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水無杏里の物語(第1話)
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幼いころから、彼女ー水無杏里は何事にも過敏に反応しがちな少女であったー。
とにかく、周りの人間にあまりにも共感しすぎてしまうー自分が叱られたわけでもないのに、泣いてしまう。どんな些細なことでも気にしすぎて、結果、考えが付いていけず行動に移せないー。あまりにも敏感すぎるがゆえに、自分の行動を制限し、抑制しがちだった。それゆえ、周りの大人たちからは「おとなしい子」と評されることが多かった。
何か周囲で悪いことがあれば、自分が原因でもないのにまるで自分が悪いことをしたかのように思ってしまう。何事においても、常に自己犠牲的、自罰的ーそれは、世間一般の通念上は「いい子」であったかもしれない。
だが、彼女は自分で気が付いていたーその欺瞞に。
自分をそれ以上、傷つけないための、自己防衛として自分が無意識のうちに習得してきた、偽りの善ーまさに偽善という他ないものなのだということをー。
自分をそれ以上傷つけないがために、自分が身代わりとなる、自分を犠牲にするーその矛盾した傲慢さと欺瞞を。
そして、それは、自分が卑怯で弱いからだということも自覚している。
したがって、今ここに捕らえられているということは、その歪んだ自分に対する正当な裁きであり、戒めでもあるのだー。
ーー
「私の可愛い傀儡・・・さあ、目を開けなさい」
空ー浮遊大陸から少し離れた場所に浮かぶ小さな浮遊島ーその中心には結晶化した樹が存在していた。七色の光沢を放つ樹ーしかし、その幹の中ほどに、本来は存在するはずのないものの姿があったー。
美しい少女だ。上半身だけが、その木の幹の中ほどから露出している。大体、へその辺りまでが幹から生えているーといった感じだ。その上半身は裸であり、年の頃は15~16といったところだが、年齢以上に豊満な乳房が一際目を引く。両腕も幹の中ーこれでは、幹に埋まっていると表現した方が、より正確かもしれない。
顔立ちは端正で、その瞳は閉じられており、かすかに開いた唇から漏れる規則正しい呼吸音が、彼女が生きたままこの木に拘束されていることを示していた。
ゆるくウェーブのかかった黒髪は、風の流れに併せて静かに靡いている。星形の髪飾りが、日の光を浴びて煌ていた。
「・・・まだ、目が覚めないようね」
この少女に覚醒を促すのは、着物姿の女性で、鈴を鳴らしたような声色をしているが、その顔に着けているのは、前文明時代において「鬼」と呼ばれたものを彷彿とさせるような、恐ろし気な形状のものだった。
ふと、女性が鬼の面を外すーその美しい相貌が露となった。
腰まで流れる黒髪には、枝毛の1本もなく、一言で言うならカラスの濡れ羽色ー顔立ちも、小顔で黒々とした瞳は見る者を魅了させる力がある。唇は薄く、通った鼻筋ー完璧な美貌と言えばそうだろうかー。
だが、完璧に見える彼女の顔に、あってはならないものがある。
額の傷だー。
まるで、刀か何かで切りつけられたかのような無残な傷跡ーこれがなければ、彼女の美を疑う者はいないだろう。
「まあ、いいわ・・・それなら今は眠りなさい、水無杏里ーお前は私の可愛い傀儡・・・」
幹の中ほどから露出している彼女ー水無杏里に手を伸ばすー当然ながら、その手が届くことはないーなぜなら幹の中ほどから、水無杏里は露出しているからだ。はるか高い位置にある彼女に届くわけもない。
「姫」
背後から声がする。女性は、振り返ろうともせず、
「お前かーギムナ」
そこには、前文明時代の日本において「忍者」と呼ばれる装束を纏った者の姿があったー。
とにかく、周りの人間にあまりにも共感しすぎてしまうー自分が叱られたわけでもないのに、泣いてしまう。どんな些細なことでも気にしすぎて、結果、考えが付いていけず行動に移せないー。あまりにも敏感すぎるがゆえに、自分の行動を制限し、抑制しがちだった。それゆえ、周りの大人たちからは「おとなしい子」と評されることが多かった。
何か周囲で悪いことがあれば、自分が原因でもないのにまるで自分が悪いことをしたかのように思ってしまう。何事においても、常に自己犠牲的、自罰的ーそれは、世間一般の通念上は「いい子」であったかもしれない。
だが、彼女は自分で気が付いていたーその欺瞞に。
自分をそれ以上、傷つけないための、自己防衛として自分が無意識のうちに習得してきた、偽りの善ーまさに偽善という他ないものなのだということをー。
自分をそれ以上傷つけないがために、自分が身代わりとなる、自分を犠牲にするーその矛盾した傲慢さと欺瞞を。
そして、それは、自分が卑怯で弱いからだということも自覚している。
したがって、今ここに捕らえられているということは、その歪んだ自分に対する正当な裁きであり、戒めでもあるのだー。
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「私の可愛い傀儡・・・さあ、目を開けなさい」
空ー浮遊大陸から少し離れた場所に浮かぶ小さな浮遊島ーその中心には結晶化した樹が存在していた。七色の光沢を放つ樹ーしかし、その幹の中ほどに、本来は存在するはずのないものの姿があったー。
美しい少女だ。上半身だけが、その木の幹の中ほどから露出している。大体、へその辺りまでが幹から生えているーといった感じだ。その上半身は裸であり、年の頃は15~16といったところだが、年齢以上に豊満な乳房が一際目を引く。両腕も幹の中ーこれでは、幹に埋まっていると表現した方が、より正確かもしれない。
顔立ちは端正で、その瞳は閉じられており、かすかに開いた唇から漏れる規則正しい呼吸音が、彼女が生きたままこの木に拘束されていることを示していた。
ゆるくウェーブのかかった黒髪は、風の流れに併せて静かに靡いている。星形の髪飾りが、日の光を浴びて煌ていた。
「・・・まだ、目が覚めないようね」
この少女に覚醒を促すのは、着物姿の女性で、鈴を鳴らしたような声色をしているが、その顔に着けているのは、前文明時代において「鬼」と呼ばれたものを彷彿とさせるような、恐ろし気な形状のものだった。
ふと、女性が鬼の面を外すーその美しい相貌が露となった。
腰まで流れる黒髪には、枝毛の1本もなく、一言で言うならカラスの濡れ羽色ー顔立ちも、小顔で黒々とした瞳は見る者を魅了させる力がある。唇は薄く、通った鼻筋ー完璧な美貌と言えばそうだろうかー。
だが、完璧に見える彼女の顔に、あってはならないものがある。
額の傷だー。
まるで、刀か何かで切りつけられたかのような無残な傷跡ーこれがなければ、彼女の美を疑う者はいないだろう。
「まあ、いいわ・・・それなら今は眠りなさい、水無杏里ーお前は私の可愛い傀儡・・・」
幹の中ほどから露出している彼女ー水無杏里に手を伸ばすー当然ながら、その手が届くことはないーなぜなら幹の中ほどから、水無杏里は露出しているからだ。はるか高い位置にある彼女に届くわけもない。
「姫」
背後から声がする。女性は、振り返ろうともせず、
「お前かーギムナ」
そこには、前文明時代の日本において「忍者」と呼ばれる装束を纏った者の姿があったー。
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