上 下
93 / 95

93『売られたケンカなら買ってやる!』

しおりを挟む
はるか ワケあり転校生の7カ月

93『売られたケンカなら買ってやる!』



 いよいよ真田山学院高校の番だ。わたしたちは舞台に上がった。
 二つほどチョウチン質問があったあと、ちょっと間があって、大橋先生が手を上げた。

「真田山学院高校に対する、審査員の方のコメントが、審査発表のときのそれと著しく異なります。曰く、作品に血が通っていない。曰く、行動原理や思考回路が高校生ではない。きれいに抜け落ちています。この方の評はネットに載っていましたので、トラックバックで質問したところばかりです」

 先生もやるう……。

 会場のみんながページをめくる音がした。わたしは、自分の顔が険しくなっていくのを隠しながら舞台を下りた。

「もう一点。この浪速高校演劇連盟のコンクールは百二校が参加し、そのうち既成作品は実質五校しかありません。著しく創作に偏っています。本選だけを例にとっても……」

 先生が、あとを続けようとすると……。

「ここは先生の演説の場とちがいます。他にも発言したい生徒がいます。もうやめてください」

 会場校の先生が言った。大橋先生は、一呼吸してこう言った。

「諸君、もっと本を読んでください。創作は否定はしない、しかし本を読んで勉強してからにしてほしい」

「大橋先生!」

 と、R高の先生。

「もう一点。審査基準を持ってください。以上……」

 会場が、静かにどよめいた。

「審査基準なかったんか」

 などと、ささやく声もした。

「えー、ほかに質問のある人はいませんか……いませんか……じゃ、そこの人。学校名とお名前言うてください」

 そこで初めて、自分が手をあげたことに気がついた。

「真田山学院高校の坂東はるかです(深呼吸をしたが、もう止まらない)さっき発言された先生が国語の先生でないと信じます。国語の先生なら合評会の意味をご存じないわけがないからです」

 R高の先生の刺すような視線を感じた。血が頭の中で沸騰した。

「合評会とは、たがいに批評し合う場と、広辞苑にも載っています。そして批評とは、物事の善し悪しを評価し論じ合うこととあります。さっき大橋先生が言われたことは、わたしも思っていたことです。だから答えてください。それから大橋先生はこうおっしゃいました。審査基準を持ってくださいって……審査基準、無いんですか、ほんとうに?」

「それは、君なあ……!」

 R高の先生が、わたしを指さした。
 売られたケンカなら買ってやる! わたしはR高の先生とにらみ合った。

「はるか、やめとけ!」

 座ったままの先生に腕を掴まれた……。
しおりを挟む

処理中です...