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カルミナとブラーナ(第36話)

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 ブラーナの太刀から放たれた衝撃波が、見事、害蟲にとどめを刺したー。

 真っ二つにされた害蟲は、大量の魔素をまき散らしながら死体も残さず消え去った。怪異を根源とする害蟲は、滅ぼされるとその痕跡は一切残らないのだ。

「やったね、ブラーナ!!」

 カルミナが、勢いよくブラーナに抱き着いた。

「いえ、みんなのおかげよ」

 そんなカルミナの頭を撫でながら、穏やかな微笑みを返すブラーナ。

「いやあ、でも見事なもんだぜ、ブラーナの姉さん・・・オレたちじゃあこうすっぱりとはいかねえよ」

「ああ」

 ブラーナの下に、翔と卓も駆け寄ってくる。

「あなたたちとは扱う武器が違うでしょ。こういうのは単純に比較できないわよ」

 ブラーナが謙遜しながら、翔と卓に応えた。

 実際、扱う武器の性質によって、敵との相性が鮮明に分かれることはある。接近戦オンリーなら、むしろ翔のツメの方が威力が期待できるし、中近距離であれば、卓の棍による連続打突は単に敵にダメージを与えるだけではなく、相手の動きを封じ込めることも可能だ。

 実は、ブラーナはあまり切り結ぶのは得意ではない。したがって、今回のように太刀に魔力を宿して、衝撃波を斬撃として放つ戦い方を得意としている。要は、彼女の場合は接近戦より遠距離攻撃が得意なのだ。この点では、チャクラムを武器とするカルミナにも通じるところがある。

 3人に囲まれていたブラーナだったが、ふと少し離れた場所にいる黒羽を一瞥した。

 黒羽も、ブラーナの視線に気が付いたようだ。軽く口元に笑みを浮かべて、

「ブラーナ、お見事でした」

「・・・アンタの能力の補助もあったから勝てたのよ・・・お礼を言わなければね」

 黒羽に対しても穏やかな笑みを返しながら、ブラーナが応えた。

 実際、黒羽がその黒い羽根の魔力で、害蟲の動きを制限していなければ、今回もとどめを刺すのは難しかっただろう。手負いだったとはいえ、それでも高い魔力波動を放っていたやつである。黒羽が抑え込んでいなければ、先ほどの衝撃波とは言え、あそこまできれいに真っ二つにはできなかったはずだ。

「さあさ、みんな!害蟲も片付けたし、この勢いで配達の方も済ませちゃおうよ!」

 カルミナの言うとおりだ。害蟲は倒し、当面の脅威は去ったとはいえ、まだお仕事はしっかりと残っている。幸い、目的地であるゼルキンス村は、ここから北方へ120の距離だ。そんなに遠い場所ではない。

「そうだな・・・さっさと片付けるか!」

「そうね」

 全員、飛行船「白波号」に戻ることにする。これからは本業である配達のお仕事に専念しなくては。荷物の整理、仕分けなど、やるべきことは色々とあるのだ。

「では、私は村の中ではこれを被りますね」

 黒羽が、フードで頭部を隠す。

「・・・おいおい、黒羽。いつも思うんだけど、何も顔隠す必要ねえんじゃね?お前、結構可愛い顔しているしもったいねえだろ隠しちゃ」

「いえ・・・人が多い場所ではこうする必要があるのですよ、翔」

「なんでまた?」

 翔の問いかけに、黒羽は口元に人差し指を当てながら、

「それは・・・女の子にはいろいろあるんですよ」

と、だけ答えた。フードを目深にかぶっているため、目元などは確認できないが、おそらくウィンクしていることだろう。

 そんな黒羽の姿に、一瞬、ブラーナが険しい顔をするが、何事もなかったかのように、すぐに表情を戻し、カルミナと共に自室を目指したー。

 



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