百合斬首~晒しな日記~

ミケとポン太

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第2章 確かなもの

第37話 その首を・・・

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 氷上に家の中へと案内された二人。
「しっかし、お前さんマジで物怖じしないんだな・・・一応はいずれ敵になるはずの相手だぞ」
「さっきも言ったでしょう?この島にいる女の子たちは誰もが敵になる。なら、どこにも逃げ場所なんて存在しないわ・・・」
「だから、逆に誰でも受け入れるってわけか。まあ、わからなくはないけどな」
「そう言うこと・・・さあ、着いたわよ。この部屋に一応は保管してあるの」
 2階へと上がっていき、右のドアを開ける。中は書斎というべきだろうか。窓際の机の脇に、大きな段ボール箱が置いてあった。
「この中にあるわよ・・・覚悟はいいかしら?お二人とも」
 段ボールのふたを開け、を取り出そうとする氷上。心なしか、彼女の口元が歪んでいるようにも見えた。
「なるほど、アンタの戦利品はその段ボールに収めていたってわけか・・・まあ、あたしらなんて人の生首は見慣れてるし、今更怖がるようなことでもないな」
「そうっすね~あたしも昨晩お嬢様の首を公園に晒してきたばかりですし、今更って感じっすよ」
 もはや実際に狩りを経験している二人にとっては、今更驚くことでも恐怖の対象にもならない。さらに言えば、紗耶香に至っては生前に、自分の妹弟子たちを実際に斬首したという「実績」がある。
「・・・そうよね、愚問だったわ。では、見せるわよ」
 氷上はそう言い放つと、段ボール箱から両手でそれを抱え上げた。

「この子の名前は相坂光」
 段ボール箱から取り出された生首を、近くのテーブルの上に乗せ、首札をつける。
「ほほう、これはこれは・・・」
 紗耶香が即座に反応したのは、相坂の断末魔の表情についてだった。
「苦悶・・・というよりは、無念さが滲み出てる表情だな・・・なかなかいい顔だ」
 歯を食いしばり、いささか上向きの角度でこちらを睨みつけているーもはやそこに意志はないはずだが、残留思念とでもいうべきものだろうか、そこに強い何かが宿っているように感じられた。
 かつて、紗耶香はこの表情を見たことがあるー生前に、薬師寺咲那の首を刎ねた後に残されていた表情が、まさにこれだったのだ。
 ーそう、自分を見つめる「はっきりとした」表情、「強くて何もよりも明確な」最期の意志の反映ー
「いい顔・・・そういう風に言うのはあなたくらいじゃないかしらね」
「そうかぁ?」
 紗耶香にとっては、これはうらやましくなるくらいに「欲しい首」の一つだった。
「殺された今でも私につかみかからんばかりの表情をしてるでしょ?全く往生際が悪いと来たら」
 反対に、氷上にとっては不満の表情らしい。
「そう言う執念とか残してそうな顔が、あたしにとっては逆にいいんだけどな」
 ーその分、死後も相手とつながりを実感できるからなー
 最後の言葉は口に出さずにしておいた。
「まあ、あたしが殺したお嬢様はもっと安らかな死に顔でしたっすけどね。やっぱり、先輩はこういうすごい形相の首の方がいいんすか。まあ、わかってましたけども」
「ああ、そうだな・・・」
 紗耶香と葉月のやり取りを無言で聞いていた氷上だったが、気になることがあったので、紗耶香に尋ねてみる。
「ええと、一条さん・・・」
「紗耶香でいいよ・・・堅苦しいのはなしにしよう、お互い。あたしは妹弟子たちにも自分を呼び捨てにするよう言ってきた」
「なら、紗耶香と呼ばせてもらうわ・・・あなた、あの道場での事件を起こした張本人よね・・・今のこの子の首を見た時の反応から、何となくだけれど、あなたがなぜお二人を殺したのか、その動機の一端が垣間見えた気がするの」
「ほう」
 紗耶香が愉快気に口角を釣り上げる。この氷上という女、もしかしたら葉月よりも鋭いのかもしれない。
「あなたが欲しかったのは、この子のような表情・・・なのよね。いや、より正確に言えば、なんでしょう?」
 ーなるほど、確かにこいつは勘が鋭い女だな・・・直接やり合いたくはないタイプだー
 自分の心の一端を覗かれたみたいな錯覚に陥るが、さほどそれが苦にならない自分がいた。
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