小さな死神と老いた魔術師

樫吾春樹

文字の大きさ
21 / 24
第二章 共に過ごした二つの刻

第十八話

しおりを挟む
 何とか暗くなる前にシュッドに辿り着き、今日泊まるための宿を探していた。どこかに泊まれる所は無いものかと辺り見回していると、道路に出店を出している男性に声をかけられた。

「そこの人、寄ってかないかい?」

 少しくらいは良いかと思いながら、私は声の主の方へと向かう。

「お宅、旅の人だろ?」
「はい、ちょっと観光に。あとサントルにも行きたくて」
「サントルか。行くには通行許可書がいるって知ってるか?」
「知ってはいるが、どこで手に入れたらいいんだか……」
「それなら、俺のとこで売ってるぜ。いかがですかい?」
「それは嬉しい、いくらだ?」
「これくらいになるな」

 彼から提示された金額は比較的良心的なもので、私は許可書を購入するためにお金を支払った。

「ほい、これが許可書だ。これで、サントルにも行けるな」
「ありがとう」
「あと、お宅。ちょっと耳貸しな」

 何だろうかと思いつつも、私は身を乗り出して話を聞くことにした。すると、彼は小さな声で「気を付けて行動しろよ、同業者」と伝えてきた。なるほど、彼も魔術師なのか。彼に小さく頷き、離れた。

「兄さん、名前は?」
「俺か? 俺はノエル。ただの商人さ」
「そうか。ありがとう、ノエル」
「おう。また来てくれよな、旅人さん」
「また来るさ」

 許可書も無事に手に入れることができ、私は再び宿を探すことにした。少し森の方へと戻りながら、どこかないものだろうかと探していく。森の近くの方が明日の予定が楽になるから、そっちの方で見つけられると良いのだが。歩きながら周囲を見回し、泊まれそうな場所を探す。

「あの宿が良さそうだな」

 歩き続けて見つけたのは、街外れの方にひっそりと建っている小さな宿だった。古いながらも趣があり、目的の場所からもそこまで離れていなかった。その宿へと入り受付を済ませ、渡された鍵で指定された部屋へと入る。中はそこまで広いわけではないが、一人で過ごす分には悪くない広さだった。鞄の中から、昨日作り出した宿泊用のものを取り出し、まずは汗や汚れを流すために浴室へと向かった。

 風呂から上がり座椅子に腰かけ、私は明日の行動を再確認していた。午前中のうちに残り二カ所の水晶を起動させてから、サントル地区へと入る予定でいる。そして、中央にある巨大な時計塔に入り、術を完成させるまでは気を抜けない。問題なのは時計塔の中に入るためには、厳重な警備を掻い潜らなければならないようだった。掻い潜れたとしても塔の頂上へと登る必要があり、私の老体でそれをおこなうのは簡単なことではなかった。

「頂上に行くにはどうにかなるとして、どうやって塔の中に入るかだが……」

 また、気配を消す魔術でも行うか。それとも、別の術で通り抜けるか。明日のことを考えながら、気づけばそうやって時間は過ぎていった。

 まだ薄暗いうちに宿を出発し、五つ目の水晶の場所へと私は向かった。エストからこちらに向かう森の付近に、その場所はあるはずだった。木々の間を歩いているとそれらしき洞窟を見つけ、私は中へと入り奥へと進んで行き最奥に水晶があるのを見つけた。

「これで五カ所目。残りは一カ所か……」

 手早く水晶を発動させてから洞窟を抜け、最後の場所へと向かう。六カ所目はウエスト地区との境にある森の中にありここからはそこそこ離れていて、歩いて一時間くらいかかるだろう。私は一旦街の方へと戻りながら、ウエストの方へと進んでいった。途中で、休憩のためにベンチに腰掛けたりして身体を休ませつつ、確実に目的地までの距離を短くしていく。

「私も随分と歳を取ったものだな……」

 普段から庭の野菜などの手入れをするために体力は付けてはいたものの、一昨日から歩き続けていて膝が痛くなっていた。

「早めに出て来て正解だったな」

 休憩し終え再び歩きはじめ、まだ人通りの少ない街を歩いていく。昼間は人が多く通りも賑わっているのだか、やはり朝のこの時間は静かで寝ている人も多いようだ。そんな静かな街を通り抜けて、私は西の方へと進む。

「もうすぐだと思うんだがな」

 森の付近を歩いていると魔力の濃い箇所を見つけて、私はそちらの方へと向かっていった。するとそこには、岩影にひっそりと佇む水晶があった。近付いては呪文を唱えて紋様が浮かんでくるのを待ち、術に水晶が反応して魔法陣が広がっていった。

「あとは、時計塔で術を完成させるだけだな……」

 広がった魔法陣を確認して、私は来た道を戻っていく。サントルに行くには、それぞれの地区から一カ所だけ通行できる門があり、その場所以外の場所からは高い壁が立ちはだかり通ることができなくなっている。そして、通行許可書が無い人は追い返され、逆らえばその場で捕まってしまうのだとか。

「許可書も手に入れたし、そうならないはずなんだがな」

 森から抜けて門の前に辿り着き商人から買った許可書を見せてから、私はサントルを囲むように作られた壁の中に足を踏み入れる。

「あの時計塔も、ここに入ってから眺めると一層大きいな」

 この街のシンボルである巨大な時計塔は、他の地区からでも見えるほどに大きなものなのだが、ここで見るとその迫力は段違いだった。

「いけない、見上げている場合じゃなかったな」

 最終目的の場所は案外簡単に辿り着けそうで安心した半面、ここの地区のことだからそう簡単には入れないだろうと考えていた。とにかく今は、見えているがまだ遠い場所に辿り着くのが先だ。

ゴーンゴーン

 私が色々と考えていると、正午を告げる鐘の音が聞こえてきた。それと同時に、魔力の波動のようなものが襲い掛かってくるのを感じた。

「そうか、あの塔はそのための装置か……」

 何故、この街の古い文献を調べている時に時計塔のことが出てきたのが気になっていたが、これで意味がやっとわかった。あれは巨大な増幅装置であり、この街を支えるための要になっているようだった。きっと、あの塔の頂上には魔力炉となる物があるのだろう。

「本当によく考えられてるな……」

 水晶のあった位置に、それぞれの土地が持つ属性。そして、中心となる場所に建てた巨大な時計塔。昔の魔術師達は、いつかこういうことが起きることを予想していたのだろうか。

「なら、その知恵を借りることにするか」

 少し口元を上げながら、私は最後の目的地へと歩いていく。コトリが言っていた時間まではあと僅か。どうか、無事完成させることができると良いのだが。進んでいく足はだんだんと早くなり、人にぶつからないように街中を駆け出していた。

「頼む、どうか間に合ってくれ」

 家族と、コトリと共に過ごしたこのリーヴルの街。周りの人々は私を魔女だと言い怖がるが、せめて思い出の多いこの街を守ることくらいは許してくれ。心の中ですがるように願いながら、時計塔の麓へと辿り着いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...