百合斬首～晒しな日記～

第4章 更なる戦い

第473話 ゲーム会場へようこそ113

「・・・大したものね、あなたは」
　荒谷の皮肉に対して涼し気な表情を返すカヤだった。
　この程度のからくりを見抜けぬようでは風魔一族の末裔などとても名乗れないだろう。先ほど荒谷に対して言い放った言葉がすべてを物語っていた。
「・・・アンタたちのチーム、結構腕のいいメンバーが揃ってるようじゃない・・・」
　荒谷が自嘲的な笑みを浮かべながらカヤに言い放つ。
　その言葉は、何よりも荒谷自身が自分の無力さを痛感しているからこそ言えることだった。
　自分にはせいぜいこの隠れ蓑を使って姿を隠しての不意打ちくらいしか能がない。そして、それも自分の実力以上の相手には全く歯が立たないということが今回の一件で、いや、あの戸隠の一件でも痛感させられたのだった。
　荒谷は目の前の少女を見やる。この女に対抗できる実力を持つとしたら、今、あの屋敷の中にいる北条ではないだろうか。
　ー・・・何であんな奴のことを思い浮かべているんだろう、私はー
　一瞬、北条のことが頭をよぎったが、すぐに思い直したように頭を振った。
「あなた・・・私のことを狙ってたみたいだけど、それなりに覚悟はできているのよね？」
　カヤの手には、いつの間にか短刀が握られていた。その切っ先を荒谷の喉元に向けている。
「・・・くっ」
　荒谷は、観念したように目を閉じた。
　隠れ蓑の力を過信していた自分の浅はかさ加減を思い知らされた。
　昔から、安直に行動しすぎるところがあるのは、彼女の悪い癖とも言えた。そのツケがこうして今彼女を追いつめているのだった。
「あなたの首をもらうのは簡単だわ」
　カヤがさらに短刀を首筋に押し当ててくる。ひんやりとした刃を首筋にあてがわれて、荒谷の背筋に冷たい汗が流れ出た。
　ーこれで、終わりなのだろうか・・・私はー
　戦慄と諦観、そして解放感ー
　それらの複雑な感情が入り混じり、荒谷の心の中を激しくかき乱す。
　死に対する恐怖、それを諦めて受け入れる徒労感、そして、ようやくこの場から逃れられるのだという不思議な解放感。
　荒谷は、瞳を閉じると、自らの首が落とされる時を待った。
　だが、その時はなかなか訪れなかった。