異世界に転生したら王子と勇者に追いかけられてます

椎名サクラ

文字の大きさ
96 / 111

本編93

しおりを挟む
 シャンシャンと金属の音をさせながら荒い息遣いとつい今朝方まで聞いた肉のぶつかる音がしている。

 中でなにが行われているのか、分かりきっている。早く閉めなければと思いながら、ソーマは身体が動かなかった。

「コルネリウス……ぁっ」

「まだ達かせはしないっ! まだ私の怒りは治まっていないんだ」

「ぁぁっ……分かってる、から……ぁぁぁっ」

 ユリウスとコルネリウスの交情だ。音だけでもその激しさがわかる程に二人は交わり、苦しそうなユリウスの喘ぎは、かなりの時間が経っていることを物語っている。

 ねっとりとした隠微な空気が、薄く開けた扉の向こうに広がり、流れ出してきそうだ。

 誰かの交情を初めて目の当たりにしたソーマは、音を聞いているだけなのに身体の奥が熱くなるのを感じた。

(父さんたち、してるんだ……)

 ショックだった。両親がしているところなんて、前世でだって目の当たりにしたことはない。いや、自分以外のなんて、本の中でしか知らない。

 これほどに生々しく、淫猥なものなのか。

 だか、漏れ聞こえてくる言葉はとても愛し合う二人のものではなかった。

 一方的に責めるコルネリウスに、ただただ許しを乞うユリウスの言葉が続いている。

(父さん、なにかしたの?)

 ユリウスが悲痛な喘ぎを漏らすたびに金属音がしている。

(まさか、SM? でもなんか違う)

 違和感を覚えながらも、ソーマは淫らな音に体温がどんどん上がっていく。

 これ以上はダメだと思いながら、ゆっくりと、気づかれないように扉を閉めた。

 初めて垣間見た濃厚な交情に、ソーマの分身は形を変えてしまった。

 早く部屋に戻ろう。

 扉をいくつか開けようやく見つけた自分用の寝台に潜り込むと、ギュッと身体を丸めた。

 散々ゲオルクとしたのに、もうなにも出ないほどに犯されたのに、それでも熱くなった身体は分身へと熱を貯めていく。

 あの苦しそうな声はなんだったのだろう。

 ユリウスだけではない、犯してるはずのコルネリウスまでもが、喉から絞り出すような、苦しく悲しい声をしていた。二人の間になにがあったのだろう。不安と熱に、そこからソーマはなかなか寝付くことが出来ず、そうなるとずっと逃げていたことに向き合うしかなかった。

 この世界に逃避のための道具がなさすぎる。前世だったらアニメやゲームをして自分の気持ちと向き合わないようにしていたこの時間、灯りすら淡く光るのみの世界ではどうしようもない。

「僕、どうしたいんだろう」

 ゲオルクとザームエルの二人にどう向き合えばいいのかが分からない。

 なぜ自分はこんな状態になってしまったのだろう。

(僕が望んだんだ……最低)

 よくある萌え系アニメで主人公を複数の女性が取り合うシチュエーションに憧れて願ったからだ。あんな風に求められたら幸せだと。

 どの子と結ばれるか悩む主人公の幸せすぎる悩みを味わいたいと思った、軽い気持ちで。

 実際その立場になってどうだろう。

 なにも楽しくない。

 むしろ辛いだけだ。

 自分を好きだと言う二人の顔が交互に浮かび、心が揺れてしまう。

 幼い頃から一緒のゲオルク、今まで知らなかった甘い世界を作り出すザームエル。

 どちらかを選ばなければならないのだろうか。

 でも思い浮かぶのは、ソーマに対して苦しそうな悲しそうな顔だ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

温泉旅館の跡取り、死んだら呪いの沼に転生してた。スキルで温泉郷を作ったら、呪われた冷血公爵がやってきて胃袋と心を掴んで離さない

水凪しおん
BL
命を落とした温泉旅館の跡取り息子が転生したのは、人々から忌み嫌われる「呪いの沼」だった。 終わりなき孤独と絶望の中、彼に与えられたのは【万物浄化】と【源泉開発】のスキル。 自らを浄化し、極上の温泉を湧き出させた彼の前に現れたのは、呪いにより心と体を凍てつかせた冷血公爵クロード。 半信半疑で湯に浸かった公爵は、生まれて初めての「安らぎ」に衝撃を受ける。 「この温泉郷(ばしょ)ごと、君が欲しい」 孤独だった元・沼の青年アオイと、温もりを知らなかった冷血公爵クロード。 湯けむりの向こうで出会った二人が、最高の温泉郷を作り上げながら、互いの心の傷を癒やし、かけがえのない愛を見つけていく。 読む者の心まですべて解きほぐす、極上の癒やしと溺愛のファンタジーロマンス、ここに開湯。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜

陽七 葵
BL
 主人公オリヴァーの妹ノエルは五歳の時に前世の記憶を思い出す。  この世界はノエルの知り得る世界ではなかったが、ピンク髪で光魔法が使えるオリヴァーのことを、きっとこの世界の『主人公』だ。『勇者』になるべきだと主張した。  そして一番の問題はノエルがBL好きだということ。ノエルはオリヴァーと幼馴染(男)の関係を恋愛関係だと勘違い。勘違いは勘違いを生みノエルの頭の中はどんどんバラの世界に……。ノエルの餌食になった幼馴染や訳あり王子達をも巻き込みながらいざ、冒険の旅へと出発!     ノエルの絵は周囲に誤解を生むし、転生者ならではの知識……はあまり活かされないが、何故かノエルの言うことは全て現実に……。  友情から始まった恋。終始BLの危機が待ち受けているオリヴァー。はたしてその貞操は守られるのか!?  オリヴァーの冒険、そして逆ハーレムの行く末はいかに……異世界転生に巻き込まれた、コメディ&BL満載成り上がりファンタジーどうぞ宜しくお願いします。 ※初めの方は冒険メインなところが多いですが、第5章辺りからBL一気にきます。最後はBLてんこ盛りです※

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

処理中です...