上 下
103 / 464

モリガンの適正(第4話)

しおりを挟む
 ミケさんの将棋の腕前が明らかになったところで、再びモリガンの様子を窺うことにするー。

「・・・というわけで、モリガンちゃん。この素材を慎重にかき混ぜてみてください」

「むむむ、結構面倒じゃのう・・・」

「なるべくゆっくりかき混ぜるのがコツですよ」

 自動修復したアトリエの中で、モリガンとリリィが調合の特訓をしている。モリガンは、基本的なところが疎かになっているから、結局最後には失敗してしまうのだーと晶は考えた。素材のレシピなど、知識面については申し分のないモリガンが最後しくじってしまうのには、やはりきちんと基本的な作業を学んでいないからであろう。

 それならば、そういったことをきちんと教えることが出来る人物の指導を受ければ、十分改善されるはずだー。

 この点においては、やはり魔女組合の人間が一番のお勧めだろう。あとはもう、リリィに任せておけば十分そうだ。

 先ほどまでの爆発騒ぎが嘘のように静まり返った森の中で、「秋の領域」にふさわしく、秋の虫の鳴き声が辺りに響き渡った。「秋の領域」という名称からも推測できるように、この場所では年中秋なのだろうが、それゆえに他の領域では感じられない風情がある。

 燃えるような紅葉も、酷暑の夏から解放された直後のいささか寂寥感の漂う風の流れも、この領域ならではのことだ。また、山や森にも秋独自の空気が漂い、まさに季節の変わり目(だが、その領域ゆえに決して変わることのない)を感じさせる。

 早苗はどうやら「春の領域」の方が好みのようだが、晶にとってはこの「秋の領域」の方が自分の性に合っていた。モリガンではないが、将来的にはこの領域で生活してみたいものだと、つくづく思った。

「王手!」

「ウニャー、また負けましたニャー!」

 ・・・今度来るときは、やかましい連中がいない時に一人で来ることにしよう、と晶は誓ったのだった。

「うーん、ミケさん将棋弱いねぇ。これで10度目だよ、負けたの」

「ニャオーン」

 一応、将棋のルールややり方を把握してはいるものの、早苗自身はそんなに将棋に詳しいわけではない。その早苗から見ても弱いということは・・・。

「本格的に向いてないな、ミケさん・・・ていうか、お前何向いてるんだよ、全く」

 晶が呆れた様子で将棋盤を覗き込む。ベンジャミンの圧勝ぶりがよくわかる配置であった。

「・・・それにしても、ベンジャミンはどこで将棋を覚えたんだ?ずっと一人だったんだろ?」

 晶がふと疑問に思い、ベンジャミンに尋ねてみた。

「ああ、それなら・・・」

 ベンジャミンが疑問に答える。

「実は、この領域の地下においらの仲間が暮らしている集落があるんだよ、そこで結構勝負してたんだ」

「土竜たちの集落か・・・」

 まあ、土竜なので、地下での暮らしが当たり前なのはわかるが、それにしても地下に集落があるとは思わなかった。

「地下に町があるのか・・・一度行ってみたい気もするな」

 晶は純粋に好奇心を惹かれた。ベンジャミンの仲間というくらいだから、巨大土竜たちの集落ということになる。はてさて、いったいどのような場所なのかー。

「ここからさほど離れてはいないよ。もしよければいつでも案内できるぞ」

「おお」

「え、土竜さんの街に行くの?面白そうだねぇ」

 近くで話を伺っていた早苗も興味を示した。

「そうだな、モリガンの方が少し落ち着いたら、見に行ってもいいかもな」

 早苗だけでなく、晶も興味津々である。

「そうか・・・それまでこのニャンコと将棋をやって待ってるかな」

「ニャー、もう将棋はいいニャ!」

 さすがに負け続きのミケさんは、もう将棋はやりたくないらしい。しかし・・・。

「今度は囲碁で勝負ニャ!」

 ・・・変なところで負けず嫌いなミケさんであったー。
しおりを挟む

処理中です...