立方世界 呪われた子

大秦頼太

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呪われた子 22

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 22

 セヴルはベットの脇に腰掛けていた。顔色はもう大分落ちついていた。
 バリュフは壁に寄りかかっていたが、ガリウスが椅子を持ってくるとそれを受け取って座る。
「大丈夫かい?」
「うん」
 セヴルがうなずくとバリュフは少し安心したように笑って見せた。ため息をついてサアラがセヴルの肩を叩く。
「もうあんな無茶しないでね。みんなが迷惑するから」
「どうだい? 足りないものが分かったかい?」
 バリュフがセヴルの顔を見る。セヴルは彼を見返す。
「まぁ、色々とね」
「あんたには、人の心が足りないわ」
 サアラがバリュフを指差し非難する。セヴルは部屋の中を見回すと、グロウがいないことに気がついた。
「グロウは?」
「買い物に出てる」
「人使いが荒いね」
 セヴルが笑うと、バリュフは目を背けた。
「一応、弟子だからね」
「それで、蟲使いに繋がるものは見つかった?」
 サアラがバリュフに詰め寄る。
「気になる話はあったかな」
「どんな話?」
「村人がいなくなるって言う話。聖堂にも大勢の怪我人がいたんだろう?」
「はい」
 ガリウスがうなずく。
 セヴルは、草原の近くの村のことを思い出した。足長の蟲の出た村だ。
「蟲の仕業……」
「おそらくね」
 バリュフは腕を組んで目を閉じる。
「じゃあ、のんびりしてられない。行こう」
「まあまあ、落ち着きなさい」
「だって放っておけないだろ」
 立ち上がるセヴルをサアラが座らせる。一瞬、抵抗を見せるがサアラが拳を握るのが見え手おとなしくなった。
「まったく、懲りてないのね」
「蟲を倒していれば平和になるだろ」
 セヴルは床を見つめながら呟いた。バリュフは鼻で笑った。
「君は単純だね」
「今度こそ死ぬんじゃない?」
 サアラが呆れたような口調で言うと、ガリウスがセヴルの助っ人になった。
「僕も、蟲を倒したほうがいいと思うな」
「どうして?」
 信じられない。サアラの顔にはそう書いてあった。それでもガリウスはあきらめなかった。笑顔になって力強くうなずいてみせる。
「困っている人を助けるのが、僕らの使命だから」
「こいつは関係ないでしょ」
 サアラはセヴルを強烈に指差す。ガリウスはかまわずに続けた。
「でも、あの外殻を貫けるのは、セヴルしかいないんだ」
「そういえば、何で折れた剣であんなに硬いものが斬れるのよ」
「この手の力さ」
 サアラの問いにセヴルはすぐに答える。側で見ていたバリュフが苦い顔をする。
「手?」
 セヴルは右手に布を握ると、ベットの角を切って見せる。ガリウスとサアラが驚き、飛び上がる。
「ど、どうなってるの?」
「俺にもわからないけど、握ったものは何でも刃物になるんだ」
 ガリウスがベッドの角を拾い上げる。
「何でも?」
「何でも」
 サアラは口をあけたまま呆然としてる。ガリウスは驚きを抑えられない様子で次々に聞いてくる。
「棒切れや、シーツも?」
「握れれば」
「この宿も?」
「宿は無理かな」
「何でもじゃないじゃない」
 驚きながら強がって見せるサアラ。
「うるさいな」
「うるさいとは何よ。人が興味を持ってあげたのに」
「前に柱を握ったんだけど、その時は何も変化がなかった」
 ガリウスとサアラの声に徐々に熱が入ってくる。
「じゃあ、人間は?」
「やったことないよ」
「自分を持ってみたら、どうなるの?」
「それもやってみたことないな」
「試してみましょう」
「お前ら、面白がってるだろう」
「いや、これも調査だからさ」
「そうよ。調査よ、調査」
 二人の目は、とても楽しそうだった。
「じゃあ、私はその間、休ませて貰おうかな」
「バリュフ」
「何か?」
「元気がないみたいだけど、何かあった?」
「……寝不足なだけさ」
 バリュフは部屋を出て行く。
「変なの」
「あの人、いつも変じゃない。まともな時なんてあるのかしら?」
「それは言い過ぎ」
「だって、しゃべり方って言うか、声もおかしいでしょ。二重になって聞こえるって言うか、妙に近い感じがして気持ちが悪いもの」
「あの人、舌が二つあるからね」
「嘘!」
 サアラが驚きの表情を見せる。
「そういえばそうだったね」
「何でそんな面白いこと言ってくれなかったのよ!」
 サアラはガリウスの肩を前後に振る。ガリウスの首がガクガク揺れる。
「気がついてるかと思って」
 サアラはそのままガリウスを投げ捨てると、ターゲットをセヴルに絞った。
「まあいいわ。とりあえずいろんな物を持って遊んで……、いえ、調べてみましょう」
「今、さりげなく本音が聞こえた気がするんだけどな」
 三人は、互いにけん制しあうように笑いあった。
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