不安感、恐怖心が類型的や」
「類型的って……」
分かっていたけど、聞いてしまった。
「紋切りガタやいうことや。カタチだけなぞって、本質的な表現ができてないいうことや」
わたし飛行機に追いかけ回されたことなんかないもん……この感覚だけは、マサカドさん、見せてはくれなかった。
「と、いうわけで、そこらへんが、はるかの課題。ほな、一本通すで!」
一本通して、道具のチェックと整理をした。
最後にプレゼンの掃除をしていると、いい匂いがしてきた。
「さあ、みんな、受賞記念パーティーや!」
乙女先生が、Lサイズの宅配ピザを三段重ねにして持ってきた!
「ソフトドリンクは、司書室や、みんなでとっといで」
テーブルの上に、あつあつのピザが並んだ。
さあ、食うぞ!
「と、そのまえに」
しばしおあずけ……お腹が鳴る。
「できは、まずまずやったけど、ピノキオも予選も観客動員は今イチやった。本選のLホールはキャパが六百、今までで一番大きい。がんばって動員かけや!」
乙女先生の訓辞。で、ようやくピザにありついた。
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