はるか ワケあり転校生の7カ月 (まどか 乃木坂学院高校演劇部物語 姉妹作)

武者走走九郎or大橋むつお

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94『はるかの決意』

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はるか ワケあり転校生の7カ月

94『はるかの決意』



「すみませんでした……」

 R高の校門を出ると、雪がちらついていた。

「なにが、すまんねん」

「真田山学院の顔をつぶすとこでした……」

 わたしはヘコんでいた。

「あのなあ……」

 いつものコンニャク顔で、ため息のように先生。

 他のみんなは、うな垂れて年の瀬の歩道の先を歩いている。タロくん先輩が、今日来られなかった乙女先生にケータイで報告している。

 みんなにも迷惑をかけてしまった……。

「R高のあの先生な、教科は国語や」

「え……!?」

 自分の啖呵が蘇る。

―― さっき発言された先生が国語の先生でないと信じます。国語の先生なら合評会の意味をご存じないわけがないからです ――

「ほんでから……R高の生徒には神さまやねんで」

「…………」

「はるからにとっての乙女先生……いや、それ以上やろなあ」

「それって……」

「分からんか……あの子らの前で、あの先生のことボコボコになんかでけへんやろ」

「先生……でも、わたし、くやしい……」

「これが、今の高校演劇や。それでくやしいだけやったら、演劇部なんかやめときぃ」

「わたし、『すみれ』は、『すみれ』のカオルはわたし自身だったんです。東京から、この五月に越してきて、いろんなことがあって……そのエモーションみたいなものが、あのカオルの中には全部入っているんです」

「そやけどなあ、観てる人には、数ある芝居の一つや。ほんで、本選のあの舞台観てくれた人には確実に伝わってた。それに、あの審査をええとは言わん。予選の審査員はリベラルやったけど、本選の審査員は傾向をもっとる。高校演劇は、そう言う点ではアナーキーになってしもてる。けど、これが現実や。これが……出発点やと思う。そう了見せえ」

「でも先生……」


 フワワ


 そのとき、チラホラだった雪が一瞬吹雪のようになって目の前が白くなった。


「真田山の『すみれ』とってもすてきでしたよ」

 セーラー服の女の子が、追い越し際にきれいな東京弁でそう言った。

 電柱一本分行ったところで、その子は振り返って手を振った。

―― さようなら ――と、言ったような気がした。

 マサカドさん!?

「待って! 待って! マサカドさん……!」

 わたしは、雪の中を追いかけた。


 フワワワ


 一瞬吹雪のように繁くなって思わず目をつむる。

 直ぐにチラホラにもどって目を開けると、もうマサカドさんの姿は無かった。

 あの笑顔が最後のメッセージのような気がした。


「はるかちゃん、どないしたん!?」

 タマちゃん先輩が先頭になって追いかけてきた。

「わたし、わたし……正式に演劇部員になる。ね、いいでしょ先生!?」

 先生は、懐からわたしの入部届を出してみんなに示し、みんながうなづくのを待って

「よし」

 そう言って、再び懐にしまった。

 遠く、クリスマスソングが流れていく。

 すっかり早くなった夕暮れ。

 心の中に積もりそうな雪……音もなく、暮れなずんだ空から降ってくる。



『はるか 真田山学院高校演劇部物語』……完

☆……この物語に出てくる団体、登場人物はフィクションです。


 この後にエピローグが続きます
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