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第二話 ヘタレ勇者
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「それにしても、なんとも珍妙な従者ですな。見たこともない形をしている」
カルがごちゃごちゃ言っているのを横目に、私は儀式用の服を脱いで水浴びを始めた。
この斎場には灰泥の小さな沼と、清水の湧き出る小ぶりの泉が揃っていて、私が宣託を受けるのにうってつけだった。何しろ私は、灰でドロドロにならないと占いの結果が見えてこないという変な特性を持っている。
そのため宣託の後は、灰で汚れた身体を洗って、儀式の服も汚れを落とさなきゃならなかった。毎回不便だったらありゃしない。他の人みたいに、水晶玉とか筮竹とか使えればもっと楽なのに……。
プリンが頭の上までフワフワ浮いて、手に持ったたらいから水をかけてくれる。気持ち悪い青緑色の血も、灰と泥も流れて、やっと視界がクリアになった。
私が少し頭を後ろにそらすと、プリンが髪に水をかけて綺麗にしてくれる。お尻の下まである長い金髪を軽く揺すって水を落とす。
「はぅっ! あわわ、ふぅうぅぅう~」
変な息遣いが聴こえる。まったく、この団長様はさっきからほとんどまともな言葉を発してないわ。
「今度は何かしら? えーと、ルース様?」
「あっ……あの……だって、はだか……っ」
「女の裸くらいで何をオロオロしてるの? 仮にも世間に名を馳せた勇者様だもの。見慣れてるでしょ? 望みのままに何人もの美姫を侍らせてそうだし」
「そっ、そんなハレンチな事はしてません。大体そういう事には奥手な方で……」
そう言って恥ずかしそうに、両手で真っ赤な顔を覆ってるけど、指の隙間からしっかりこっちを見てる。私は呆れて大きくため息をついた。
我ながら立派に育ったバストがプルンと揺れる。ルースは「うごっ」と変な声を上げると地面にしゃがみこんだ。
「あああ……あなたは恥ずかしくないんですか⁉ こんな人前でっ」
今度は腕で顔を覆ってルースが言った。でも腕の間からガッツリ見てるわね。
「だって仕方ないじゃない。灰と泥はいつもの事だからまだしも、血は気持ち悪いし早く洗いたいもの。あ、そうだわ。股間が」
「こっ、股間!?」
「ええ。股間にも灰と泥がついてしまってるから、良く洗いたいの。出来れば後ろを向いてほしいわ、さすがに」
「はっ、はい! スミマセン……」
ルースは座ったままゾリゾリ音を立てて身体を回転させた。そのまま縮こまって下を向いている。案外いい人かも。
デリケートゾーンをしっかり洗ってから、私は泉から出た。カルがルースのそばで翼をバタバタ上下させる。
「おお、お美しい! 金の髪と玉のようなお肌が輝いている。まるで天女のようですぞ、ルース様!」
「くぅ! 見たい! 後でデータ送ってくれ。カル」
え、この二人そういうシステムなの? どんな能力なのかしら、一体。
私はプリンが運んでくれたタオルで身体を拭き、普段の服に着替えた。外出用の華美でないドレスと、足元は土の道を歩きやすいよう、低い靴を履いている。
「さ、もうこっちを見てもよろしくてよ」
私が言うと、ルースは立ち上がって、おずおずとこちらを振り返った。
クリアな視界で改めてルースをしっかり見ることができた。青灰色の髪は旅の間に伸びてしまったのかボサボサしている。顔立ちはまぁ……近衛師団につくことが出来るだけあってイケメンね。しかも超がつくほどの。
年はいくつなのか不明だけど、バツが悪そうに逸らされた目は青みがかったエメラルドグリーンだ。彼のミドルネームをつけた親の気持ちが分かる気がした。
身長は私より二十センチ以上高い。マントのせいで体形はよく分からない。
「まずはお礼を言わせてください。妖魔から助けてくださり、ありがとうございます」
私はルースに向かって深々と頭を下げた。小さいころから叩き込まれた、スカートを両手でつまんで持ち上げ、頭を深く下げる形の、最上級のお辞儀だ。なんといってもこの方は命の恩人。心からの謝意を述べた。
「い、いえ。俺はそこまで大したことはしてません。どうせ俺なんて妖魔を切るくらいしか役に立たないし……」
肩をすぼめて、大きな体を小さくしながらルースが言う。もう、謙遜を通り越して卑屈にすら見えるんですけど。
「ところで、何の御用ですの? ルース様。はるばるベリル王国からこんなところまで私を訪ねて下さったのは、何か大きな戦いの宣託を受けたいとか?」
「あ、あの……俺の事はルースでいいです。こんなゴミみたいな人間は呼び捨てで充分だ」
私はもう、完全に呆れかえった。かの大国の近衛師団の団長、並ぶもの無き勇者ルースがまさかこんな陰キャとは。
「アリシア様、ルース様がそこまでビビりなのには理由があるんです」
カルがパタパタと飛び上がり、ルースの肩に止まって言う。まさかさっきの続きで、ルースの両親が出会ったところから語るつもりかしら……。
「カル様。できれば要点のみお話いただけませんか?」
先手を切って私が言うと、カルは不満そうに頭を傾けた。
「仕方ないですね。では理由のみお伝えします。ルース様には勇気がないんです」
「……? 勇気が? ない?」
「そうです。ルース様は勇気がスッカラカンなんです」
ほんとに要点のみだわ、この従者。
カルがごちゃごちゃ言っているのを横目に、私は儀式用の服を脱いで水浴びを始めた。
この斎場には灰泥の小さな沼と、清水の湧き出る小ぶりの泉が揃っていて、私が宣託を受けるのにうってつけだった。何しろ私は、灰でドロドロにならないと占いの結果が見えてこないという変な特性を持っている。
そのため宣託の後は、灰で汚れた身体を洗って、儀式の服も汚れを落とさなきゃならなかった。毎回不便だったらありゃしない。他の人みたいに、水晶玉とか筮竹とか使えればもっと楽なのに……。
プリンが頭の上までフワフワ浮いて、手に持ったたらいから水をかけてくれる。気持ち悪い青緑色の血も、灰と泥も流れて、やっと視界がクリアになった。
私が少し頭を後ろにそらすと、プリンが髪に水をかけて綺麗にしてくれる。お尻の下まである長い金髪を軽く揺すって水を落とす。
「はぅっ! あわわ、ふぅうぅぅう~」
変な息遣いが聴こえる。まったく、この団長様はさっきからほとんどまともな言葉を発してないわ。
「今度は何かしら? えーと、ルース様?」
「あっ……あの……だって、はだか……っ」
「女の裸くらいで何をオロオロしてるの? 仮にも世間に名を馳せた勇者様だもの。見慣れてるでしょ? 望みのままに何人もの美姫を侍らせてそうだし」
「そっ、そんなハレンチな事はしてません。大体そういう事には奥手な方で……」
そう言って恥ずかしそうに、両手で真っ赤な顔を覆ってるけど、指の隙間からしっかりこっちを見てる。私は呆れて大きくため息をついた。
我ながら立派に育ったバストがプルンと揺れる。ルースは「うごっ」と変な声を上げると地面にしゃがみこんだ。
「あああ……あなたは恥ずかしくないんですか⁉ こんな人前でっ」
今度は腕で顔を覆ってルースが言った。でも腕の間からガッツリ見てるわね。
「だって仕方ないじゃない。灰と泥はいつもの事だからまだしも、血は気持ち悪いし早く洗いたいもの。あ、そうだわ。股間が」
「こっ、股間!?」
「ええ。股間にも灰と泥がついてしまってるから、良く洗いたいの。出来れば後ろを向いてほしいわ、さすがに」
「はっ、はい! スミマセン……」
ルースは座ったままゾリゾリ音を立てて身体を回転させた。そのまま縮こまって下を向いている。案外いい人かも。
デリケートゾーンをしっかり洗ってから、私は泉から出た。カルがルースのそばで翼をバタバタ上下させる。
「おお、お美しい! 金の髪と玉のようなお肌が輝いている。まるで天女のようですぞ、ルース様!」
「くぅ! 見たい! 後でデータ送ってくれ。カル」
え、この二人そういうシステムなの? どんな能力なのかしら、一体。
私はプリンが運んでくれたタオルで身体を拭き、普段の服に着替えた。外出用の華美でないドレスと、足元は土の道を歩きやすいよう、低い靴を履いている。
「さ、もうこっちを見てもよろしくてよ」
私が言うと、ルースは立ち上がって、おずおずとこちらを振り返った。
クリアな視界で改めてルースをしっかり見ることができた。青灰色の髪は旅の間に伸びてしまったのかボサボサしている。顔立ちはまぁ……近衛師団につくことが出来るだけあってイケメンね。しかも超がつくほどの。
年はいくつなのか不明だけど、バツが悪そうに逸らされた目は青みがかったエメラルドグリーンだ。彼のミドルネームをつけた親の気持ちが分かる気がした。
身長は私より二十センチ以上高い。マントのせいで体形はよく分からない。
「まずはお礼を言わせてください。妖魔から助けてくださり、ありがとうございます」
私はルースに向かって深々と頭を下げた。小さいころから叩き込まれた、スカートを両手でつまんで持ち上げ、頭を深く下げる形の、最上級のお辞儀だ。なんといってもこの方は命の恩人。心からの謝意を述べた。
「い、いえ。俺はそこまで大したことはしてません。どうせ俺なんて妖魔を切るくらいしか役に立たないし……」
肩をすぼめて、大きな体を小さくしながらルースが言う。もう、謙遜を通り越して卑屈にすら見えるんですけど。
「ところで、何の御用ですの? ルース様。はるばるベリル王国からこんなところまで私を訪ねて下さったのは、何か大きな戦いの宣託を受けたいとか?」
「あ、あの……俺の事はルースでいいです。こんなゴミみたいな人間は呼び捨てで充分だ」
私はもう、完全に呆れかえった。かの大国の近衛師団の団長、並ぶもの無き勇者ルースがまさかこんな陰キャとは。
「アリシア様、ルース様がそこまでビビりなのには理由があるんです」
カルがパタパタと飛び上がり、ルースの肩に止まって言う。まさかさっきの続きで、ルースの両親が出会ったところから語るつもりかしら……。
「カル様。できれば要点のみお話いただけませんか?」
先手を切って私が言うと、カルは不満そうに頭を傾けた。
「仕方ないですね。では理由のみお伝えします。ルース様には勇気がないんです」
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