立方世界 呪われた子

大秦頼太

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呪われた子 18

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 草原を歩く人影。天空の太陽の光はこれから大きく広がっていくのだろう。まだまだ細い光であったが、草原を照らす光としては十分だった。腰ほどの高さまでに茂った草の合間から、時々グロウの頭が見え隠れする。
 バリュフは一番前を歩いている。手には何も持たずに小さな背負い袋を持っているだけだった。何気なく話をする様は、なんでもない日常毎の様だった。
「世界は箱の中にある。これは誰が初めに言ったのかは知らないが、今ではどの書物にもそう書かれている。多くの旅行記にもそう書かれているからね」
 セヴルは左右を見ながら輪っかを握り締めていた。前を歩くグロウは背中の荷物と重なっていて、荷物が動いているようにしか見えない。
「本なんて見たことない」
「本は見るものじゃなくて読むものよ」
 ガリウスの前を歩くサアラは、セヴルを明らかに馬鹿にしている。
「古の旅人はね、大地を分ける門を見て、その目の前に広がる世界を見て驚愕したとそうだよ。草原の大地の果てにそびえ立つ断崖は、どこまでもはるかに高かった。先が霞んで見えなかったって言うからね。そして、それが隣り合う石の大地であることに旅人はさらに驚いたと言うんだ」
 バリュフの歩みは快調だった。セヴルは時々グロウを抱えて差をつめる。
「横なのに落ちて来ないんだ」
「先生の話は最後まで黙って聞く。じゃないと、すねちゃうよ」
「門をくぐれば断崖が地面になり、地面であった草原の大地が世界を隔てる壁になる。旅人はこの光景を目の当たりにし、神の存在を感じたそうだ。昔の人は純粋だよね」
「神ねぇ。悪魔なら以外に近くにいたりしてな」
 セヴルは後ろを歩くガリウスに言葉を投げる。ガリウスは一歩前を歩くサアラをチラ見してうなずく。
「それ、同感です」
「悪魔なんてそう簡単に見つかるわけ無いじゃない。バカじゃない何言ってるの」
 バリュフの説明は続く。
「私たちの大地は四つの大地に接している。そして、これを全体で見れば箱の中にあるような形になっているんだね。そして、箱の中は六つの大地からなっているんだ。緑の大地、火の大地、石の大地、水の大地、光の大地、そして、闇の大地」
 セヴルは首をかしげる。
「草の大地がないな」
 横を歩くグロウがセヴルの手を引く。
「緑の大地は、今は草の大地と呼ばれているんだ」
「草原は南の闇の大地との接点の湿地帯に多かったんだ。元々緑の大地には森林が広がっていたんだけどね。闇の大地の侵食と、光の大地の影響で緑の大地の森林は徐々に失われつつあるんだ。それに蟲が出てしまっては、生き物の生活圏も奪われていく一方だ」
「待ってよ。何で、聖地が悪者扱いされんのよ」
 サアラがバリュフに文句をつける。飛び掛っていきそうな勢いをガリウスが引き止める。
「光の大地が寒いからですね?」
「そう。あんまり寒いと植物って育たないでしょ? そのうち闇の大地の影響で蟲が生まれた。蟲は、草原の草を食べ、その糞や死骸が大地を腐らせた。腐った大地には何も生えないから人間は農地や町を増やすために森を削ったんだ」
「ちょっと待った。蟲が食うのは人間だろ?」
 セヴルが口を挟む。バリュフは振り返って手を振った。
「それがね、虫が人を食べるようになったのは、ごく最近なんだ。と言っても、数年というところだけどね。最悪なことに大地が腐ると、闇の侵食はさらに強く深まっていく。闇の影響が強ければ、蟲の数も増える。蟲の数が増えれば、草原が消える」
「草原がなくなったら、蟲も増えないんじゃないか?」
 セヴルの声にバリュフも大きくうなずく。
「でも、この大地には人間がいるだろう?」
 グロウが脇から声を出す。
「人間が、木を切っちゃうから、草原が増えるんだよ」
「そして、そこに蟲がやってくると言うことなんですね?」
 ガリウスが手を叩いた。バリュフは満足そうな顔で指を鳴らす。
「その通り。あとはその繰り返しだね。ちなみにこんなことがあってから、緑の大地は草原の大地と呼ばれるようになったんだ」
「なによ、聖地はちっとも悪くないじゃない」
 サアラはむすっとした顔でバリュフを非難する。バリュフも大げさに両手を広げてみせる。一向はすでに立ち止まりながら話に熱中していた。
「光の大地は、自分を守ることだけを考えているのさ。光の大地の影響によって、草原の大地の気温が下がり、闇の侵食は緩やかになった。代わりに草原の大地の北側は氷で閉ざされた」
 荷物を足元に置くバリュフの様子を見ながらセヴルは気になっていたことを尋ねてみる。
「蟲は何故、人を襲うようになったの?」
 急にバリュフの顔が真面目になった。声のトーンがやや低くなる。
「そうだね。これは私の仮説なんだけど……」
「仮説なんだけど?」
 サアラが興味深げにバリュフを覗き込んだ。
「草を食べるのに飽きちゃったんじゃないかな?」
「ふざけんな!」
 サアラがバリュフを蹴飛ばす。草の中に転がったバリュフが人の悪そうな笑顔を見せる。
「さ、ここらで少し運動でもしようか」
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