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本編63

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「昨日も通ったが、不思議なことが多いな、ここは」

「うん、代々の竜王がいろんな魔法をかけているからね。住んでいる方にはとても便利なんだ」

「なるほどな」

 危なげない足取りでゲオルクはそこを抜けると景色は一変し、薄暗い森ではなく地面に生えた苔が仄かに光る不思議な洞窟となった。もう慣れているソーマは気にしないが、初めてのゲオルクは何度も瞬きをし、視界を調整した。でなければ光源の違いで何も見えない。

「父さん……」

「ソーマ久しぶりだね。おや、ゲオルクも一緒だったのかい」

「久しぶりです……」

「って、そんなことより父さん今までどこに行っていたんだよっ。急にどっか行っちゃうなんてひどいよっ!」

 急に子供返りしたソーマは、ゲオルクの腕から降ろされるとヨタヨタと父に近づいた。

「ごめんごめん、すぐに戻ってくる予定だったんだけどね。ちょっと行き違いがあって、この四年監禁されていたんだ」

「……監禁?」

 とても不穏な単語に父を凝視する。

「なにそれ……」

「大したことはないんだよ。それよりも、お前とゆっくり話をしなければいけないと思ってね。あと、紹介したい人もいるんだ」

 それはずっと父の後ろに立っている中年男性の事だろう。もしかしてこの人が監禁した張本人ではと訝しみながら視線を移す。

 だがそれよりも先に、ソーマの姿を見つけた兵士たちが、闘牛のごとく押し寄せてきた。

「女神さまだぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「俺の女ぁぁぁぁ」

「ぅぉおおおおおおお」

 狂ったように走ってくる一団に本能的に逃げようとして、小さい頃の癖でゲオルクの後ろに隠れた。

「あぁそういうことか。うるさいからちょっと移動しようか」

 父はのほほんと笑いながら闘牛の一団(立派な兵士である)に向けて掌をかざすと、土煙を残し一瞬にして消えた。

「え……?」

「なっ!」

「これが魔法というものか。兵たちはどこへやった」

 初めて中年男性が口を開いた。

「安心して。王都に送っただけだから」

「あの状態で王都に行かれては治安が悪化する」

「大丈夫だよ、彼らが変なのはきっと、この洞窟の中だけでソーマの前だからだ。離れればいつもの彼らに戻るよ」

「ならいい。そう言えば王子はどこだ。あいつもついでに王都に送ってやってくれ……いや他国でもいいかも……」

「それはソーマと話した後だよ。うるさいのがいなくなったから、竜王の館に行こうか」

「あの建物、竜王の館って言うんだ」

「そうだよ、この壁の向こうは竜王と一緒でなければ入れないんだ」

 知らなかった。そういう名前なのも、自分と一緒でなければ竜族だとしても、この壁を抜けられないということを。まだまだ竜族について知らないことが多いと実感しながら、ソーマは再びゲオルクに抱き上げられた。

「おや、怪我でもしたのかソーマ」

 父の問いかけに何と答えればいいのかわからず、ゲオルクの胸に顔を隠した。二人の男に犯され過ぎて足腰が立ちませんなんて、しかもこれがつい数刻前まで繰り広げられていたなんて、恥ずかしくて口にできない。

 それはゲオルクもだろう。いつも明確な回答を返す彼ですら、むっと口を噤んで歩き出した。
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