立方世界 呪われた子

大秦頼太

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呪われた子 5

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 森の中に小さな村があった。簡素な木の家が数件建っている村だったが、周囲を頑丈な木の塀が覆っていた。
 小隊が村の中に入ると、村中の人間が出迎えに出てくる。マムルは広場までやってくると隊に指示を出した。
「セヴルはここで荷物番をしろ。あとの奴は自由にしていいぞ」
 マムルはそう言いながら、村で一番の大きな木の家に入っていく。その姿が消えるのを待って男たちは動き出す。あばら家のような家に入っていく者、入り口で家族が迎えてくれる者、村の隅にテントを張る者と、様々だった。
 セヴルはつまらなそうな顔をして広場に集められた荷物の前に立っていた。
「ガキ。うちの人は?」
 太目の中年女がセヴルに近づいてきた。その目は、不安に満ちていた。
「九人死んだ」
「うちの人もかい?」
 小さくうなずくセヴルに分厚い平手打ちが飛んでくる。荷物の中に埋まるセヴル。ようやく体を起こすと、中年女の真っ赤な顔が目の前にあった。
「何でうちの人が死ぬんだい! 代わりにお前が死ねばよかったのに」
「新入りに馬鹿がいたせいだよ」
 セヴルは村の端のテントを張る男たちを顎で指した。中年女はどすどすと音を立ててテントの方へ歩いていった。怒鳴り声と男の悲鳴が聞こえた。
 左手で口をぬぐう。かすかに血がついていた。
「くそっ……」
 そこへレハが近づいてくる。その涼しげな顔を見て、セヴルは下唇を噛んだ。
「災難だったな」
 声まで余裕たっぷりでセヴルはさらに左手を握り締める。
「何の用だよ」
「なぁ、前にも言ったが、俺はここを出るぜ。俺についてこないか? 町で家を買ってそこを拠点に世界を旅しようぜ」
「箱の中を旅しても面白くもないだろ。馬鹿じゃねえの」
 レハに背中を向けると荷物を無理やり見つめた。レハはかまわずに話し続ける。
「本当に箱の中にいるのか知りたくないのか? 親だって捜せるぜ」
 セヴルは振り返ってレハを突き飛ばした。倒れこそはしなかったもののレハは驚いてセヴルを見つめた。
「だから、なんでレハなんかと一緒に行くんだよ」
「まぁ、そうなんだけどよぉ。ここでは辛く当たって悪かったと思ってる。俺ら年が近いだろ? だからさ……」
「信用してない奴なんかと一緒に旅なんか出来るかよ」
「……ああ、そうだな。わりぃ」
 頭をかいて次の言葉を捜しているレハにセヴルは左手を振り回す。
「行けよ。行けよ!」
 レハは少し離れてから振り返る。その顔にさびしげな表情が見え、セヴルはどきりとした。
「俺は、今日脱退署名を書く。そしたら、守銭奴のマムルも損をしないしな。円満解決だ。……お前は、ここにずっといる気か?」
 レハから視線を外し、地面を見る。
「……他に行くあてなんか無いだろ」
「あきらめた奴には、つまんねー人生しかやってこないぞ」
「最初から期待なんかしなけりゃ、あきらめることも無いだろ。ほっといてくれよ」
 木の家からマムルと老人が出てくる。
「話はついた。セヴル! 袋を持って来い」
「はい、マムル様」
 セヴル、大きな袋を担ぎ上げてマムルの元に歩いていく。レハはそれに背を向けて歩き去った。
 マムルは目の前に降ろされた袋を開くと、中から輪っかを五つ取り出し老人に渡す。
「死んだ奴の家族に手当てを出さなきゃならんから、今回はこれだけしかやれないが」
「いつも悪いな」
「この村あってのマムル小隊だからな。いいんだよ。下げ方を間違えるなよ」
「わかってる。……ここももう少し豊かになればな」
「なあに。あと何回か輪っかを集めれば、ここももっと大きく出来るさ。あんたも村長から町長に格上げだ」
「……向こうの村で、蟲が出たというぞ? ここは大丈夫なのか?」
「蟲除けの方法も知らない連中が作った村さ。こことは違うよ」
 セヴルはマムルの後ろで、その話を聞いている。
「なんだ? まだいたのか?」
「荷物、どうすればいいですか?」
「すぐ行く。待ってろ」
「はい」
 セヴルは、再び荷物の元に戻っていく。マムルと村長の会話が、背中越しに聞こえてくる。
「まったく、どうにも使えない奴だ」
「それなら捨ててしまえばいいのに。あの腕じゃ、重い荷も運べまい」
「とんでもない。輪っか集めに使うなら、一生使える。金を稼げないんだから、出て行く心配もない。いい拾い物をしたと思ってるよ」
 大笑いするマムル。村長もつられて笑う。
「まったく商売がうまいもんだ」
村長がマムルの肩をたたく。マムルも抱えるように村長の肩を叩き返す。
「あんたもな」
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