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第2章 確かなもの
第43話 金髪の妹弟子
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天元一刀流の道場ーそこの門下生として一緒に時を過ごしたのは、薬師寺咲那、和泉姉弟ー。
もともと、刀剣の類にはさして興味のなかった紗耶香だったが、ひょんなことからその門下生となり、実際に竹刀を振るうようになってからは、メキメキとその実力をつけていき、ついに門下生の中では最強の位を手にしていた。
「最初は、あたしの両親もあたしが道場に通うのを怖がってたけどな」
今にして思えば、二人の悪い予感は見事的中したと言えるのかもしれない。
ただ、それでも紗耶香が道場に通うのを許したのは、紗耶香が「幼い頃に患っていた心の病」を克服したと判断していたからだろう。
実際には、年齢と共に自然治癒するような、そんな生易しいものではなかった。ただ、紗耶香は、幼い頃とは違い、周囲への合わせ方だけを学んだだけだった。相変わらず、愛情やら友情やら、そんな曖昧で希薄な感覚には何の価値も見いだせなかった。
それでも、周りへ合わせてうまくやっている(ように見えた)紗耶香を見て、もう心の病は完治したのだーと両親は思った。もちろん、それは両親の希望的観測に過ぎなかった。
大体、周囲の連中とどういう風にすれば合わせていくことができるのかーそういう「演技力」だけは身に着けることに成功したのだが、それはあくまでも「演技」にすぎず、相変わらずの共感能力のなさについては本人の努力で何とかなるものではなかったのだ。
彼女の努力は、ただひたすら「演技」のために使われていたーそのことをどれほど忌々しく、そして屈辱的に思っていたのか、おそらく両親も、精神科の医者も、学校の先生も、誰も理解してはいなかっただろう。
どんな人間でも仮面をつけて生きているーそれは、フランスのアルベール・カミュの書いた小説「異邦人」を読めばわかる。あの本の主人公「ムルソー」と自分を重ね合わせる時もしばしばあった。最後に処刑を待つだけの身となったムルソーの姿は、最終的には避けられない破滅へと向かっていく将来の紗耶香自身にも通じるところがあったのかもしれない。
ただ、公的権力による「死刑」ではなく殺した妹弟子の身内の「私刑」によって、彼女の人生は断たれたのだが。
紗耶香が、薬師寺咲那を犯したのは、彼女を愛していたからではなく、ただ憎まれたかったからである。傷つけ、辱められることにより、自分は相手から嫌われ、憎まれる。
もちろん、咲那を「独占」したかったという点では、愛されるのも憎まれるのも一緒のことだ。ただ、向けられるエネルギーの明確さでいえば、愛より憎しみの方が大きかったー少なくとも、紗耶香にとっては。これほどはっきりと自分に向けられる感情は、他になかったからだ。
薬師寺咲那が視線を向ける相手は、そのほとんどが和泉鏡香だった。光具合で髪が薄紫色に輝く、典型的な和風美人。お淑やかで優しいお姉さんとして、道場の門下生の中でも人気が高かった女性である。それは、同性異性問わずであった。
咲那自身は、いずれは鏡香に自分の想いを告白するつもりでいたようだった。そんな咲那のことを、鏡香も受け入れるつもりでいたようだった。
それが、なぜか紗耶香には気に入らなかったー自分でも理由はよくわからない。ただ、咲那が鏡香に「独占」されてしまうのだけはどうしても避けたくなった。
嫉妬?普通に考えればそうだろうか・・・しかし、紗耶香自身は、別に咲那に対して「好き」という感情を抱いたことはない。それは鏡香に対してもだったが。
ただ、咲那の視線が、特定の誰かだけに向けられるのが、なぜか認められなかった。それゆえ、自分が先に彼女を「独占」してしまいたいと思った。
それが、彼女をレイプした動機だった。
もともと、刀剣の類にはさして興味のなかった紗耶香だったが、ひょんなことからその門下生となり、実際に竹刀を振るうようになってからは、メキメキとその実力をつけていき、ついに門下生の中では最強の位を手にしていた。
「最初は、あたしの両親もあたしが道場に通うのを怖がってたけどな」
今にして思えば、二人の悪い予感は見事的中したと言えるのかもしれない。
ただ、それでも紗耶香が道場に通うのを許したのは、紗耶香が「幼い頃に患っていた心の病」を克服したと判断していたからだろう。
実際には、年齢と共に自然治癒するような、そんな生易しいものではなかった。ただ、紗耶香は、幼い頃とは違い、周囲への合わせ方だけを学んだだけだった。相変わらず、愛情やら友情やら、そんな曖昧で希薄な感覚には何の価値も見いだせなかった。
それでも、周りへ合わせてうまくやっている(ように見えた)紗耶香を見て、もう心の病は完治したのだーと両親は思った。もちろん、それは両親の希望的観測に過ぎなかった。
大体、周囲の連中とどういう風にすれば合わせていくことができるのかーそういう「演技力」だけは身に着けることに成功したのだが、それはあくまでも「演技」にすぎず、相変わらずの共感能力のなさについては本人の努力で何とかなるものではなかったのだ。
彼女の努力は、ただひたすら「演技」のために使われていたーそのことをどれほど忌々しく、そして屈辱的に思っていたのか、おそらく両親も、精神科の医者も、学校の先生も、誰も理解してはいなかっただろう。
どんな人間でも仮面をつけて生きているーそれは、フランスのアルベール・カミュの書いた小説「異邦人」を読めばわかる。あの本の主人公「ムルソー」と自分を重ね合わせる時もしばしばあった。最後に処刑を待つだけの身となったムルソーの姿は、最終的には避けられない破滅へと向かっていく将来の紗耶香自身にも通じるところがあったのかもしれない。
ただ、公的権力による「死刑」ではなく殺した妹弟子の身内の「私刑」によって、彼女の人生は断たれたのだが。
紗耶香が、薬師寺咲那を犯したのは、彼女を愛していたからではなく、ただ憎まれたかったからである。傷つけ、辱められることにより、自分は相手から嫌われ、憎まれる。
もちろん、咲那を「独占」したかったという点では、愛されるのも憎まれるのも一緒のことだ。ただ、向けられるエネルギーの明確さでいえば、愛より憎しみの方が大きかったー少なくとも、紗耶香にとっては。これほどはっきりと自分に向けられる感情は、他になかったからだ。
薬師寺咲那が視線を向ける相手は、そのほとんどが和泉鏡香だった。光具合で髪が薄紫色に輝く、典型的な和風美人。お淑やかで優しいお姉さんとして、道場の門下生の中でも人気が高かった女性である。それは、同性異性問わずであった。
咲那自身は、いずれは鏡香に自分の想いを告白するつもりでいたようだった。そんな咲那のことを、鏡香も受け入れるつもりでいたようだった。
それが、なぜか紗耶香には気に入らなかったー自分でも理由はよくわからない。ただ、咲那が鏡香に「独占」されてしまうのだけはどうしても避けたくなった。
嫉妬?普通に考えればそうだろうか・・・しかし、紗耶香自身は、別に咲那に対して「好き」という感情を抱いたことはない。それは鏡香に対してもだったが。
ただ、咲那の視線が、特定の誰かだけに向けられるのが、なぜか認められなかった。それゆえ、自分が先に彼女を「独占」してしまいたいと思った。
それが、彼女をレイプした動機だった。
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