百合斬首~晒しな日記~

ミケとポン太

文字の大きさ
43 / 499
第2章 確かなもの

第43話 金髪の妹弟子

しおりを挟む
 天元一刀流の道場ーそこの門下生として一緒に時を過ごしたのは、薬師寺咲那、和泉姉弟ー。
 もともと、刀剣の類にはさして興味のなかった紗耶香だったが、ひょんなことからその門下生となり、実際に竹刀を振るうようになってからは、メキメキとその実力をつけていき、ついに門下生の中では最強の位を手にしていた。
「最初は、あたしの両親もあたしが道場に通うのを怖がってたけどな」
 今にして思えば、二人の悪い予感は見事的中したと言えるのかもしれない。
 ただ、それでも紗耶香が道場に通うのを許したのは、紗耶香が「幼い頃に患っていた心の病」をと判断していたからだろう。
 実際には、年齢と共に自然治癒するような、そんな生易しいものではなかった。ただ、紗耶香は、幼い頃とは違い、周囲への合わせ方だけを学んだだけだった。相変わらず、愛情やら友情やら、そんな曖昧で希薄な感覚には何の価値も見いだせなかった。
 それでも、周りへ合わせてうまくやっている(ように見えた)紗耶香を見て、もう心の病は完治したのだーと両親は思った。もちろん、それは両親の希望的観測に過ぎなかった。
 大体、周囲の連中とどういう風にすれば合わせていくことができるのかーそういう「演技力」だけは身に着けることに成功したのだが、それはあくまでも「演技」にすぎず、相変わらずの共感能力のなさについては本人の努力で何とかなるものではなかったのだ。
 彼女の努力は、ただひたすら「演技」のために使われていたーそのことをどれほど忌々しく、そして屈辱的に思っていたのか、おそらく両親も、精神科の医者も、学校の先生も、誰も理解してはいなかっただろう。
 どんな人間でも仮面をつけて生きているーそれは、フランスのアルベール・カミュの書いた小説「異邦人」を読めばわかる。あの本の主人公「ムルソー」と自分を重ね合わせる時もしばしばあった。最後に処刑を待つだけの身となったムルソーの姿は、最終的には避けられない破滅へと向かっていく将来の紗耶香自身にも通じるところがあったのかもしれない。
 ただ、公的権力による「死刑」ではなく殺した妹弟子の身内の「私刑」によって、彼女の人生は断たれたのだが。

 紗耶香が、薬師寺咲那を犯したのは、彼女を愛していたからではなく、ただ憎まれたかったからである。傷つけ、辱められることにより、自分は相手から嫌われ、憎まれる。
 もちろん、咲那を「独占」したかったという点では、愛されるのも憎まれるのも一緒のことだ。ただ、向けられるエネルギーの明確さでいえば、愛より憎しみの方が大きかったー少なくとも、紗耶香にとっては。これほどはっきりと自分に向けられる感情は、他になかったからだ。

 薬師寺咲那が視線を向ける相手は、そのほとんどが和泉鏡香だった。光具合で髪が薄紫色に輝く、典型的な和風美人。お淑やかで優しいお姉さんとして、道場の門下生の中でも人気が高かった女性である。それは、同性異性問わずであった。
 咲那自身は、いずれは鏡香に自分の想いを告白するつもりでいたようだった。そんな咲那のことを、鏡香も受け入れるつもりでいたようだった。
 それが、なぜか紗耶香には気に入らなかったー自分でも理由はよくわからない。ただ、咲那が鏡香に「独占」されてしまうのだけはどうしても避けたくなった。
 嫉妬?普通に考えればそうだろうか・・・しかし、紗耶香自身は、別に咲那に対して「好き」という感情を抱いたことはない。それは鏡香に対してもだったが。
 ただ、咲那の視線が、特定の誰かだけに向けられるのが、なぜか認められなかった。それゆえ、自分が先に彼女を「独占」してしまいたいと思った。
 それが、彼女をレイプした動機だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】【百合論争】こんなの百合って認めない!

千鶴田ルト
ライト文芸
百合同人作家の茜音と、百合研究学生の悠乃はSNS上で百合の定義に関する論争を繰り広げる。やがてその議論はオフ会に持ち越される。そして、そこで起こったこととは…!? 百合に人生を賭けた二人が、ぶつかり合い、話し合い、惹かれ合う。百合とは何か。友情とは。恋愛とは。 すべての百合好きに捧げる、論争系百合コメディ!

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

処理中です...